「短歌人」2018年9月号 時評
「平成が終わる/平成で終える」 天野 慶
平成最後のヒマワリが咲き終わり、平成最後の紅葉、平成最後の雪、そして平成最後の桜へと続いてゆく。三十年続いた元号が変わり、新しい線が引かれようとしている。
<夜、名乗らない方からお電話あり。「若い女の子と組んで『短歌タイムカプセル』出して、いい気になるな。一部の歌人しか載っていない。こんな本、誰も買わない。短歌は大人の男の文学だ。お前は絶対、迢空賞をとれない」話が長くなりそうだったので「お買い上げありがとうございました」と切りました。>
七月一日に、千葉聡氏がTwitterに書きこんだ「つぶやき」。『短歌タイムカプセル』は東直子氏・佐藤弓生氏・千葉氏の編著によるアンソロジーで、幅広いチョイスからさまざまなメディアで話題になった一冊だ。アンソロジーを組む、つまり膨大な歌人の中から「選ぶ」ことは、「選ばれた人」と「選ばれなかった人」を生み出すことでもある。選ばれなかった悔しさを、作品にぶつける人もいれば、このように選者に直接ぶつける人もいるのだ。
今年の六月、人気ブロガーのHagex氏がイベントの後に、刺殺される事件が起きた。犯人はネット上のトラブルから、直接会ったことのなかったHagex氏を逆恨みし、犯行に及んだという。数年前にはライターの村崎百太郎氏が、自宅で刺殺される事件があった。こちらも犯人は直接本人とは面識がなく、村崎氏の本を読んで、逆恨みしたものとされている。悪意からだけ事件が起きるとは限らない。アイドルが刺される事件があったように、ファンが逆上して、というケースもある。暴力を振るわずとも、ストーカーとして付きまとう行為するだけでも大変な迷惑になる。
千葉氏に連絡をしてきた人物は、電話でコミュニケーションをとった。しかし、みんながそうとは限らない。ネットの書き込みから住所を検索したり、楽屋から出てくるのを待ち伏せしたり。過去の犯罪者たちと同じことをしない、とは言い切れない。
毎年刊行されている歌人たちの住所を一覧にした年鑑が、平成が終わろうとする今になっても販売されていることを、そろそろ問題視するべきではないだろうか。掲載について、許諾のはがきが来るのだから、嫌だったら断ればよい、というレベルではなく、悪意を持った人にも個人情報が簡単に入手されてしまう、という現状を、「事件」が起きる前になんとかするべきなのだ。
「ほめほめ商法」という詐欺もある。「あなたの作品は素敵なので、ぜひとも雑誌に掲載させていただきたい。有名な先生に講評も書いていただけます。つきましては掲載料〇万円が必要です」という電話や、封書が届くというもの。実際に掲載されたとしても、その料金は法外なものである。この詐欺にも、年鑑の住所が使われていることは、想像に難くない。
寄贈文化のために住所が必要なら、出版社が把握していればよいので、一般書店で販売する必要はないし、こちらからお礼状を書くのに不便ならば、出版社あてに「気付」で送ればよいのだ。
文通相手やバンド仲間の募集、個人間による商品取引の情報などを掲載していた月刊誌「じゃマール」が休刊になったのは二〇〇〇年。雑誌を見ての犯罪行為が多発し、社会問題となったためだ。「短歌を詠む人は、みんないいひとだから大丈夫」といつまで言い続けるのだろう。あなたや、あなたの大事な人が事件に遭う前に、平成の懐かしい風習として、終わらせることはできないのだろうか?
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