見出し画像

「ジェンダー格差」(牧野 百恵著) を読んで、「大学入試の女性枠」の存在意義を考える


キーワード:労働経済学、教育経済学、男女賃金格差、教育格差、ジェンダー論、統計学、因果推論

はじめに

今回の記事は2024/12におこなった、東京大学 Connect ー性教育を考える学生の会ー の勉強会の内容をNote用に書き直したものとなります。

改めてこのような機会を設けてくださったConnectそして、団体代表の高田さんはじめ今回の勉強会に参加して下さった方々にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

また、私はこの分野については現時点では全くの素人です。
もし内容に関して間違いや、不適切な引用方法、その他ご指摘などございましたら、遠慮なくNoteのコメントや私のXへDMをください。

私の経歴・バックグラウンド

こんにちは、こーたと申します!
今回は、普段のデータサイエンス記事とは違い、ジェンダー格差という本についての内容に触れながら、タイトルにもある通り近年話題の大学入試の女子枠について考えていきたいと思います!

はじめに、ジェンダーというテーマからこの記事を見てくださった方向けに軽くバックグラウンドについてお話出来ればと思います!

私は現在、法政大学 通信教育部 経済学部経済学科に在籍しています。大学では主に広く経済学統計学データサイエンスなどを学んでいます。また、学外の活動にて、データアナリスト・データサイエンティストとして長期インターンを計2社、1年以上やっています。

ここまでのバックグラウンドを見てみると、一見ジェンダーというテーマには馴染みがなさそうですよね・・・?

というわけで、なぜこの記事を書こうと思ったのか、そして、そもそもこの「ジェンダー格差」という本に興味を持ったキッカケについてお話していきます。

この本に興味を持ったキッカケ

この本に興味を持ったキッカケは主に2つあります。

まず1つ目は、大学の労働経済論の授業を受けたことです。
この授業では、経済学の基礎的なモデルやアプローチを用いて労働経済というテーマにおける諸問題について考えていくという授業で、その中で「男女間の賃金格差」の問題について触れたことから、この格差を生み出している要因や、解決方法について興味が湧いてきたというのが1つ目のキッカケです。

そして2つ目は、普段統計学を扱う仕事にインターン生として働いているにも関わらず、「因果推論」をあまり触れてこなかったため、勉強するにあたってまずは事例を知ろうと思ったことから、せっかくなら興味がある労働経済に関する問題に対して因果推論を用いてアプローチをするような話はないかなと思った時に、この本に関する動画を見つけられたことが2つ目のキッカケです。

ちなみにどこで見つけてのかというと、PIVOT 公式チャンネルです。

この動画を見てから、面白そうだなと思い買って実際に読んで見たところ、非常に勉強になるような内容がたくさん載っていたので、今回はその中でも第4章の「助長する「思い込み」 ー典型的な女性像」という章の内容に触れながら、「大学入試の女性枠」というテーマについて考えていきたいと思います。

追記: 2025-2-2

女子枠批判に関する記事がX上で話題になっていました!
参考になるかと思いますので興味のある方は是非一読して見て下さい!

「女の子のステレオタイプ」が教育にもたらす影響

さて、突然ですが読者の皆さんは「学校の勉強」において「女の子」といったらどんな科目が得意なイメージがありますか?また、世間一般的にはどのようなイメージが持たれやすいと思いますか?

