おすすめ絵本「たいせつなきみ」 人の目を気にせず生きる
これは、ウイミックスという小さな木のこびとの住む町のお話です。
こびとは、みんなエリという彫刻家が彫りました。
大きな鼻をしたのや、大きな目、のっぽにおちびさんなど、色々なかっこうをしたこびと達でした。
ウイミックスは、金ぴかのお星さまシールと、灰色のダメ印シールを持っていて、朝から晩までお互いにシールをくっつけあい暮らしていました。
なめらかな木で作られ絵具もきれいに塗られたこびとや、才能のあるこびと達は、いつもお星さまをもらいます。
でも、木がでこぼこだったり絵具が剥がれたりしていたら、ダメ印をつけられました。
何も出来ないぶきっちょなこびとにも。
パンチネロは、灰色のダメ印をいっぱいつけたこびとでした。
何をしても失敗ばかり。
「へまをしたら、またダメ印をつけられる。」
そう思うと、しだいに家から出るのが嫌になっていきました。
ある日、パンチネロはお星さまもダメ印もつけていないウイミックスに出会います。
名前をルシアといいました。
お星さまをつけようとしても、ダメ印をつけようとしても、ルシアにはどうしてもシールをくっつけることが出来ません。
パンチネロは、次第にルシアのことが羨ましくなります。
「誰からも良いとか悪いとか言われたくない。」
そう思うようになりました。
どうすればシールがつかなくなるのかルシアに尋ねてみると、
「毎日、彫刻家のエリに会いに行くのよ。」
そう教えてくれました。
パンチネロは、エリが自分なんかに会ってくれるのか不安でした。
ですが、こびと達がお星さまやダメ印をくっつけあっているのを見ると悲しくなり、エリに会いに行くことを決めました。
パンチネロは、丘のてっぺんのエリの家まで歩きます。
エリは、パンチネロを見つけるととても喜び、大きな声で名前を呼びました。
名前を知っていることに驚くと、
「もちろん知っているさ。
私がお前をつくったんだからね。」
と言いました。
そして、パンチネロを抱えて仕事台の上に置きました。
エリは、たくさんのダメ印を見て、優しく言いました。
「ずいぶん たくさんつけられたね。」
「そんなつもりじゃなかったんだよ。
ぼく一生懸命やったんだ。」
「ああ、何もかも分かっているよ。いとしい子。
誰が何と思おうとかまいはしないさ。」
「皆がどう思うかなんて大したことじゃない。
問題は、この私がどう思っているかという事。
私は、おまえをとても大切だと思っている。」
パンチネロは、笑ってしまいます。
自分のことを大切に思っているだなんて信じられないのです。
歩くのが遅いことや、飛び跳ねるのも苦手な事、絵具も剥げている事など、自分がどれだけダメなウイミックスかということを、一生懸命伝えました。
エリは、優しく見つめてこう言います。
「それはね、おまえが私のものだからさ。
だから大切なんだよ。」
「おまえがここへ来てくれることを願って待っていたんだよ。」
パンチネロは嬉しくて言葉も出ませんでした。
エリは、ルシアからパンチネロのことを聞いていました。
パンチネロはききました。
「どうして、ルシアにはシールがくっつかないんだろう。」
「それは、私の思うことの方が大事だと、あの子が決めたからなんだ。
みんながどう思うかなんてことよりもね。」
「シールがくっつくようにしていたのは、おまえ自身なんだよ。」
パンチネロは、エリの言うことは難しくてよく分かりませんでした。
「どんなシールがもらえるかってことを気にしていると、シールの方もおまえにくっついてくるんだ。
おまえが私の愛を信じたなら、シールなんてどうでもよくなるんだよ。」
エリは説明しましたが、それでもまだよく分かりませんでした。
「今に分かるよ。時間はかかるがね。」
エリはにっこり微笑みました。
こんなにダメ印をつけられたパンチネロの心を変えるには、たくさんの時間がかかることを知っていました。
「ともかく、これからは毎日私のところへおいで。
私がおまえのことをどれくらい大好きだか忘れないようにね。」
エリはそう言うと、パンチネロを仕事台から降ろして、床の上にそっとおいてあげました。
「忘れちゃいけないよ。」
「この手で作ったから、おまえは大切なんだってことを。
それから、私は失敗しないってこともね。」
外へ出ようとするパンチネロにエリが声をかけた時、
パンチネロは「ありゃ、本当だぞ。」
と思いました。
そして、その時、ひとつのダメ印が地面に落ちました。
絵本「たいせつなきみ」
作 マックス・ルケード
絵 セルジオ・マルティネス
訳 ホーバード・豊子
