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【小説】鏡越しの君

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小説「鏡越しの君」をまとめています。
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記事一覧

鏡越しの君 #6 ダブルパラレル(完結)

まるで、妻とお義母さんの生活を支えているATMみたいだ。もやもやとした気持ちを抱えたまま、なんとなく妻との距離が離れていった。

家に届いた請求書を見ると、またこんなに出費が増えてる。妻は休日も友達と遊びに出掛けて殆ど家にいない。
貯金もどんどんと減っていき、弁当は作ってくれなくなり、会話が減った。
お小遣いは増えず、弁当はコンビニで出来るだけ節約する。

最近、夜遅く帰ってくるようになったり、触

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鏡越しの君 #5 魔が差す

「これ、落としましたよ」
顔を上げると、差し出されたボールペンを受け取った。
「ありがとう」
後輩の山本さんだ。
薄化粧に髪の毛はいつもボブの黒というなんの変哲もない彼女。
特別、話も上手くなく同期の友人も多くないため、いつも一人でいる。
コツコツと仕事をしているところしか評価が上がらない。
今まで意識すらしたことがない。
正直、どっちかと言うと昔から目立つタイプでそれなりにモテてきた俺は、山本さ

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鏡越しの君#4 バタフライエフェクト

スマホの目覚まし時計が鳴る。スマホの画面は五月十六日になっていた。
時間は不可逆的だ。

下に降りると、見慣れたエプロン姿が振り向いた。
「おはよう。今日はちゃんと起きてきて珍しいわね。今日は雹かしら」
「母さん。良かった」

じんと鼻の奥が痛くなる。
ほんの数日会っていないだけのはずなのに、懐かしさを感じる。
慌てて欠伸が出た素振りを見せる。

俺が犯してしまった罪の申し訳なさと情けなさ、一瞬で

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鏡越しの君#3 絶望と喪失

ぼんやりとご飯を口に運ぶ。
「お腹空いたな。腹が減ってはなんとやら」矢本は俺の隣に座った。
「今日はハンバーグ定食か。得した気分だな」
「うん」
昨日のことでそれどころではない。
ご飯が喉を通らない。

「なんか元気ないよな」
やっぱり矢本には見透かされている。
だけど、こういう時はいじってこない矢本の優しさに余計に惨めな気分になるから言うのはやめておく。

「俺の唐揚げあげる」
唐揚げ定食の大き

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鏡越しの君#2 大事な物

次の日の朝、まるでいつも通りかのように起きて電車に乗り、会社についた。
身体は覚えていて悩むことはなく順調に会社に着いた。
いつもこんな満員電車に乗っているのかと我ながら感心する。

狐につままれた気分で恐る恐る社員証をかざすと、扉が開いた。

「よっ、田渕」
肩を掴まれて振り返ると、男の俺から控えめに言っても爽やかで格好いい男がいた。

「おはよう。矢本」
するりと名前が出てくる。
この奇妙な感

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鏡越しの君 #1

#1ルビー・サファイア

鬱々とした曇り空を見上げた。ため息が吸い込まれていく。学生を横目にトレーを席に運ぶ。

この辺りではここにしかないってのもあるが、ここのファーストフード店はいつも賑わっている。

ハンバーガーを口に運ぶと、何も考えていなかった学生時代を思い出す。

この春、就活に失敗した。お祈りメールを何通もみた。◯人と聞いて何を思い浮かべるだろう。

俺は凡人だ。どこまで行っても凡人に

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