きっと、「英語や国語、美術、音楽あたり成績が良さそう」と思う方が多いはずです。

逆に「数学や理科科目が得意な人は、少なそう」と考えるはずです。

実際その予想は正しいと言えるでしょう。「ライフプランニングと幸福感に関するアンケート(n=6757)」という調査の結果を引用すると、「15 歳の時、最も得意な(好きな)科目はなんでしたか」という質問に対して女性国語、英語、数学と答える人が多く、男性数学、社会、理科と答える人の割合が多かったという結果が出ていました。

得意科目がその後の労働時間・賃金に及ぼす影響のジェンダー差より引用

また、これらの結果に準ずるかのように大学の進学割合も、国語、英語などが重視されやすい人文科学・教育分野女性が、そして数学、社会、理科が重視されやすい社会科学・理学・工学分野男性が多いということが、以下のデータから分かります。

令和5年度 大学-分野別男女別入学者数 より筆者が作成

では、このように男女によって得意科目が分かれる理由は一体なんなのでしょうか?というところから書籍の内容に移っていきたいと思います。

書籍P.86の、STEM分野の男女差という小見出しの中で、
「STEMと呼ばれる数学やサイエンスの理系分野について、多くの人は、女性より男性の方が得意だと思っているでしょう。このことを男女の生まれつきの違い、もしくは脳の構造の違いのように思っている人も多いでしょう。

(中略)

日本や多くの欧米諸国で、女性よりも男性の方がSTEM分野が得意だということは、平均的には間違いないでしょう。しかし、ここにも「わずかな事実」によるステレオタイプが作用している可能性が高いのです。」
と、書かれています。

要するに、科目の得意不得意には生物学的な差はなく、私たちが持っている「女性といったら国語、英語が得意そうで、数学や理科は苦手そうだよね〜。」というステレオタイプが、女性の理系科目が不得意という結果に影響している可能性があることを、筆者は示しているのです。

また、"AN EMPIRICAL ANALYSIS OF THE GENDER GAP IN MATHEMATICS"という論文から、「実際に女子校にいる女子の数学の成績は男子とさほど変わらないことがわかっている。」ということを引用しており、このことから、男女別学だと周りのステレオタイプの影響を受けずに、真に自身に合った得意科目を選択することができるようになる生徒の割合が増えることを示しています。

教師のステレオタイプが生徒に与える影響

ここまでステレオタイプが学問分野の得意不得意に与える影響についてをお話ししてきましたが、このステレオタイプの影響を受ける、すなわち「女子が数学や理科が苦手という低い自己評価をしてしまう背景」には、親や教師などのステレオタイプの影響が大きいということが分かってきたということを、筆者が論文を引用しつつ説明をしていたので、ここでも紹介させてください。

"Implicit Stereotypes: Evidence from Teachers’ Gender Bias" という研究では、教師が持つ無意識の性別ステレオタイプが生徒の学業成績や進路選択に与える影響について分析されています。この研究では、イタリアの中学校の教師を対象に「Gender-Science Implicit Association Test(IAT)」を用いて、教師の性別ステレオタイプの強さを評価しました。その結果、教師の性別ステレオタイプが特に女子生徒に対して大きな影響を及ぼしていることが示されました。

具体的な内容としては、性別ステレオタイプの強い教師に教えられた女子生徒は、数学の成績が低下する傾向がありました。また、こうした教師の影響を受けた女子生徒は、自身の数学能力に対する自信を失い、将来的に難易度の低い高校の進路を選択する確率が高まることが明らかになったという論文です。

筆者はこの論文の実証結果が示していることとして、
女子は生まれつき数学やサイエンスに向いていないのではなく、そういった思い込みが教師や親など周りの大人たちに刷り込まれた結果、本当に数学やサイエンスが不得意になってしまうこと。そして、学問分野の選択は将来の職業につながるため、このような思い込みが男女の所得格差に無視できない影響を及ぼしている可能性があり、思い込みが将来にわたってジェンダー格差を助長することを示しているエビデンスと言えるでしょう。」
と、述べています。

ここまでの話をまとめますと、

  • 勉強科目における男女のステレオタイプが存在する
    一般的に「女性は国語や英語が得意で、数学や理科が苦手」というイメージが持たれており、調査結果や大学進学のデータもこれを裏付ける傾向がある。

  • STEM分野での男女のギャップにステレオタイプが影響
    STEM分野(科学、技術、工学、数学)において、男性が女性より得意とされる背景には、男女の生まれつきの違いではなく、「わずかな事実」によるステレオタイプが大きく作用している可能性がある。

