「好きなことで生きていく」は本当に可能か? / プロフェッショナル・インタビュー
本記事は、Profession Hubに参画頂いた芸人・ライバーの「昆布ちゃん」さんへのインタビュー記事です。
最初の挫折は高校受験
ーー自己紹介をお願いします。
芸人の昆布ちゃんです。ドラゴンボールなど、色々なアニメのものまねをやってます。おそらくテレビで一番最初にタラちゃんのマネをやったのは僕です。
2007年くらいですかね?ライブでモノマネ漫才をしてたら「エンタの神様」に呼ばれて。先輩でタラちゃんのモノマネをしてた方はいましたが、ちゃんとネタでやったのは初だったと思います。
ーー出身は北海道とのことですが、最初に芸人になろうと思ったのってどういうきっかけだったんですか?
高一の頃です。漫画が好きで、絵に関わる仕事をしたくてそういう学校に行こうと思っていたんですけど、受験に失敗しちゃって。
進学した先が酷い学校で、いじりというか、いじめが横行してるんです。誰かが一人のクラスメイトの頭を上履きでバッコーンって殴って、クラス全員爆笑してる、みたいな。
ツッコミとかじゃなくて、本気でフルスイングですよ?それを見て、皆んなゲラゲラ笑ってて。ノリが下品じゃないですか?全然面白くない。
俺はそんな環境にいて、一方、本気で絵の世界を目指してるやつは、その三年間で専門学校で勉強とかしてる。そこで自分の人生が見えちゃって。「このままこんな人生を歩むのかな」って。
だから学校には良い思い出が全然なくて、でもそんな中、お笑いだけが唯一の癒しだったんです。好きなお笑い番組を録画して、面白いところだけ繰り返し見て、分析する、みたいな。そしたら、自然とその道に行きたいと思うようになって。
ーー卒業後はどうなっていくんですか?
就職することを口実に上京して、3年くらい働いてお金を貯めて、NSC(吉本の芸人養成所)に入りました。でも、全然うまくいかなくて。
俺、赤面症だったんです。人前に出るとアガっちゃって。お笑いは好きだったし、分かるんですよ。でも、実戦が全然できなくて。
ライブで人前に出ると足が震えて、頭が真っ白になって。だから授業中も、ひたすら当てられないように気配を消して……ネタとかも全然考えられなくて、バイトばっかして。
選抜クラスに行った同期の面白いやつらのライブとかを見るんですけど、客席でずっと惨めな気持ちでした。
で、とはいえなんとか相方見つけてやってたんですけど、卒業ライブでクソ滑ったんです。楽屋に戻ったら半笑いの相方が「俺もう辞めるわ」って。当時の相方は大学を休学してたんですけど、もう大学に戻って就職する、みたいな。
俺はもう何もないから取り残される訳ですよ。自分は一人じゃ人前に立てないし、でも相方もいないしで、なんとなくフリーターとしてなんとか生きてて……正直、当時はマジで腐ってました。
エンタの神様は微笑まない
ーーそうだったんですね……それからどう立ち直ったんですか?
