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【映画】箱男

まず、かなり最高の映画であることを述べておきたいと思います。

原作は安部公房の同名小説で、私は高校生の時、古本屋で箱入りハードカバーの本書を買って、読んだのでした。
ストーリーはほとんど覚えていませんが、「視ること、視るだけの存在でいることの特権性を語る主人公を、別の視るものが襲ってきて、その特権の座を争う」という大まかな内容であったと思います。

今回の映画化は、石井聰亙あらため石井岳龍監督が1997年に製作開始したものが頓挫して以来、長年の悲願であったということ。
原作発表の1973年から51年を経て、このテーマがきわめて現代的であることを感じさせられます。
映画の中でも、最初に1973年の架空の新聞記事らしきものが映されますが当時に時代設定されているわけではないようです。
ノートパソコンも出てくるし、なんと、他者の筆跡を模倣できる未来デバイスまで登場します。

しかし映像は東京の路地裏、巨大倉庫の裏、寂れた海辺の病院、フィルムカメラ(箱の中でフィルム現像!)などデッドテックなモチーフに溢れ、主人公を襲う「ワッペン乞食」なるイカれた人物も70年代風。
そんな空間で段ボール箱を被った男たちが死に物狂いでバトル!
音楽も、ノイジーなドラムとエレキによるプログレ感あるサウンドが鳴り響きます!
オープニングのタイトル「箱男」は、なんとシネカリで表現されています!!
これを最高と言わずして何を最高というか。

(シネカリというのはフィルムに直接傷をつける手法で、一コマずつフィルムに絵や文字を描いて、それをアニメーションにしたりします。
80年代までは8ミリフィルムでよく行われていたアニメ技法のひとつでした……エヴァンゲリオンでも使ってたけど)

石井聰亙あらため石井岳龍監督の映画を観るのは今回が初めてで、『狂い咲きサンダーロード』も『爆裂都市 BURST CITY』も未見という不勉強ではあるのですが、今回の映画を観て思い出したのが塚本晋也の『電柱小僧の冒険』『鉄男』といったパンクムービーで、これも高校の頃観て、すごく好きでした。
それらの映画が石井聰亙の影響下にあったということなんでしょうね。
高校の頃はアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンも聴いてたしな…… 石井監督はノイバウテンの映画撮ってたし。
そんな、当時大好きだったテイストが蘇り、実に最高でした。

映画はなんとも豪華キャストで、永瀬正敏、浅野忠信、そして佐藤浩一とすごい役者がメチャクチャなキャラクターを熱演してます。
永瀬と佐藤は、1997年に制作に着手したときも同じ配役だったそうで、彼らにとっても27年越しの悲願だったのですね。
でもそれだけでなく、70〜80年代のアングラテイスト溢れるカルチャーへの情熱が蘇ったところあるんじゃないでしょうか。
浅野忠信はちょっとオーバーアクトでどうなのと思いはしましたが、彼の過剰な執着心とヒロインの白本彩奈の淫靡な美しさで引っ張る映画でもあり娯楽性の担保に結びついていました。

後半では雰囲気がおとなしくなってしまうのが少し残念だったのですが、永瀬正敏の裸体のだらしなさは驚きで、そういうのも何かすごいと思ってしまいましたねー。
そしてこのテーマを1973年から現代に繋げるかのようなラストシーンとエンドクレジット。

なお「箱」というモチーフに並んで、ノートが重要であると作中でも語られますが、オープニングのタイトルだけでなく、終始ペンやスプレーで書かれる手書き文字に映画はフォーカスしており、これがなぜなのかははっきりとはわかりませんでした。
おそらく、『視る』特権性が、観察の言語化によって解体されること、それが一人ひとり異なる筆跡で表現されることで回復する人間性みたいなもの、ということかなとは思いました。
絶望から始まって絶望で終わるような映画ではあるけど、ヒロインの存在など希望や救済の要素も垣間見せており、手書き文字もそういうポジティブな意味があるのではないかと思いました。

いやー、こういうのを映画館で、しかも最新作として観られるとは、感謝感激です。

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