  • 教師の無意識の性別ステレオタイプが生徒に与える影響
    教師の性別ステレオタイプが女子生徒の成績や自己評価を低下させ、将来の進路選択にも悪影響を及ぼしている。

  • ステレオタイプがジェンダー格差を助長する
    教師や親からの思い込みが、学問分野やキャリアの選択を制限し、結果として男女の所得格差の要因となる可能性がある。

といった感じです。

理系分野における女子のモデルケース

STEM分野を得意としていたり、進学先としてSTEM分野を選ぶ女性を増やすためには、これらのステレオタイプを強く意識しないようにすることが重要になってきますが、筆者はお手本となる女性、すなわち「ロールモデル」の存在も重要な役割を果たすことが分かってきたということを、「アメリカ軍士官学校」の論文を根拠にして語っていました。

根拠としている論文は、"SEX AND SCIENCE: HOW PROFESSOR GENDER PERPETUATES THE GENDER GAP" (以降、"性と科学"と呼ぶ)で、この論文は、数学やサイエンスの担当教官が女性だと、教官が男性である場合に比べて、その後に女性の学生が数学を専攻する割合が高くなり、STEM分野の学位を取得する可能性が高くなることを示しています。

このように、周りのステレオタイプの認識以外にも身近な理系女性というモデルケースの存在が、女性の進路や得意分野に影響を及ぼすことが分かっています。

女子の理系分野進学率が低いことはなにが問題なのか

ところで、ここまで女子の理系分野への進学率や得意とする意識が低いという話と、その原因や根拠について色々語ってきましたが、そもそも何故女子の理系分野への進学率が低いことが問題として挙げられているのでしょうか。

結論としては、これらは全て「男女の賃金格差」に繋がってくるからです。

ちょっと前の文章で筆者の牧野百恵先生が著書内で語っていることを引用していますが、「学問分野の選択は将来の職業につながるため、このような思い込みが男女の所得格差に無視できない影響を及ぼしている可能性があり、・・・。」という点がまさに、何故女子の理系分野への進学率が低いことが問題なのか?という問いに対する答えになっています。

つまり、特に欧米で顕著なようですが、STEM分野の職種の方が、いわゆる人文系よりも所得が高い傾向にあるのです。そのためこのSTEM分野を得意とするかの男女の違いが、男女の所得格差にも影響していると言えるのです。
(もちろんこれ以外にも、所得格差が生まれる原因となる事象はあります。)

なので、ここまで述べてきたステレオタイプの問題やロールモデルが少ないという問題は、単に教育の場での偏りや不平等という話にとどまらず、男女の経済格差にも直結している重要な課題と言えます。

ではこの女性のSTEM人材を増やしていくにはどうしたら良いのか?という課題を踏まえて、次の大学入試の女子枠について考えていきたいと思います。

大学入試の女子枠とは

ここから「大学入試の女子枠」というテーマについてお話ししていく前に、軽くこれがどんな内容なのかについて説明していきます。

そもそも「大学入試の女子枠」というのは、今に始まった話ではなく歴史を遡ると1994年に名古屋工業大学が初めて機械工学科(現:電気・機械工学科)で、160人の定員に対して、入学する女性が2人という状態で、女性が極端に少ないという状況を改善するために導入されたのが、日本での最初の事例として確認されています。(国立かつ共学の例)

現在では特に増加傾向にあり、2024年度入試時点では国公私立の計36校(大学入試の女子枠2024年入試で増加!|旺文社教育情報センター)が、大学入試に女子枠を設けています。

そして、これら「女子枠」のほとんどが工学系、理学系の学部であり、ここまで述べてきたように男女の進学率の差が最も激しい分野ということがわかります。

また設置する背景としては、

  • 「ものづくりなどの現場では、男性だけでなく女性のニーズにも応えられるような発想が必要で、企業からは『工学系の女子学生がほしい』との要望がある。女子学生を育てることで女性教員も増やしたい」

