影がある世界でよかった。
悲しくなったり、消えたいなぁと考えたとき、自分の足元や人の足元を見て安心することがある。
影。この世の誰の足元にもできるそれが、私はとても好きだ。いつから好きなのかはよくわからないけれど、きっかけは、おそらくある一冊の本。
それは、「影をなくした男」という本で、詩人であり植物学者のアーデルベルト・フォン・シャミッソーが書いた小説。実家の父親の何千とあったであろう本の中の一冊がこれで、私は小学生の頃にたまたま手に取って開いていた。自由課題で読書感想文の題材にまで選んだその本だが、私はあらすじをほとんど覚えていない。ただ、幸運の金袋と引き換えに主人公の青年が影を手放したところから物語ははじまる。それだけ覚えている。
それからだと思う。私は影がとても好きだなぁと思うようになった。
影はいい。万物に、万人に共通にできるもの。生きたいという願いの強さの分だけ影が濃くなったり、その日の悲しみの分だけ影が薄くなるようなそんなものじゃない。そんな世界じゃない、ということをわからせてくれるのが私にとっての影。
どんなことがあっても 陽があたれば平等に影ができる。見えない苦しみも多いし、なにもせずとも泣けてくるような日々だってある。救われないなぁと思ったりもする。それでも、私の下にはちゃんと影がある。それは、私に陽があたっていることの証明でもあるわけで。
今日も影に救われている。少しだけ生きていける気がしている。
もう内容も覚えていない、シャミッソーの「影をなくした男」。久しぶりに読んでみようかな。
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