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50歳で100mile走る - 「ゾーン」再来のマウントフジ100 -

「ゾーンに入る」、「フロー状態」、「覚醒モード」等、言い方は様々ですが、昨年に続き、マウントフジ100で、2度目のゾーン体験が出来ました。日本最大のトレイルランニング大会ゆえの、独特の高揚感が、私をゾーン状態に導いたのでしょうか。来年も再現できることを願って、ゾーン状態発動までの状況を、記録しておきたいと思います。


「ゾーン」とは

ゾーン体験とは、一種の心理学的な状態で、通常はスポーツや芸術などの活動中に現れる集中力や没入感の高い状態を指します。この状態では、個人は外部の刺激に対して高い注意を払い、時間の感覚が歪んだり、周囲の出来事が意識から排除されることがあります。また、この状態では自己意識が低下し、活動に完全に没頭することができます。一部のアスリートや芸術家は、ゾーン体験が彼らの最高のパフォーマンスを引き出すための重要な要素であると考えています。(ChatGPT)

ゾーン入りまでの経緯

今回のレースで、ゾーン状態が発生したのは、スタートから29時間後、第6エイド山中湖きららを出て、125キロ地点の明神山への登りの最中でした。(コースマップ参照

前日深夜0時のスタート前、仮眠中に体を冷やしてしまい、腰痛で前屈が出来ない状態。今回は完走は無理かもしれないと、本気で思いました。Wave2からのスタートでしたが、マイペースを保つことを心掛け、後から来る Wave3, Wave4 のランナー何百人に抜かれようとも焦らず、そのうちに腰痛が引いてくれることを願いながら、淡々と進みました。
ところが、60キロ地点の竜ヶ岳まで進み、開けた山頂からの絶景に気をよくして、つい、下りを暴走。その結果、97キロ地点の第4エイド北麓公園に着く頃には、胃のトラブルで全く走れない状態になり、リタイヤも覚悟しました。
胃の復活を待つこと1時間半、ようやく食欲が少し戻って補給、今度こそ、きちんとマイペースを守って、無駄に心拍数を上げないよう肝に銘じ、スタートから22時間30分に、レースを再開しました。

北麓公園から山中湖きららまでは、3つの山越えを含む25キロ。2日目の0時にスタートしたばかりの KAI 70 の選手に次々と追い抜かれますが、それに釣られてペースを上げれば、胃痛の再来は確実。胸に手を当てて、出来る限りの深い呼吸を繰り替えし、「心拍上がるな、心拍上がるな」と念仏を唱えながら進み、夜が明けるころ、山中湖エイドに到着しました。幸い、胃痛は再発せず、食欲もあり、豚汁とおにぎりを完食。体を冷やさないよう、休憩せずにすぐに出発しました。

明神山までは、火山砂礫の単調な登りが2キロほど続きます。ゴールまであと40キロ余り、しかも石割山、杓子山、霜山と、終盤にキツイ登りが続くので、ここで無理する必要は全くありません。「心拍上がるな、心拍上がるな」の念仏と深呼吸を繰り返します。Garminは節電目的でUltra Trailモードにしてあり、心拍数の計測はしていません。ひたすら自分の感覚で、心拍数を測ることに集中しました。

ゾーン状態発生

明神山の頂上に近づく頃、あることに気付きました。心拍数を抑えてゆっくり登ることに集中する為、他の選手の邪魔にならないよう、並走する別ルートを進んでいたのですが、いつの間にか、他のランナーと同じペースで登れていました。腰痛も消え、疲労感や、筋肉痛もありません。これはもしや、去年、147キロ地点の最終エイド富士吉田で発生したのと同じ状態では?
山頂で身支度を整えて、少しずつ、下りでスピードを上げてみます。その際も、「心拍上がるな」の念仏と深呼吸は続けます。
駆け下ってみて、息の乱れはありません。次は登り。呼吸を乱さず、心拍上げず、ゆっくり登り始めると、他のランナーをどんどん追い抜けます。
ゾーン状態発生を、確信しました。
しかも、これから一番キツイはずの石割山と杓子山の前のゾーン入りです。ここを疲労感無しに切り抜けられるなら、最高のタイミングです。
山伏峠まで一気に駆け下り、石割山への泥壁を楽々越えて、二十曲峠のエイドは水だけ補給して休憩せず、杓子山の岸壁で発生した渋滞に捕まるまでの間、至上の幸福感に包まれながらの爆走でした。

ゾーン状態の持続時間

杓子山手前で発生した渋滞で、1時間ほど足止めを食いました。一番の心配は、せっかくのゾーン状態がいつまで続くかでした。幸い、渋滞解消後もゾーンは継続。富士吉田エイドまで一気に駆け下り、吉田うどんを補給して霜山へ向かいます。ゾーン発生から7時間ほど経過、霜山の登りに入り、まだゾーン状態維持を確認、ここで実験を試みます。ゾーン状態は、念仏を唱えて心拍数を抑え、深呼吸を繰り返すことで維持してきました。暴走といっても、深呼吸が出来ないほどにペースを上げることはしませんでしたが、敢えて、そのペースを上げてみました。すると、たちまち脚に乳酸が溜まる感覚がありました。霜山を登り切って、ゴールまであと9キロ。ここでゾーン終了は勿体ない、念仏と深呼吸に再度集中します。
天上山を通過し、富士急ハイランドへ向かうロードに出たところで、遂にその時が訪れました。発生から約9時間後、魔法が解けて普通のおじさんランナーに戻り、トボトボとゴールまでの5キロの道を歩いて行きました。

ゾーン入り方法の仮説

同じレースで2年続けてゾーンを体験するという幸運に恵まれたことで、その再現方法についての、自分なりの仮説が生まれました。

  • 呼吸:3~4秒間隔の深呼吸を、繰り返す。

  • 心拍:時計では無く、自分の感覚で、心拍数を抑える意識を続ける。

  • 暗示:心臓に「心拍上がるな」と語り掛け続ける。

疲労感は、外的ストレスに対する、生命維持の為の自己防衛手段としての、脳が生み出す幻想と考えてみます。強度の高い運動は、身体を傷つける訳ですので、脳はそれを止めさせようとします。しかし、深呼吸と心拍抑制を長時間繰り返しながら、少しづつ運動強度を上げることで、脳に気付かれないようにすることが出来るのではないかと思われます。
あくまでも自分自身のケースであり、万人に当てはまるとは思えません。また、再現実験をしようにも、何十時間もかけて100キロを超えるレースを年に何本も出る訳にも行きませんので、立証は難しいです。ただ、これを参考に、一人でも多くのランナーが、この至上の楽しさを味わうことが出来たら良いなと思っています。
私も、他のゾーン体験者との共通点や、論文なども調べて、より確実な再現方法を研究し続けてみようと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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