  • 「一様なメンバーが集まっても似た発想しか出てこない」

  • 「日本全体として理工系に対する女性のアクセスを必ずしも十分に提供してこなかった。もともとあった段差を乗り越えないといけない」

といった考えが挙げられています。
(引用:「偏差値下がる」批判も一蹴 大学入試の「女子枠」なぜ必要?「もともとあった段差を乗り越える」 受験で拡大する女子枠の意義

しかし一方で、現状として、

  • 「不平等ではないか」

  • 「逆差別的ではないだろうか」

  • 「大学の偏差値が下がる」

といった意見も上がっているようです。
(引用:理工系学部の「女子枠」入試が急増、"逆差別"と反発を受けても続ける大学の実態とは「偏差値下がる」批判も一蹴 大学入試の「女子枠」なぜ必要?

ではこの「大学入試の女子枠」が社会に与える影響について、引き続き「ジェンダー格差」の第4章を参考にしながら考えていきたいと思います。

「大学入試の女子枠」が社会に与える影響

STEM分野に進む選択をする女性を増やす上で、成功したロールモデルの存在は、先ほど例として紹介した"性と科学"の論文でも示されているように、非常に重要なことです。

またロールモデルができれば、「女性は理系分野が苦手な傾向にある」といったステレオタイプを持つ人々も少なくなっていくでしょう。
(あくまで私個人としての感覚なので検証が必要だとは思いますが。)

これらの実証結果や仮説を踏まえて、もうお気付きかと思いますが「大学入試の女子枠」が社会に与える影響は、まさに「ロールモデル」を増やすことに繋がってくるのです。

私個人としては、一般的に語られる「多様性の確保」や「男女バランスの調整」というのは、より短期的な問題解決の視点に基づいているのではないかなと思います。それよりも、この「大学入試の女子枠」というものは、数十年単位の長期的な視点に基づいた「男女の賃金格差」という問題を解消することに繋がってくるのではないかと考えています。

また、ロールモデルを増やす必要があるならば、「大学入試の女子枠」を、STEM分野だけでなく教育学部の数理・情報系分野まで範囲を広げるべきだと考えます。

例に漏れず"性と科学"という論文では、女性の数学教員が教えることによってその後の専攻を数学にする女子生徒が増えたことを実証していました。すなわち、身近なロールモデルがその後の進路に影響を及ぼすことは実証されているのです。そのため、日本において進路選択が発生する時期でもある、高等学校の数学、理科、情報科の女性教員数を増やすことが必要だと考えます。

現状これら分野における女性教員数は、以下のデータを見ても分かる通り各分野ともに男性教員と2倍以上も教員割合に差が出ている。

学校教員統計調査 平成28年度 第1部 高等学校以下の学校及び専修学校,各種学校の部
教員個人調査 高等学校
より筆者が作成

そのため、これら分野の女性教員数すなわち身近なロールモデルを創出するという点において、教育学部の数理・情報系分野における「大学入試の女子枠」の設置は必要なのではないでしょうか?

そして、同時に教員以外のロールモデルに触れる機会も創出していく必要があると私は考えます。

今後、女子枠によって入学した人たちが社会に進出した際に、理系の知識・技術を活かして活躍をしているということを、様々なメディアを通じて広めていくことで、今後女子生徒の理系分野進出におけるロールモデルとして活きてくるのではないでしょうか。

このように、「大学入試の女子枠」は単なる入試制度としてだけではなく、社会全体で女性が理系分野へ進出するための基盤を構築する取り組みであると言えます。この制度を通じて増えるロールモデルや女性教員は、次世代の女性たちにとって「自分にもできる」という信念を持たせる重要な存在となることでしょう。

