見出し画像

映画感想文「胸騒ぎ」 嫌な映画だと思うけれど考えさせられる

デンマーク人のビャアンとルイーセの夫婦は休暇中に知り合ったオランダ人のパトリックとカリンの夫婦から招待を受けて、迷った末に彼らの家に遊びに行く、初めは小さな違和感だが徐々にデンマーク人夫婦はオランダ人夫婦に恐怖を感じるようになる。

たぶん日本人は招待されても行かない気がする、日本人はもうこういう場合は詐欺かもしれないと疑う。だけどキリスト教圏の国では「隣人を愛する」という信仰はまだ残っているのかもしれない。
でもキリスト教も隣人を愛することは難しいから聖書に書いたと思う。
中世の時代にあれほど異端者を弾圧したのは、隣人の中に悪魔がいると本気で考えていた人たちが多くいたからだと思う。

この映画は現在でも隣人の中に異端者がいるかもしれないというキリスト教徒の深層心理的な不安を描いているのだろうか。
実際このオランダ人夫婦はどう見てもキリスト教が定義する悪魔そのものだ、初めは人当たりがよく、そのせいで本性を見破るのは難しい。
でもあえて、このオランダ人夫婦の立場から考えてみると、被害者であるデンマーク人夫婦は自分たちが先進国が理想とする進歩的な現代人だと思い込んでいる、それだけではなくポリコレ的な思想を他人に押し付けてくる気取った傲慢な人間に映るのかもしれない。

デンマーク人夫婦の妻の方はベジタリアンだと自称しているが魚は食べる、それを欺瞞だと感じる人は確かにいると思う。
オランダ人夫婦の夫は初めは自分は医者だと説明していたが、後であれは嘘で本当は無職だと告白する、するとデンマーク人夫婦は医者だと思っていたから招待を受けたみたいな雰囲気を出す、進歩的な現代人は肩書で人を判断するのかというオランダ人夫婦の苛立ちにも一理ある気がする。

この映画を見たほとんどの人はオランダ人夫婦を悪魔と思うだろうが、彼らから見ればデンマーク人夫婦のほうが異端者に感じるのかもしれない。多様性という思想は美しいと思うけれど、それは異端の者はいないという世界を創るということだと思う、でもだからこそ悪魔のような人かもしれないと思ってもデンマーク人夫婦のように寛容な精神を見せなければならないと考えて底なし沼に嵌る。

そういう意味ではとても意地悪な映画なのだ。映画を最後まで見るとオランダ人夫婦を擁護することは絶対に出来ない、でもこのオランダ人夫婦も休暇中のイタリアではまともな人だった。
だから彼らはサイコパスだと断じたくなるが、もっと複雑な気がする。

オランダ人夫婦からすれば、客として世話になっているのにデンマーク人夫婦は人の価値観や家族のルールにいちいち口を出す礼儀知らずということになり、オランダ人夫婦がユーチューブに動画を出したらそれなりの支持者を得るかもしれない。

実際、世界中でオーバーツーリズムや移民と自国民の対立が問題になっていて、その背景には世界的な右傾化と言うより「郷に入っては郷に従え」的な感情の問題がある気がする。
この映画は多様性世界の子供の問題まで扱っている気がして、子供をどんな人に育てるのかという、アメリカに住めばアメリカ的に、ロシアに住めばロシア的に育てるのがグローバリズム?

オランダ人夫婦のように日常生活での些細な苛立ちが外国人や隣人への懲罰感情にまで発展して、第二次世界大戦もそうやって始まった一面もある気がする。
隣人を愛するという信仰はキリスト教圏でも終わりつつあるみたいな、確かに知らない人と一緒にいると胸騒ぎがするような世界になった感じはある。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集