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「ウクライナから愛をこめて」のススメ

何度も読み多くの人にお薦めしているのが「ウクライナから愛をこめて」(オリガ・ホメンコ)です。著者自筆のイラストも素敵で、様々なお話が収められている。群像社刊。
群像社は横浜にあるロシア(やその周辺国、旧ソ連)専門の出版社で、数年前ノーベル賞受賞した「女は戦争の顔をしていない」(スヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチ)を、初めて日本に紹介した出版社として知られています。版権は移っていたので、いわゆる特需はありませんでしたが…。とても気概と良心が感じられる出版社。専門書のほか読みやすい短編集などもあり、私も何冊か購入しています。
群像社を知るずっと前から、私はこの作者のファンでした。SGRA(関口グローバル研究会)のメルマガ掲載のエッセイを通じて…SGRAは日本で博士号を取得した多国籍の研究者が中心となった組織で、メルマガには様々な人が執筆した多様なエッセイを掲載。それがとても興味深かったのです。そのなかで特に心を動かされたのが、オリガさんが書かれた、心優しいワレンティナの物語(書籍では「名もない村」のタイトルで収録)。
毎週末大好きなお母さんが暮らす村へ通っていたワレンティナ。1986年の夏も同じように…。チェルノブイリからの風はこの村を通っていると言われていたのに…。若くして白血病で亡くなった彼女と、その後に残されたドライフルーツの香りのする田舎の家。寓話的でどこか牧歌的な味わいもあり、しみじみと心に浸みてくる。
珊瑚のネックレスをしていたパージャおばあちゃんのお話もいい。生活がどんなに大変でも贅沢なものがひとつあると心が温かくなる、それは何でもよいけどあなただけの心を喜ばすものでなければならない…。自分の心を奮い立たせる、小さきものの知恵。
著者は、10代前半にキエフでチェルノブイリ原発事故も経験しており、東日本大震災のニュースで当時のことを思い出します。そのことを「チェルノブイリの記憶」の一篇に綴っている。「キエフの人は普通はチェルノブイリ事故のことをあまり思い出したがらない」の一節がとても心に残ってる。日本でも、福島の原発事故や太平洋戦争や…本当に苦しかったことは簡単に口にはできない。その心は、どこの国の人でも同じこと。
2016年に群像社主催でオリガさんを囲む会が行われたのですが、そのときにオリガさんが話された言葉に深く共鳴しました。「自分の心は守らなければならない」。
最近話題のウクライナ。ロシアとその周辺国、かつてのソ連…それらの歴史の深さは容易には理解できなくても、少なくとも第二次大戦頃にどれほどのダメージを受けたかについては、知らないのは罪、とも感じています。
小さきものの声、が踏みつぶされない世の中でありますように。それは万国共通の願い。

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