見出し画像

読書感想文「シャーロック・ホームズの冒険」 やはり女性依頼人が重要 

イギリスの小説の女性
ホームズの第一短編集、一番目は「ボヘミアの醜聞」が選ばれていて、ワトソンは初めにホームズは恋愛に関しては手も足も出ないタイプだが、唯一アイリーン・アドラーという女性は例外で、ホームズは彼女に恋愛感情とは違う敬意のような特別な感情を抱いていると語る。

このホームズのアイリーンに対する評価は、イギリスの小説をそこそこ読んでいる読者なら素直に賛同できると思う。イギリスの小説に登場する女性キャラクター(特に19世紀から20世紀の初めぐらいまで)は、他の国の小説の女性キャラクターとは少しタイプが違う気がする。

「それはあなたの個人的な感想です」と言われたら降参するしかないけれど、特に19世紀のイギリスの小説の女性は、どことなく男性や世の中に対して醒めた視点を持っていて、でも内に強い意志を秘めている。頭が固そうで冗談は言わないが、結果的に目的を達成しているというイメージ。

例えば「ジェーンエアー」のヒロインも恋愛に溺れるというよりは、覚めた知性を最後まで維持して、後半に怒涛の展開があるけれど理性を崩すことなく、最終的に自分の目標を達成しているという印象が強い。イギリスの小説のヒロインで男性との恋愛で自分を見失って破滅するとか、心を病んでしまうキャラは他の国に比べて圧倒的にいない気がする。

そういう流れはコナンドイルのシャーロックホームズのシリーズにも表れていて、例えば「椈屋敷」の依頼人の女性ヴァイオレット・ハンター、ある資産家の男性から家庭教師の仕事に誘われているが、報酬は高額だけど髪の毛の長さを短くする、時々指定する服を着るという条件があって、何か怪しい感じがあるとホームズに相談しに来る。

この時点でイギリスの女性という感じがする。更にハンターはそこで働いている間に、何か相談したい出来事が起きたらホームズに連絡していいかと確認までする。実際にハンターを雇ったルーカッスルという紳士は、彼女に自分の娘の振りをさせていて、地下には鍵がかけられている怪しい部屋がある。この短編には四人の女性、家庭教師のハンター、屋敷の家政婦トラ―夫人、ルーカッスルの現在の妻、前妻との間に出来た成人している娘が登場する。凄いのはこの四人の内、ルーカッスルの現在の妻以外の三人は自力で問題を解決して自己の目標を達成していること。

ホームズは最後にワトソンと共に銃でルーカッスルの暴力を防ぐぐらいで、事件自体の解決はこの3人の女性でほぼ成し遂げている。要するにこの女性たちもアイリーン・アドラーなのだ。イギリスの小説に出てくる女性は19世紀の時点で、精神的には自立していて、自力で目的を達成する女性キャラクターが多い。イギリスは他の国と比べると別格といっていいほど有名な女性作家が数多くいて、そのイメージが強くてそう思うのかもしれない、それにイギリスの全盛時代は女王が作ったという歴史もあるのかもしれない。

ワトソンはハンターがしばらくして私立学校の校長になっていることを知り失望(お礼金でも貰った?)するのだが、ホームズは気にもとめない。ホームズのこの女性観が名探偵キャラに箔をつけた感じもする、フェミニズムとは少し違うと思うけど、アイリーンに勝てなかったというエピソードがあることで、ホームズが逆にすごいキャラに見える。アイリーンをただの素人の女性なのにホームズに負けない有能な女性にしたコナンドイルは、さすがというか、それともこれがイギリスの小説ですということなのだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集