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冬はやがて、

「12月7日何してるん」

5年近く会ってない相手からのLINEは、なんだかつい最近会った友人のようで、通知を見た瞬間に身体の内側で何かが飛び跳ねたような感覚になった。

「今のところはお仕事の予定」
「よるは?」

飲み会にそんなに行くこともない私、夜の時間はだいたい空いていて、それを伝えると「なら、空けといて」だけ言われた。約5年ぶりの再会の約束は思っていたより淡々としていた。

この約5年間、本当にほとんど連絡を取っていなかった。最後にちゃんと話をしたのは、大学1年の冬だった。夏に彼が住むところに私が行き、彼が私が住むところに来てくれたのがその冬だった。そして、その冬以降、私たちは会わなくなった。そこから、約5年。会うなんて思ってなかった。いつか、なんてどうせ来ないと思っていた。

会うことになったきっかけは、10月に友人が押した彼のInstagramへのフォローリクエストだった。偶然、友人と彼の話題になり検索したら発見した彼のInstagram。悪ふざけで押されたフォローリクエスト。数分後に来た「なんだよ!」のLINE。なんだよ、まだLINEの連絡先、残してたんだ、と思った。
そこからなんとなく続いたLINE。数日後に飲み会終わりの彼からかかってきた約5年ぶりの電話。5年ぶりのくせに1時間半も話して、あの頃みたいだななんて思っていた。

そして、12月7日。会う日。
こんなに人と会うのにドキドキするのはいつぶりだろうだなんて思いながら、ふわふわする気持ちで仕事を終わらせて君の待つ場所へ向かう。久しぶりの胸が高鳴る感じ、嫌いではなかった。
待ち合わせ場所へ行くと、そこには懐かしい君がいて、私を見つけると少しカッコつけたような顔をしていた。お互いの第一声なんて覚えていないけれど、私はなんて言ったらいいのか分からず「おつかれ、久しぶり」くらいのことしか言えてなかった気がする。

それから、私たちはお店に入った。大好きな創作料理を出すお店。「わぁ、いいね!」と言いながら、二人でメニューを見て話していたら5分も経たないうちに私たちはあの頃の私たちみたいになった。

2軒目に移動してもなお、私たちはケラケラと笑っていた。お互いの仕事の話をして、5年前からの変化を感じていた。

会っていなかった5年間を埋めるような時間は、何時間あってもきっと足りなかったのだと思う。それでも、お酒を飲めば赤くなって陽気に笑って かっこよさを纏おうとしなくなっていた彼の方が、私は人間らしくてあの頃よりも好きだなと思った。私たちは5年間の時を経て、それなりに大人になって、それなりに色んなことを知った気になって、それなりに恋をして、地に足を着けるようになって、きっとあの頃よりも互いに自分らしくなっていたのだと思う。だからこそ、「素敵な子になったね」と言われながら頭を撫でられた時、まるで後輩の子を撫でるようだなぁと思ったけれど それがなんとも心地よかった。

いつかは来たし、「またね」はちゃんとあった。
「ちょっとは大人になったんだよ、もう子供じゃないんだから」って言うと、君は「そうだね」と言いながら笑った。その言い方が少し気に食わなくて、ふてくされた顔をしたら「かわいいね」と言われて、あぁ そういえばこの顔好きな人だったななんて思った。

5年ぶりの別れはあの頃のような湿った感じではなく、カラッとしていた。「じゃ、またね」と言いながら席を立って軽く手を振る彼に「気をつけてね、またね」とだけ伝える。彼がいなくなった電車に乗りながら瞳を閉じて、「またね、か」と呟いた。

彼とまた会う日が来るだろうか。もしかしたら来ないかもしれない。けど、なんだかそれでもいいような気がする。

きっとこれからまた会わなかった5年間のような時間を過ごしていく。彼は私の知らない場所で、彼なりの幸せを抱きしめて生きていくのだと思う。私はわたしで、私なりの幸せを抱きしめて生きていく。それでいいのだと、それがいいのだと、思った。

冬の夜は長い、けれど、それは長くは続かないから。
やわらかさを含んだ春は、すぐそばに。

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