さて、ここまで事例の比較によって、「大学入試の女子枠」という取り組みが社会に与える影響について考えてきましたが、こうした取り組みの効果を本当に確認するためには、定量的な検証が不可欠です。

「大学入試の女子枠」によって社会や教育現場がどのように変化したのかロールモデルの増加が実際に次世代の女性たちにどのような影響を与えたのか、データに基づいて明らかにすることが求められます。

次章では、この女子枠がもたらす影響の効果をどのように検証できるのか、その方法論について考えていきたいと思います。

女子枠がもたらす影響の効果検証方法

ここまで、「大学入試の女子枠」がロールモデルの創出を通じて長期的な社会変革に繋がる可能性を見てきました。しかし、この取り組みが実際にどのような効果をもたらしているのかを理解し、その成果を正当に評価するためには、統計的なアプローチを用いた効果検証が不可欠です。

特に、女子枠の導入によって何が変化したのかという「因果関係」を特定することが重要です。因果関係とは、ある出来事(原因)が別の出来事(結果)を直接的に引き起こす関係性を意味します。

一方で似た概念として「相関関係」というものがあります。相関関係とは2つの出来事が同時に起きていることを示すだけで、その間に因果があるとは限りません。この違いを理解することが、正確な効果検証の第一歩となります。

少し具体例で考えてみましょう。たとえば、「アイスクリームの売上」と「溺死事故の増加」があります。この2つは高い相関関係を示しますが、これはどちらかが原因ではなく、共通の要因(暑い夏)が影響しているだけです。このような背景要因を無視して「アイスクリームが溺死事故を引き起こしている」と結論付けると誤解を招きます。

もう少し今回のテーマに沿った例として、女子枠の導入と女性の理系進学率の上昇が同時に観察された場合、これは一見すると「女子枠が進学率を上げた」という因果関係があるように見えるかもしれません。しかし、もしその期間に学校教育全体で理系分野を推進する新たな政策が施行されていた場合、この進学率の上昇は女子枠の効果ではなく、政策の影響かもしれません。これが「相関関係」だけでは因果を特定できない典型例です。

このように、因果関係を特定するためには、他の要因(交絡因子)を適切にコントロールし、本当に「女子枠」が進学率上昇の直接的な原因であるかを明らかにする必要があります。そしてこの因果関係は端的にいうと、統計的手法を用いて、女子枠の導入前後で進学率にどのような変化があったのかを分析し、他の影響要因を排除することで検証できます。

この因果関係の特定を怠ると、取り組み効果を過大評価または過小評価するリスクが生じます。では、女子枠の効果を正確に検証するためには、どのような手法を用いるべきでしょうか。

まず大きく、以下のような流れを踏みます。

効果検証の大まかな流れ (筆者作成)

では、具体的なステップと分析手法について、実際に「女子枠が導入」された際の効果検証をする想定で、仮説段階から考えてみましょう。

1. 仮説の策定

ここでは最初に「女子枠導入」の目的を明確にし、成果を測定するための仮説を立てます。

  • 政策目的の明確化
    女子枠の主な目的が「女性の理系進学率向上」と「ステレオタイプの解消」であると定義します。

  • 因果メカニズムの検討
    女子枠導入がどのように成果に繋がるか、具体的なプロセスを仮説化します。たとえば、

    • 女子枠導入 → 女性の進学率向上 → 理系分野のロールモデル増加 → ステレオタイプの解消

  • 評価指標の決定
    成果を測定するための指標を明確化します:

