メンター制度を運営して3年、はじめて「メンターとは何か」を知ることになる。
私は仕事で新人の教育研修を担当しています。その中で先輩職員が新人職員のメンターとなるメンター制度を運営していたのですが、3年運営して初めて「メンターとは何か」を知ることになりました。それは”メンタリング・マネジメント(福島正伸 著)”との出会いでした。
誉めても、叱りつけても
どのように接したとしても
人は、それに応じた育ち方をする
子を見れば、親がわかり
部下を見れば、上司がわかり
社員を見れば、社長がわかる
人が勝手に一人で育つことはない
人は育てたように、育っている
自分のまわりにいる人は、自分の鏡である
相手がそうしているのは、自分がそうしてきたから
相手が本気にならないのは、自分が本気になっていないから
怒らないとやらないのは、怒ってやらせてきたから
まわりが助けてくれないのは、自分がまわりを助けてこなかったから
部下が上司を信頼しないのは、上司が部下を信頼してこなかったから
収入が少ないのは、価値を与えていないから
つまり
得るものを変えるためには、まず与えるものを変えれば良い
人を育てたければ、自分が育つ姿を見せることである
これにはじまり、これにおわる。そんな序文から始まります。
■「メンター」の存在が人生を変える
「あの人に会ったことが、自分の人生を前向きに変えるきっかけになった」
「あの出会いによって、私の新しい人生がはじまった」
そんな存在がメンターです。
■「メンタリング・マネジメント」で無限の可能性を発揮させる
社員一人一人の無限の可能性を発揮させることで、企業の生産性を最大限に高めようとする経営を、メンタリング・マネジメントと言います。
■人材育成の意味:社会に価値と感動を提供する
そもそも人材育成の目的を、個人の職務能力の向上や上司と部下の関係改善、組織の活性化、そしてそれらによる企業の生産性の向上とすること自体に問題があるのです。人材育成の目的を、社会人として、人間として成長させることで、その結果、企業の生産性が上がるようになる、と考えることが必要なのです。
人が育つということは、単に知識や経験が増えるということではありません。それらを活かして、社会に新たな価値と感動を提供できるようになる、ということです。
人材に満たされた企業は、社会になくてはならない存在になるはずです。企業の社会的存在価値は、そこにいる人材が創り出す以外にありません。
「事業を成功させること」を目的にするのではなく、「事業を成功させる人を育成すること」を目的にするのです。
■人材育成の原則は「自分」
「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」ということです。つまり人材の育成のポイントは、相手がどうかではなく、すべて自分自身がどのような考え方で、どのような行動をするかなのです。
つまり、人材の育成のためには、自分が見本になればいいのです。相手に対してどう接するかということは、あまり重要な問題ではありません。それよりも、本当に重要な問題は、相手の前で自分がどう生きるかということなのです。そして、信頼され、尊敬されてこそ、はじめて相手はこちらの話をすべて真剣に聞いて、自らを成長させていくのです。
「人は自分の力で成長しようとしない限り、成長することはできない」
■期待される人物像:「能力」ではなく「姿勢」
「社会に貢献するビジョンの達成のために、自ら求められる知識や能力を身につけて、それらを最大限に活かすことができる人材」
つまり人材育成とは、企業の中だけで認められるような会社人ではなく、社会で認められる社会人を育成するということです。企業人としてよりも、社会人として、人間として「期待される人材」を育成していくことが、結果的に企業を成長させることになるのです。
■どんな人に育てるか:「自立型人材」
人を育てるということは、いかに自立型人材を育成するかというです。
自立型人材とは、
「いかなる環境条件の中においても、自らの能力と可能性を最大限に発揮して、道を切り開いていこうとする姿勢を持った人材」です。
■自立型人材の思考パターンと行動
【プラス受信】:物事を客観的、好意的、機会的に受け止める
・物事を客観的に受け止める
・他人の発言、行動を好意的に受け止める
・問題をチャンスとして受け止める
【自己依存】:他人に期待せず、自分自身に期待する
・他人や会社に期待しない
・何事もまず、自分から考えて行動する
・すべてのはじまりは自分にあると考える
【自己管理】:自分の可能性を最大限に発揮する
・常に夢を確認し、今、行動していることの意義や意味を理解している
・自分をやる気にさせる方法を知っている
・やる気のない人が気にならない