きっかけは二つあります。
一つはある同期の言葉でした。もう完全に心が折れて、芸人やめようかなって思ってたんですけど、そいつに相談したら「まだ完全燃焼してないでしょ」って言われて、目が覚めて。
で、それくらいの時に兄貴が上京してきたんですけど、関根勤さんの舞台を一緒に見に行ったんです。カンコンキンシアターっていう。で、そこで人生で一番ってくらい笑って、「お笑いってなんで素晴らしいんだ!」ってマジで感動して。
その時、やっぱり俺お笑いやりたいなって心から思ったんです。で、その舞台のパンフレットに浅井企画の養成所のチラシがあって、そのまま申し込みました。めっちゃ安かったので(笑)
で、そこで二組くらいコンビを組んだんですけど、やっぱりなかなかうまくいかず。また心が折れかけて、「もうこれで本当に最後にしよう」と組んだのが高円寺パルサーってコンビで、相方がモノマネをやってて。
俺はモノマネはできなかったんですけど、ボケとツッコミ両方がモノマネしながら漫才したら新しいかなと思って練習したんです。当時はそういうスタイルのコンビがいなかったので。
で、いざ披露してみたら、めちゃめちゃウケたんです。もう、最初から最後までずっとウケて。「あれ、これすごくね?」ってびっくりして。
ーーそれがターニングポイントだったんですね。
はい。というのも、吉本の時の同期で囲碁将棋っていう正統派なコンビがいるんですけど、めちゃめちゃ面白かったんですよ。その後”THE MANZAI”とかにも出てるんですけど、当時からもう完成された漫才をやってて。
普通にやってたら絶対追いつけないなって思って、そういうやつらがやらないことやんないとな、と。
で、自分たちの漫才が初めて大ウケして、出るライブで毎回優勝とかするようになってたら、ある日”エンタの神様”に呼ばれて。
ーーいきなり世界が変わったんじゃないですか?
いや、実はそうでもないんです。
それまで5年くらいは全く結果が出てなかったし、しかもその頃には働いてたショーパブみたいなとこで酷い扱いをされたりしてたんで、確かに環境は変わってたかもしれないですが、実感を感じられなくて。
おまけに相方とうまくいかなくなったんです。世界観が強くて、コミュニケーションが難しいやつだったので、事務所の人含めて、そいつとのやり取りにいつしかストレスをすごく感じるようになってて……
後はまあ、給料事情なんですけど、やっぱり多少メディアに出てもそれで食える程にはならなくて。具体的には言えないんですけど、地上波の仕事を何本かやっても「ギャラこんなもんか……」みたいな、色々と不公平で。もちろん事情は分かるんですけどね。
で、結局色々あってコンビを解散して、事務所所属もなくなったんですけど、どこかホッとした自分がいました。
ピン芸人からライバーに
ーーまたピンになることに葛藤はなかったんですか?
ありました。やっぱり、コンビで漫才してウケた幻影みたいなものがずっとまとわりついてて、ネタもコンビ向けのものばっかり出てきて。その後何度か組んだり解散したりっていうのを繰り返してるうちに、いつしかピンもコンビも一緒だなって思うタイミングがあって。
というのも、コンビって脳みそが同じ方向を向いてないと続けられないじゃないですか。単純にスケジュールも合わせなきゃいけないし、価値観も合わせなきゃいけない。上下ならまだしも、並列関係なので、簡単じゃなくて。
それでずっとモヤモヤしてたんですけど、やっぱり自分でやるしかないなと思って、色々始めたんです。ボイトレに通ったり、声優の学校に行ったり……そしたら夏目亜季ちゃんっていう友達にイチナナライブ(現17live)を勧められたんです。
そしたら、それがうまくいって。
ーー最初からうまくいったんですか?
いえ、そういう訳ではないです。
当時、イチナナが台湾から日本に来て半年くらい?とかなんですけど、ライバーは可愛い子ばっかりなんですよ。こんなおっさんが配信ってどうすんだよ、みたいな(笑)
最初の一ヶ月ぐらいは四時間配信してギフト0とかで。見かねた夏目亜季ちゃんがちょこっと投げてくれる、みたいな。特に始めたての、コメントがない時はリアクションもないので結構しんどくて……
「もうやめようかな」って思いながらも、たまにファンから「応援してる」って少しギフトをもらって、「もうちょいやるか」みたいな続けてたら、そのうち「なんかセルが配信してるぞ」みたいな噂になって、少しずつファンが増えて。
いつしかバイト辞めれるくらいになってました。
それから色々なプラットフォームを一通りやりました。イチナナ、BIGO LIVE、ふわっち……今はTikTok Liveを昼と夜に一日二回やってます。
ーーやり方は自分で覚えていったんですか?
