「顔のみえない仕事」について考える
この記事はファンタラクティブ2024年アドベントカレンダー 12月3日の記事です。
はじめに
こんにちは、ファンタラクティブでエンジニアをしているyagikoといいます。
最近なんやかんやあって、エンジニアリングマネージャー(EM)に就任しました。
近況報告はさておき、普段書いているコードから離れて「仕事」について記事にしました。
世の中にはさまざまな仕事があります。
あなたがしているのは、顔のみえる仕事なのか、はたまた顔のみえない仕事なのか、振り返るきっかけになれたら幸いです。
きっかけ
本題を記事にしようと考えたのは、昨年、行きつけの美容室での会話がきっかけです。
数年前から懇意にしてもらっている店長に近況について尋ねられ、当時転職したことを伝えました。すると、店長がどういう仕事をしているのと聞いてきたので、「エンジニアをしていてWebサービスの開発をしています」と答えました。
そのやりとりで、「そういうお仕事大変ですよね」、「ぼくたちはお客さんの顔を直接みてサービスができるから」という店長の言葉が印象に残りました。
その時は、そうみられるんだ、顔がみえる仕事って良さそうだなと安直に感じていましたが、そもそも顔がみえる/みえない仕事というのは何なのでしょうか。その言葉を時折思い出すようになり、改めてその言葉が指し示していることについて自分なりに整理してみようと考えました。
「顔のみえない仕事」の意味
そうした店長とのやり取りから、わたしは「顔のみえない仕事」と表現することにしました。
Googleでその言葉を調べると、それらしい記事をいくつか見つかりますが、そこまで一般的ではなさそうです。
この言葉を眺めていて、以下の疑問が生まれました。
「顔」… 何を指しているのか
「みえない」… 誰にみえないのか、どの程度みえないのか
ここからは、それぞれを紐解いてみることにします。
「顔」とは何か
顔と聞いて何を連想するでしょうか。
ここでは、個人を想定して、その人を特徴づける情報をいくつか連想し、それらを1次情報と2次情報に分類しました。
1次情報
個人名 (実名、ペンネーム、アーティスト名、屋号)
顔写真、それに相当するアバターイメージ
2次情報
体型・身体的特徴
性格
経歴・スキル・得意なこと
趣味・嗜好
思考・言動
成果・アウトプット
1次情報にはその人を一意づける情報、その人に付随する関連情報を2次情報に分けました。関連情報というとやや広く曖昧な表現ですが、「他者に認知しうる」情報とわたしはイメージしています。
ちなみに、書いてから気づいたことですが、2次情報にある「成果・アウトプット」は自身を構成する要素というより、他者に発露し、他者へ向けられる要素にも感じました。
誰に・どの程度「みえない」か
まず、みられない対象は、大きく2種類に分けられると思います。
エンドユーザー … サービスや商品が最終的に届けられる消費者、利用者
上記以外で直接・間接的にやりとりする人
例えば、美容室や飲食店で接客担当のスタッフは、エンドユーザーであるお客さんと直接コミュニケーションする機会があります。
また、彼らは店内の他のスタッフとやりとりすることもあるため、後者にも該当するでしょう。
次に、みえない程度について段階的に以下が挙げられると考えます。
認知されない
知っているけど興味、関心を持たれない
ちなみに、これは消費行動モデルとして使われる AIDMA/AISAS の前段部分にも類似することに気づきました。
つまり、「顔のみえない仕事」とは上述を踏まえて噛み砕くと、
名前や顔など自身に関する情報が
エンドユーザーあるいは直接やりとりする人に
認知されない・関心を持たれない
仕事だといえそうです。
自身の仕事を振り返る
わたしはエンジニアとして、顧客や社内であがった要件に対する実装開発をしています。
先の店長の立場で考えてみると、美容室ではエンドユーザーとやりとりできますが、わたしの話を聞いて「なんとなくエンジニアは違うのだな」と感じたのだろうと振り返ります。
たしかに、エンジニアやデザイナー、プロジェクトマネージャーたちの成果は、サービスや施策を通してエンドユーザーに認識される可能性はあります。しかし、その人たちの名前や顔を知る機会はほとんどありません。
一方で、エンジニアは誰とも関わらずただ画面やプログラムに向き合っているわけではなく、顧客や社内関係部署とミーティングをしたりコミュニケーションを取ったりもします。
そのため、わたしの場合は以下のような立ち位置・みられ方になるのだろうと考えます。
例外的なケースとして広告系の会社の場合、社外のアワードに応募し受賞したら、関係者の名前や顔がクレジットなどで掲載、露出する機会があります。また、業種を問わず社外向けのブログで自身の名前や成果がエンドユーザーに認知されることもあるだろうと考えます。
「みえない」ことはマイナスか
では、顔がみえないことはプラスなのでしょうか、それともマイナスなのでしょうか?