【自己責任】:問題の真の原因は自分にある
・問題から逃げず、真正面から受け止める
・自分自身に原因を見いだし、何事も自分の出番に変える
・問題や失敗を他人のせいにするのではなく、自己成長の機会にする
【自己評価】:常に本物・一流を目指す
・他人の評価に振り回されず、自分自身を厳しく評価する
・常により高いレベルを目指して、全力を尽くす
・他人が見ていないところでこそ努力する
■自立型人材の特徴:自分が成長することを楽しむ
夢を持ち、自分の可能性を最大限に発揮するのです。その中で、常に新たな自分の可能性を発見し、自分の人生を自分らしく精一杯生きている実感を享受しています。自立型人材にとって問題や失敗は、むしろ改善・飛躍のチャンスなのです。緊張感を好み、ワクワクしながら、すべての出来事を成長の機会に変えてしまいます。できなかったことができるようになっていくことは、自立型人材にとって、他の何ものにも換えがたい喜びなのです。他人と競争することよりも、自分自身と闘い、自分が成長することを楽しみとしています。他人や社会のために働き、感謝され、共に喜び合うことで、すばらしい人生を送ることができるのです。
■自立型人材の視点:「長期的」「全体的」「根本的」「多角的」
自立型人材は、「何を」するのかよりも、「何のために」「なぜ」するのか、ということを大切にします。自分の目先の損得ではなく、すべての関係者の損得、さらには地域の損得、人類の損得、未来の子供たちにとっての損得、人生における損得などの視点から考えることができます。
■逆に、依存型人材の育て方:管理のマネジメント
①相手に納得させることなく、無理やりやらせる
②相手の安楽に訴える
③自分があきらめている
④危機感を伝える
⑤自分が楽をする
⑥相手のせいにする
⑦相手の話を聞かない
⑧相手に関心を示さない
人は本能的に「他人を自分の思い通りにしたい」という欲求を持っています。
いわば、管理とは依存型人材を育成するためのノウハウなのです。
■変化するマネジメントスタイル:労働者から共創者へ
働く目的も、ただ生活を維持するためだけではなく、自らの人生を充実した生きがいのあるものにするためへと、大きく変わってきています。仕事の内容よりも、仕事の目的や意義が働くモチベーションに大きな影響を与え、優秀な人材ほど社会的な存在価値の高い企業に、強い関心を示すようになってきました。
■「指導」と「育成」
自分が今、指導をすべきなのか、それとも育成をすべきなのかを正しく判断することが、人材の育成にあたって、まずはじめに求められる重要なポイントになります。
指導とは、問題解決のため、あるいは生産性向上のために、必要とされる問題解決法などの手法や知識、技術、情報などを、相手に伝えることです。つまり、それは相手に「教える」ことです。また、指導で大切なことは、相手に選択させることです。
育成を一言で表現すれば、「やる気にさせること」です。そのためには、まずこちらが相手の見本となって、自立型姿勢を見せることが必要となります。
つまり、指導とは「教える」ことですが、育成とは「見せる」ことです。人はやる気になってはじめてこちらの話を聞き、教えられたことを行動に移すようになります。つまり、育成ができていなければ、指導したことが活かされず、無駄になってしまうのです。「育成なくして指導なし」
■メンターとは:相手をやる気にさせる人
メンターを一言で定義すれば、「相手が自発的に自らの能力と可能性を最大限に発揮する自立型人材に育成することができる人」と言うことができます。さらにわかりやすく、「相手をやる気にさせる人」と言ってもかまいません。
メンターは、相手が本来持っている潜在的な可能性を最大限に引き出します。すべての人が、生まれながらにして無限の可能性を持っているにもかかわらず、それを出し切っていないだけなのです。
自分がメンターであるかどうかは、相手が決めるものです。そもそもメンターとは、究極のリーダーのあり方ですから、それは目指すものなのです。
自分が本気でなければ、他人を本気にさせることはできません。困難や問題に対して、そこに挑んでいく勇気を見せて希望を与えるのがメンターです。
■メンタリング・マネジメント:「意識の組織」をつくる
人が育つということは、管理されなくとも、指示がなくとも、自発的に考えて最大の成果を出すことができるようになることです。人材が育つことで、適時問題が解決されるばかりか、その問題をきっかけに企業が大きく成長していくことができるようになるのです。その中で、「仕事が面白い」「充実した人生を送るために働いている」「働くこと、そのものが楽しみ」「夢の実現に向けて、一歩一歩成長したい」「ずっと現役で、元気に働き続けたい」 という明るく活気のある職場になります。