    • 進学率:女子枠導入前後の理系分野の女性進学率

    • ステレオタイプ解消:世論調査データに基づくステレオタイプ認識の変化

    • キャリア成果:卒業後の就職率や研究成果

2. データの収集

仮説を検証するために、適切なデータを収集します。

  • 対象集団の設定
    女子枠が導入された学部や大学を「処置群」とし、導入されていない学部や大学を「対照群」と設定します。

  • データの種類

    • 定量データ: 女子枠導入前後の進学率、成績、就職データ

    • 定性データ: 女子枠の影響を受けた学生や教職員へのインタビュー、アンケート

  • 時系列データの収集
    女子枠導入前後での進学率や世論調査データを収集し、時間的な変化を分析します。

3. 評価手法の選定

因果関係を特定するために適切な統計手法を選択します。

  • 差分の差分法(DID)
    処置群と対照群で進学率の変化を比較し、女子枠の効果を特定します。

  • 傾向スコアマッチング(PSM)
    学生や大学の背景要因(例: 家庭環境、地域性)を統制し、処置群と対照群をマッチングします。

  • 回帰不連続デザイン(RDD)
    女子枠適用条件(例: 入試スコアの閾値)を活用し、進学率の変化を分析します。

4. データ分析

収集したデータを分析し、仮説を検証します。

  • 記述統計の確認
    基本的な統計量を確認し、データの全体像を把握します
    (例: 進学率の平均値、分布の傾向)。

  • 因果推論の実施
    選定した評価手法に基づき、政策効果を推定します。
    たとえば、DIDを用いて女子枠導入前後での進学率の差を比較します。

5. 結果の解釈とフィードバック

分析結果を解釈し、政策に反映するための示唆を得るとともに、その得られた知見をもとに政策設計や運用を改善します。

  • 結果の統計的有意性の評価
    効果が偶然ではなく実際に意味があるかを統計的に判断します
    (例: p値や信頼区間の確認)。

  • 政策効果の解釈
    たとえば:

    • 効果が見られた場合 → 女子枠の拡大を提案

    • 効果が限定的であった場合 → 改善策を検討
      (例: 女性教員数の増加や進学後のサポート強化)

  • 限界と注意点の明記
    データや手法に関する制約を説明し、結果の外的妥当性
    (他の状況への適用可能性)について検討します。

その後、

  • 結果の共有
    分析結果を関係者(政策立案者、教育機関、社会)と共有します。

  • 改善点の提案
    効果が限定的であった場合、新たなアプローチや支援策を提案します。

  • 持続的評価
    政策の継続的な評価を行い、新たなデータを基にフィードバックを繰り返します。

このような流れを踏むことで、女子枠がどの程度理系分野への女性進学率向上やステレオタイプ解消に寄与しているのかを科学的に解明でき、また得られた結果を基に、政策の改善や拡大を合理的に進めることが可能となります。

最後に

ここまで、「大学入試の女子枠」をテーマに、ジェンダー格差という書籍を参考にその意義や影響、さらには効果検証の手法について考察を進めてきました。本記事を通じて浮かび上がるのは、女子枠が単なる入試制度としてだけではなく、ジェンダー格差の是正や社会全体の多様性向上に向けた重要な一手であるという点です。

労働市場における男女賃金格差や教育格差は、単に現在の経済的な問題にとどまらず、未来の社会のあり方に大きな影響を及ぼします。これらの課題に対処するためには、単なる制度の導入にとどまらず、その制度が果たして正しいのかという効果を科学的に検証し、データに基づいた政策の改善を継続して行うことが求められます。そのためには、因果推論などの統計学的手法を用いることで、政策の真の効果を明らかにし、その成果を正当に評価することが可能となります。

さらに、今回触れたロールモデルの重要性や教育現場でのジェンダーバランスの改善は、個人の選択肢を広げるだけでなく、社会全体の創造性やイノベーションを促進する可能性を秘めています。

今後、女子枠をはじめとするジェンダー平等に向けた政策が拡大し、その実施と評価が進む中で、私たち一人ひとりがデータに基づいて議論を深めることが重要です。このテーマを契機に、教育や労働市場における格差問題について多くの人が関心を持ち、社会全体で課題解決に取り組むことを願っています。本記事がその一助となれば幸いです。

2024/12/29

今回勉強会で使用したスライド

いいなと思ったら応援しよう!