結論をいうと、自身の存在や働きが認知されづらくなることで、自身の立ち位置が一定程度維持されることはあっても、好転することは難しいだろうと考えます。それどころか、〇〇さんは何をしているのか分からないとなり、状況によりマイナスに働きうる可能性があります。
顔や名前をネットやリアルでさらしたくない人や、最低限のアウトプットや成果で対価が得られればそれで十分と考える人もいるでしょう。それを鑑みると、みえるようになりたいかどうかは個人の意思判断によるところかと思います。
ただ、エンドユーザーに限らず、直接やりとりする人に名前や顔を認知して関心を持たれることで、以下のような副次効果が生まれると考えています。
プロジェクト、案件の指名アサイン
前に〇〇さんと進めて良かった、〇〇さんならできそう
社外イベントの登壇
〇〇さんはこの分野に強そう
著名人との共演、コラボレーション
〇〇さんとの共演なら話題になりそう、議論が深まりそう
社内転籍、ポジション昇格の機会
〇〇さんなら□□の役職に適していそう
キャリアアップの機会
〇〇さんならこの会社や仕事はどうか
エージェント、別の会社から声がかかる
こうした機会を受けることもありますし、逆に相手に持ちかけて実現する可能性もあります。
ポジティブにいえば、「人生において転機を増やすチャンスを作る」、「ワクワクする出来事のきっかけになる」と言い表すことができそうです。
もし現状の環境に満足していないのなら、誰に向けて・どのようにみられたいかを意識して行動していく必要があると考えます。いわゆる自己ブランディングといわれる領域です。
「みえない」を「みえる」にするには
では、どのようにしたら自分自身を関係者やエンドユーザーに認知され、関心を持ってもらえるでしょうか。
わたし自身はキャリア開発のプロではなく、戦術やテクニックについては関連書籍を読むのが良いかと思いますが、ここでは実体験や見聞きしたことを通してポイントだと感じた点をお伝えします。
自己開示
まずは自己開示について。自分自身をオープンにすることで、相手に興味を持ってもらうきっかけになると考えます。
ただ、オープンにする対象は、趣味や経歴などの自身のパーソナルな情報だけでなく、仕事を通して感じた違和感や疑問といった考えも含まれます。そうした点に対して、これは言うべきことなのか、誰かが聞いてくれるだろうと感じて心に押し込むこともあるかと思います。しかし、そうした守りを振り切って伝えてみてはいかがでしょうか。
そうすることで自分に目が向けられ、そうした考えを持っているのか、その発想はなかったと関心を持ってくれる可能性が出てくるかもしれません。
とはいえ、聞く相手や状況次第なところもあるので、場の状況をみつつ伝える内容は適切か、今伝えるべきものなのかどうかを判断することも求められます。
継続的な成果の発信
もうひとつは、成果をコンスタントに発信することです。エンジニアだと、調べたことやつまずいたこと、学んだことをZennやQiita、ブログで発信する人もいます。
それ以外にはXやSNSで自身の考えを投稿したり、さらには社内Slackで発信する方法もあります。あるいは、資料を作成してライトニングトーク(LT)で発表したり、YouTubeやTikTokで自分のメディアを作って発信することもできます。
わたしの場合、面白そうなイベントやXの投稿があれば、社内Slackのtimesという自分の分報チャンネルに投稿しています。それから、プロジェクトで担当する機能のUI実装をする際には、ローカル環境で作った画面を動画やスクリーンショットに撮って、自身のtimesチャンネルにアップしたりしています。
こうした「思考や行動の可視化」は、その人が今何をしているのか、何にアンテナを張っているのかがみえやすくなるし、その人に興味を持つきっかけ作りにもなります。
こうした行動を現職のVPoEから評価していただき、1on1の時にWorking Out Loudという言葉があるんだよと教えていただきました。何気なくしていたことが意外とこういうところにつながっていたのだなと、わたしにとっても良い気づきになりました。
立ち位置を変える
これは、note株式会社のCXOである深津 貴之さんのXの投稿から気づいた点です。
深津さんは十数年以上前からインタラクションデザイナーとして、当時隆盛だったFlashを使って作品を公開し、Flashの書籍にも作品が掲載されていました。
その後は、スマホアプリに軸を移してプロトタイピング関連で発信し、現在ではプロンプトエンジニアリングや生成AI領域を中心に発信を続けています。
Flashは当時のブラウザでは実現できなかったリッチ表現やインタラクションを可能にし、一時期はスマホアプリまでつくれるようになっていました。しかし、Appleの当時のCEOであったスティーブ・ジョブズの発言をきっかけにFlashの利用は落ち込み、Flashを使ったWeb制作は終焉を迎えました。
それでも、深津さんはFlashを通して培ったものをプラスに転じ、そこから違う領域にコミットしていきました。
何かをテーマに発信し継続することは、その人のブランディングを高めます。ですが、そのテーマで関心の土台となる部分が永続的に続くとは限りません。テーマに対するニーズがあるのか、その地盤が存続するのかを見極めて、時には別のテーマに切り替えて行動することも大切だと考えます。
もし仮にその地盤やシステムが失われても次に切り替えられるように、今関わっている領域の要素を抽象化して、他に転用できないかを定期的に棚卸ししてみても良いかもしれません。
おわりに
前半は、「顔のみえない仕事」の意味を探りつつ、後半はいかに顔をみえるようにするかを考えながら手を進め、思わぬ形で自己啓発的な流れにたどり着きました。
毎日の仕事に忙殺していると、自分が誰と向き合っているのか、相手にどの程度認知されているのかが意識から離れてしまうことがあります。
年末、お時間がある時にでも、自分が「顔のみえない仕事」をしていないか、これまでの立ち位置を振り返りつつ、来年や将来の自分のあるべき姿を思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
新しい環境では無名です。自分がどのように考え、何をしていきたいかが周囲にみえるようになると、それに応えたり応援してくれる人との機会が作れるのではないかと考えます。
わたし自身も、来年は立ち位置をずらすことも考えつつ、認知・関心につなげるための行動や思考の発信を続けたいと思います。
次回は、フロントエンドとアプリの二刀流で成果にコミットするストイックエンジニア、矢野さんの記事です!どうぞお楽しみに!