メンタリングによって、自発的に能力を最大限に発揮させ、さらに相互に支援し合うことで、組織の経営資源を共有して、ビジョンの実現に向かう最強の組織をつくり上げることができます。このように、スタッフ全員が一致団結して目的達成に向かう組織を、システムや制度としての組織に対して、「意識の組織」と言います。
人材育成の最終的な目的は、社員が成長していった結果、その企業が社会の中でなくてはならない存在になること、つまり顧客や社会から尊敬される存在になることです。おそらく、そのような企業で働いている社員は、家族の誇りになっているに違いありません。裏返して言えば、企業の存在価値を唯一創造しうるのが、そこにいる人材です。つまり、人材の成長こそが、企業の存在価値の創造そのものなのです。
■メンタリングに成功も失敗もない、常に成長があるだけ
メンタリングは、自らが見本となって行動し、相手を信頼して、支援するという、とてもシンプルな概念です。それは姿勢の問題ですから、特別な技術を学ぶ必要もなく、誰でも簡単にはじめることができます。「見本になろう」「信頼しよう」「支援しよう」と思うことが、何よりも大切なことであり、うまくいかなければ、さらにその気持ちを強く持てばいいだけのことです。メンタリングには、成功も失敗もありません。常に、成長があるだけです。
■メンタリングの三つの行動基準:「見本」→「信頼」→「支援」
【見本】:自らがまず先頭に立って行動すること
【信頼】:相手のすべてをそのまま受け入れること
【支援】:相手のために尽くすこと
信頼されるためには、自分の目先の損得よりも、相手や社会の損得で考えることが必要です。いわばそれは善悪で考えることです。
見返りを求めないほど、本物の支援ができるようになります。そして本物の支援ができるほど、結果として大きな見返りが返ってきます。
メンターは相手をやる気にさせるために、いつでも、どんな時でも励まします。具体的な支援が何もできない時でも、励ますことだけならば、いつでもできるはずです。人は励まされたからといって、すぐにやる気になるわけではありません。しかし積み重なることで、じわりじわりと効いていくものです。メンターは、言葉よりも心で励まします。メンタリングにおいて大切なことは、「手法に頼るのではなく、姿勢に頼る」ことです。
■基本的な支援の手法
⑴聞く
①相手の話のすべてを受け入れること、否定しないこと。
②手に関心を持って、真剣に。さらに相手と同じ気持ちになって聞くこと。
③話を促すこと
④相手の話を自分なりに整理し、それを伝えて確認すること。
⑤相手の話から、自分の成長につながる何かを学び取り、感謝すること。
⑵相談に乗る、一緒に考える
①問題の本質をとらえる。
②一緒に考えることを楽しむ。
⑶述べる
①自分がもし、相手と同じような立場になったらどうするかを伝える。
②必ず相手に選択権を与えるような伝え方をする。
⑷助言する、提案する
①相手のために貢献する気持ちで。
⑸教える、指導する
①相手のわかる言葉でわかるように伝える。
②相手が求めていることに貢献する。
⑹語る
①自分の体験談や夢を語る。
②相手がやる気になる話をする。
⑺励ます
①相手がやる気になる言葉を用意しておく。
⑻誉める
①心の底から誉める(自分が喜ぶこと)。
⑼感謝する、感動する
①共に喜びを分かち合う。
⑽委任する
①相手の判断で自由にやらせる。
⑾促す
①相手の話に便乗する。
②自分の気持ちで後押しする。
⑿導く、体験させる
①共に行動する。
②自分が先頭に立つ。
⒀出番をつくる
①自らの行動で相手をやる気にさせる。
⒁提供する
①資金や情報を差し出す。
②人を紹介する。
⒂そばにいる
①いつでもそばにいる。
②どんな時でも相談に乗る。
メンターは相手の悩みを解決することを、最終的な目的とはしていません。相手が悩みから逃げず、自分の力で乗り越える勇気を与えることが目的なのです。そして、その勇気を与えるために必要なのが、今できることから相手を支援することなのです。手法に唯一の正解はありません。それは支援の内容よりも、こちらの支援の気持ちが相手に勇気を与えるからです。
人は、他人との関係の中でしか、人として成長することはできません。成長とは、生きるための術を身につけることではなく、他人との信頼関係を築き、他人から尊敬される存在になることです。究極のメンターは、すべての人々に感謝しながら、成長していくことができる最も幸せな存在なのです。
■意欲のない人が、意欲の高いメンターを育てる
相手にやる気がないほど、メンターはやる気になることができます。なぜなら、どれほどやる気のない人を、やる気にさせることができるかが、メンターのレベルなのです。メンタリングによって最も成長するのは、メンティー以上にメンター自身なのです。