一応、それぞれマニュアルみたいなものがあるんです。最初は配信者の少ない早朝が良いとか、お昼は休憩中の社会人が見るから良いとか、共通のものはあって。
でもそれだけだと不十分で、例えば学生がたくさん見てもギフトがなかなかもらえなかったり、同接が多くてもコメントがないと盛り上がらないとか、そういうリアルな情報の方が大事で。
配信プラットフォームの違いも色々あります。金額や他のSNSの制限とかの条件面、そもそもの認知度の違いに、他の配信者に挨拶回りをする文化があるかないか、とか。
キャラ設定もそうです。俺は芸が先にあったタイプですが、普通の人はそうじゃないし、ただ雑談するだけならその能力は女性の方が長けてたりとかしますし。逆に自分は「テメェはもう来んじゃねえ!」とか言ったりするんですけど、それがウケたりとか。
なので、やりながら自分で自分の勝ち方を見つけていった感じです。
ぶっちゃけ、こうすれば絶対うまくいくっていうのは存在しなくて、自分のキャラややりたいことによっても変わってくると思うんですよね。だからもう、試行錯誤するしかない。
好きなことで食うには
ーーでもそれって、言うほど簡単ではないですよね?
はい。実際、俺も全然見てもらえなくて、一人で延々と話し続けてギャラがほぼないみたいな時がありました。
で、今振り返ると、自分自身やりたいことがあったから続けられたんだと思ってます。
例えば俺は芸人としてやりたい気持ちがあったんで、ライブ配信も一種の練習として捉えられて。一日二時間も三時間も喋ってると、喋り慣れるじゃないですか。ラジオとか呼ばれても、ちょっと「時間埋めろ」みたいなこと言われたら埋められるっていうか。どんなエピソードでもぱっと喋れるんですよ。
実際、配信をサボってる時期は急に声出した時に喉が枯れちゃったりとかして。配信を続けてると、コンディションが保たれる。何て言うのかな、お笑いのトレーニングをしてるっていうか。それで収入にもなるんだから最高ですよね。
たぶん、配信自体が目的になるとしんどくて、芸人でも役者でもミュージシャンでもいいんで、「自分はこれがしたい!」っていう目的があって、そのための手段として配信を捉えると、続けられるのかなって思います。
俺も確かにしんどい時もありましたが、今となっては感謝しかなくて。
芸人として地上波に出て事務所から貰えるギャラより、配信の方が稼げた。それまで一心不乱にやり続けてたことがちゃんとお金になったことがなかったのに、ようやく自分のやってきたことが報われたんです。
だから、ただ稼ぎたいっていうモチベーションじゃなくて、自分のやりたいことで稼ぐ手段として配信をすると良いんじゃないですかね。
ーー最後に、これを見ている方に何か伝えたいことはありますか?
今、ありがたいことに好きなことだけで食っていけてて。お笑い、ゲーム、漫画……
人生色々あったんですけど、必死にモノマネ練習して色々なキャラのマネができるようになってからは、もう就職しようとか思わなかったんですよね。芸さえあれば色々なやり方があるって分かったので、芸人辞めるときは死ぬときかなって思ってます。
実は俺、両親が厳しい家で育ったんで、子供の頃に母親によく叱られたんです。「あんたゲームばっかやって」「漫画ばっか読んで」みたいな。でも結果的に、今はそれで食えてる。
だから、芸人でもミュージシャンでもなんでもいいので、自分の芸とか好きなものが一つあったら、色々やってみればいいじゃん、って思います。
配信でもいいし、YouTubeでもいいし、他のことでもいい。まずはやってみないと分からないじゃないですか。
で、もし困ってる人がいたら悩みを聞いたり、手助けできることもあるんじゃないかなって思います。どれだけ好きなことも、一人だけで続けるのは簡単じゃないから。
俺自身は昔から大好きなゲームの声優の仕事をいつかやりたいなと思っていて。好きなことはほとんどできたので、最後にそれだけできたら思い残すことはないなって思ってたら、実際、そういう話が来たんです。
好きなことを続けてると、そういう奇跡が起こる。
だから、自分が好きな、夢中になれることを続けましょう。そのための方法に困ったら、いつでも連絡ください。
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