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そこにプレゼンスはあるのか

先日、「プレゼンス」という言葉を知りました。直訳すると、“存在感”。調べてみると一部のカウンセリング分野で使われている用法で、“臨在感”と訳している人もいますし、“何にも影響を受けない俯瞰的な視点をもって観察し続けること”と説明している人もいました。

私流に解釈すると“何があってもそばに居て見守り続ける”ということだと思います。そう考えると、これはコールセンターにおいても、とても重要な概念です。

プレゼンスという言葉をコールセンターで言うなら、”電話で対応するその人が、会社の代表としてお客さまのそばに居続ける重要性”です。

分かりづらいと思うので、“プレゼンス”が無い場合の例を具体的に挙げましょう。


プレゼンスの無い対応

1)「あぁ、話が長いなぁ、早く終わらないかなぁ」と思いながらお客さまの話を聞く。
2)(怒鳴られて)「怖い!どうしよう、上司が助けに来てくれないかな」と思いながらお客さまの話を聞く。
3)「決められた手順に則っているだけ」「このように説明するように言われている」から言っているだけというニュアンスが伝わる。
4)「書面での手続きが必要というかたちになります」と言う。

1)2)は対応者の気持ちがお客さまから離れている例です。心ここにあらず、といった状態です。
3)4)は対応者が、自身を会社の代表とは思っていない例です。ひと事と思っている状態です。

以前、とある企業(野尾戸株式会社とでもしておきましょうか)で働いていたとき、研修を終えたばかりの新人が「野尾戸さんではそのような対応は行っていないそうです」と案内していました。私もびっくりしましたが、電話の向こうのお客さまも、さぞ驚かれたろうと思います。お客さまは野尾戸株式会社に電話しているのに、まさか電話に出た担当者が自社を「野尾戸さん」と言うとは思っていなかったでしょうから。
このように対応者が自身を会社の代表と思っていなかったら、お客さまはいったい誰と話しているのか混乱してしまいます。

3)の例でも、まるで留守番を頼まれただけで私は関係ないとでも言わんばかりの口ぶりで、到底会社の代表とは思えません。
4)がなぜプレゼンスが無い場合の例に該当するのか、ピンとこないかもしれません。

「~というかたち」におけるプレゼンスの無さ

「~というかたち」という言い方は、コールセンターでは不要語と言われます。不要語とは、話を回りくどくし、あいまいにするので時に分かりづらくなる言葉です。

しかし私は、それ以上の弊害を感じています。
説明の最後に「~というかたち」をつけて締めくくる話し方は、3)と同様、自身を会社の代表とは思っていない話し方であると私は思っているからです。

もちろん「丸い形の皿」なら構いません。そうではなく、ルールや手順のように形がないものであっても、マニュアルやFAQなどに記載されたものを読み上げて最後に「~かたち」をつける言い方が問題なのです。
どんな文章でも最後に「~かたち」を付けさえすればなんとなく日本語に聞こえてしまいます。

曰く「“書面での手続きが必要”というかたちになります」。
曰く「“返品は受け付けない”というかたちになります」。
なんなら、「“早く終わらないかなぁと思いながらお客さまの話を聞く”というかたちになります」とだって言えてしまいます。これに「恐れ入りますが」とクッション言葉でも添えれば不自然さは気にならなくなるかもしれません。

恐れ入りますが、早く終わらないかなぁと思いながらお客さまの話を聞くというかたちになります(^^)

by どんな言葉も笑顔で言えるオペレーター

しかし、この言い方は会社のマニュアルを読み上げているだけです。たとえマニュアルを見ずに言えたとしても、それは単なる暗記であって“電話に出ている私”の対応ではありません。つまり、単なる口パクです。これでは会社の代表などとは到底言えず、単なる自動応答に過ぎません

つまり、3)であることを一言で証明する言葉が4)なのです。

AIやチャットボットとの違いはあるのか

対応者は、自分が対応するのですから、自分の言葉で話さなければなりません。
またその自分とは、会社の代表でなければなりません。
そして電話がつながっている間はお客さまに向き合い、寄り添い、常にそばにいなければならないと思うのです。

単に投げかけられた質問の回答を提示するだけなら、AIやチャットボット(自動会話プログラム)のほうが正確でしょう。しかも残業代も発生せず、上司に文句も言いません。

人間でないとできないもの、それがプレゼンスです。

結論、
電話応対にはプレゼンスが重要である。
プレゼンスのある対応はプレゼンスの無い対応よりも、会社からきちんと対応してもらった印象を残す可能性が高い。

それは、お客さまの、会社への信頼感につながるのではないでしょうか。

それでは、また。

こちらは、コールセンターの管理者・運営者向けの講座です。講座についてのご質問は、コメント欄もしくはサイト下部「クリエイターへのお問い合わせ」よりどうぞ。

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のどか
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。

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