そのベンダーに自社の客を預けられるか
先週は、インハウスとアウトソースの話をした。
どちらがいいとは限らない。
どちらが会社のニーズに合っているかという話だ。
スキルもないまま電話部隊を社内につくっても、客を怒らせてしまい、クレーム対応に追われることにもなりかねない。
その点ベンダーと呼ばれる、コールセンター業務を丸ごと受注する会社なら、今までいくつものコールセンターを立ち上げて運営してきた経験はある。最悪の対応にはならないだろう。
ベンダーが求めるもの
ベンダーの客はクライアントである。
だから、人様の子を預かっているような、丁寧かもしれないが腰の引けた対応にもなりがちである。
ベンダーはクライアントが期待しているであろうことを想定して接客をする。
だから、クライアントが提供したいサービスのイメージが曖昧であれば、とりあえずクレームにならない対応を目指すだろう。まして、クライアントがベンダー任せにして客の反応に興味を持たなければ、ベンダーが客の反応に興味を持つ必要性は無い。
もちろん、基本的にはコールセンターとは、お客さまの満足を求め、お客さまから「ありがとう」と言ってもらえる応対を目指すものだ。
クライアントとベンダーが適切な協力体制をとって応対品質の向上に努力し、その成果が出ているコールセンターもたくさんある。
ベンダーと一口に言っても
ベンダーならどこに頼んでも同じようなものだろうから、少しでも安いところに委託しようと思っているならちょっと待ってほしい。
とあるベンダーでは、全通話録音が当たり前だった。
応対品質を維持向上するために、通話を評価し、それを本人にフィードバックする必要があるからだ。品質を維持向上するためには、録音を分析し、本人に聞かせることが必須だ。どれだけ忙しくとも、定期的なフィードバックは時間を取って行われていた。
別のベンダーには、電話に録音機能はなかった。定期的に本人にフィードバックするような指導の時間もなく、そもそも教育部門自体が存在しなかった。教育部門が存在しないということは、会社としての応対スキルを蓄積できないということだ。その場合コールセンターの良しあしは、ひとえにSV(現場の管理者)の手腕による。
同じベンダーであっても、担当SVによって提供されるサービスレベルは大きく異なる可能性がある。
利益のねん出
ベンダーは、他社よりも安い値段を提示してなんとか契約を得ようとする。そうやって得た契約を、しかし、赤字にするわけにはいかない。
そのための涙ぐましい努力の一端をご紹介しよう。
なるべく場所代を安く抑えるため、部屋は狭く隣の席とのすき間はない。人の席の後ろを通るときにはおなかをへこませなければならない。
パソコンは旧型で、情報を検索するたびに保留するわけにもいかず、なんとか話をつなぐのに苦労する。一方で応答率(入ってきた電話を何割取ったか)はクライアントに報告する数字なので、早くこの通話を終えなければならない。
契約がライン数(電話が何回線開いているか)で決められている場合、突然の発熱で休みが出ようが電話を開けてオペレーターを座らせなければならない。まずは、休みの管理者を呼び出すことになるので、管理者になると予定が立たず、ワークライフバランスなどあったものではない。
同様に、誰かが辞めてしまうと、そのラインを何としても埋めなければならない。また、採用教育費は痛手になる。しかし、コールセンターは既に飽和市場とも言われていて、コールセンターで働くような人は全て既に働いているといわれる。
当然、応募者のえり好みなど言っていられない。とにかく急いで採用しなければならないのだから。その点からも、応対品質うんぬんよりも長く勤めてもらうことが優先される。(したがって、音楽や演劇やモデルなど、やりたいことが別にあり、生活費を稼ぐために働きたい人には都合がよい職場である)
ベンダーの品質を見極めよう
経費削減。企業にとっては至上命題かもしれない。
発信業務や注文窓口なら、何かを買ってもらったり、そこまで行かなくともアポイントメントを取ったりと、利益につながることが見えやすい。
一方で単なる問い合わせ窓口は、基本的に利益を生まない。
しかし、自社に興味をもってくれるかどうかも分からない一般視聴者に向けたテレビCMを何億円もかけて流し、それを見て電話をしてきた客ががっかりするなら、その経費をドブに捨てたようなものではないだろうか。
もちろん、応対品質が売り上げに一切影響しない場合もある。
その商品が唯一の場合だ。
住民登録は、役所でしかできない。だからどれほど対応に不満を感じても、人は役所へ行く。(最近は役所の対応も良くなってきたそうなので、例としてはあまり適切ではないかもしれない)
しかし、代替があるなら、人は我慢などしない。
せっかく自社に興味をもってくれた客をより自社と結びつけるために必要なコールセンターのレベルを想定し、それを満たすベンダーを選ばなければならない。
ベンダーと信頼関係を構築しよう
こんな契約内容ではベンダーが赤字になると分かっているような契約を強引に結び、契約の解消を拒み続けるクライアントもいる。
そんな状態で良いサービスが提供できると思っているのか、良いサービスなど求めていないのか、不思議に思う。
また、ベンダーを見張っているようでは信頼関係は築けないが、任せっきりで放置するのもよくない。しっかりと管理をし、イレギュラーケースはきちんと介入してベンダーとともに解決していかなければならない。
ベンダーの客はエンドユーザーではない。クライアントである。
クライアントが面倒を嫌がるなら、ベンダーはクライアントになるべく報告も相談もしないで済まそうとするだろう。
きちんと信頼関係が作れるベンダーかどうかも大切だが、信頼されるクライアントになることも同じくらい大切だ。
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世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。