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「何かございましたら、またご質問していただけますでしょうか?」

コールセンターでは、「再入電依頼」をするようにと、よく言われます。
それはいいのですが、その言い方が気になります。
視覚情報を奪われる電話での対応には、言葉選びに通常以上の気遣いが必要です。


再入電依頼

再入電依頼とは、電話を切る前に、「また電話してくださいね」と言うことです。積極的に対応しようとする企業姿勢を示すことで良い企業イメージを持ってもらうことと、気になったことがあったときにすぐ電話をしてもらえればクレーム予防になるので、その2つの側面から、コールセンターではよく使われます。

おかしな敬語

その再入電依頼として「何かございましたら、またご質問していただけますでしょうか?」という定型句が使われることがあります。

「お(ご)~していただく」を尊敬語だと思って使っているなら、それは大きな間違いです。

元々、「お~していただく」という公式など敬語にはありません。

「もらう」の謙譲語(受け手尊敬)が「いただく」です。「してもらう」という言葉は、ただ単純に「して」と「もらう」をくっついているだけなので、「していただく」になるというだけのことです。

なぜそんなことを言うかというと、「お~していただく」という公式があるかのように使われている場合が多々あるからです。

あなたもどこかのコールセンターに電話して言われたことがありませんか?

なんだか、これが普通の日本語なんじゃないかって錯覚を感じそうになるくらい広がってませんか?

何かございましたらまたご質問していただけますか?

この定型句から敬語の要素を取り払って平常文に直すと「何かあれば、また質問してもらえる?」です。主語は“わたし”(=企業側の人間)です。
さらに、目的語も省略せずに言うと、「何かあれば、わたしはあなたから質問してもらえるのか?」。

どうですか?なんだか不思議な言葉です。

いったいなぜこの人は、そんなに質問してほしくて、しかも質問してくれるかどうかを確認したいのでしょうか。「また質問します」という返事がないと、上司から怒られるのでしょうか。再度質問があると評価が上がるのでしょうか。

多分そんなことはありません。ただ、そのほうが丁寧だと信じているのです。

この問題の原因のひとつは「(~して)ください」という言葉を命令だからお客さまに対しては使うべきではない”とする風潮です。

「何かございましたら、どうぞお気軽にご質問ください」という自然な日本語を封じているために、おかしな日本を使わざるを得なくなっているのです。

①命令は配慮に欠けるか

“命令だからお客さまに対しては使うべきではない”という根拠になっているのは、もちろん、命令は目上の行為であり、人に命令するということは上から目線の偉そうな行為だから、ということです。

しかしこれでは、あまりに物事を単純化しすぎています。

例えば、友人に何かをしてあげたとき、友人はあなたに「ごめんね、ホント助かった。ありがとう!」などというかもしれません。

それに対し、これくらいで友人の役に立てるならお安い御用だと感じるならば、「またいつでも言ってね」と言うのが普通ではないでしょうか。このようなときに、「またいつでも言ってもらえる?」と相手の意向を確認する人はあまりいません。

「言って」は命令です。しかしこの場合、命令をすることこそが配慮です。

それは、通常、人は相手に迷惑をかけたくないと思っているという前提があるからです。迷惑をかけたくないと思っている相手に、またそれをするかどうかを訊くよりも、相手の返事を求めず、命令することで相手の遠慮をあえて無視し、相手にも湧き上がる遠慮を無視するように自然に促すことのほうが、よほど親切だと考えるのが敬語の考え方です。

命令という形をとったとしても、ニーズは友人側にあるわけですから、その後、何かを依頼することがなかったとしても「ニーズがなかった」だけです。つまり依頼するかしないかの主導権はあくまでも友人側が握っており、この命令によって友人の主体性を損なうことはありえません。返事を求めない分、相手に立ち入らない控え目さも備えた言い方なのです。

②「ご質問して」の敬意はどこを向いているのか

「ご質問していただけますか」には2つの敬語が使われています。

1つが上記の「いただく」。

そしてもう1つが「ご●●して」。

2つとも、行為する人よりもその行為の対象のほうが目上であることを表す言い方です。

この場合、1つ目の「いただく」については、「もらう」のが企業側、誰からもらうかといえばお客さまなので、お客さまを目上に扱う言葉です。
一方、2つ目の「●●する人」はお客さまなので、お客さまよりも企業のほうが目上であることを表していることになります。

敬語が分かる人にとっては、企業を目上に扱う言葉遣いにイラっとすることはあっても、いちいち目くじらを立ててはいられません。そんなことをしていたら、いろんな企業に腹を立てなければいけなくなって疲れてしまうからです。したがって、実際には聞き流す人が99%です。

しかし、そこに甘える企業姿勢に対し、疑問ぐらいは呈させてもらいましょう。

ではまた。

世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。