企画・編集 フォレスト ブックス
発売 いのちのことば社
1998年発行
英語版「たいせつなきみ」は100万部を超えるベストセラー
読み聞かせ時間 11〜12分
上記の文章は、あらすじを短くまとめたものです
私は娘の通う小学校で、絵本の読み聞かせボランティアをしています。
娘が入学してから始めたので、もう6年目になりました。
朝の会が始まる前15分と、お昼の給食の時間に、テレビで絵本を映しながら放送朗読する読み聞かせを行っています。
読み聞かせは月に2回程度です。
10人ほどの保護者で持ち回りしています。
今年は娘が卒業する年になりました。
今年度最後の放送朗読を私が担当することになったので、卒業のお祝いにこの絵本を読もうと考えています。
これから中学校に進学する子供達にむけて、少しでも力になるような物語を聞かせてあげることが出来たらと思っています。
この絵本には、たとえどんなことを言われようと、あなたを大切に思ってくれる人の言葉だけを信じ、周りの人の言葉に左右されることなく強く生きてほしいと願うメッセージがこめられています。
初めてこの絵本を読んだ時、母親はこのように子供に寄り添い、「あなたを大切に思っている」というメッセージを毎日伝え続けることが大事なのだと学びました。
子供が自分を信じ生きていく力を身につけるためには、決して否定してはいけないのだと。
でも、慌ただしい暮らしの中では、親が確かな愛を子供に届け続けることは難しいことです。
何度も否定する発言をし後悔しては謝り、本当は素晴らしい子供なのだと伝えるよう努力してきました。
私は、天秤の針が少しだけ褒める方に傾くことに成功しました。
なんとか彼女に大切なメッセージを届けることが出来ましたが、そうならなかった現実もすぐそばにありました。
親も生い立ちのハンデを背負い大きな困難を抱え、子供に愛を伝えることの出来ない場合もあります。
エリのような温かい言葉をかけてもらえない子供もいます。
子供にとって確かな言葉とは何だろうと考えた時、もしかしたら、それは親を超えた大きな存在なのかもしれないと思うようになりました。
この世に生きる全ての命は、見えない大きな存在に見守られ、大切に生かされているのではないかと。
宗教を信じている者にとっては、それぞれの信じる神がエリなのかもしれません。
私は友人を亡くした経験があり、その後から何かに見守られているという感覚を強く持つようになりました。
心が重くてどうしても起きられない時に、ふとカーテンの隙間から差し込む太陽のまぶしい光や、
子供がぐずり出掛けられずがっかりしていると、急な雨が降り外出しなくて良かったとホッとしたり、
結婚祝いに届いたプレゼントが、お弁当作りの本2冊と、可愛い調味料入れ2個。全く同じものが届いた奇跡に笑ったり。
心を研ぎ澄ませると、勇気づけられること、守ってもらえたこと、笑える奇跡がいくつもあり、見えない何かの存在を思わずにはいられません。
エリは、そうした大きな存在、私達をこの地球に届けてくれた命の源ような存在なのかもしれないと感じました。
子供にはまだそんな理解は難しいかもしれませんが、一人でも自分の味方になってくれる人に出会い、強く生きる支えになってくれたらいいなと願っています。
親に見守られていたとしても、周囲の声に悩み、生きるのが困難になる場合があります。
それなのに、一番身近にいる親から、存在を否定するような言葉をかけられて育った人もいます。
どんなにつらい人生を送ってきたことだろうと心が痛みます。
そんな人達にも、この本を届けたいと思います。
あなたを苦しめたお母さんやお父さんの言葉を信じないで、エリの言葉だけを聞いてほしいと願います。
親は子供を作ることは出来ません。
命は天からの授かりものです。
私達はみんなきっと大きな何かに作られているのだと思います。
その象徴がエリという彫刻家ではないかと思うのです。
この絵本は、全ての人へ温かいメッセージを届けてくれます。
イラストも素晴らしいので、ぜひ手に取って読んで頂きたい一冊です。
私は、エリを見えない存在として解釈しましたが、読む人にとって受け取り方は様々だと思います。
もしも、ご自分のお子さんが自信を無くしていることに気がついたら、ぜひこの絵本を読み聞かせしてあげて下さい。
お子さんにとっては、エリの言葉が両親からの言葉に聞こえるはずです。
とても大きな力になるのではと思います。
「大切に思っている」と、言葉で伝えることは難しいですが、この絵本をプレゼントしてもらえた子供は、きっと両親の愛を信じることが出来るのではないでしょうか。