探偵である前に聖職者、ブラウン神父
まん丸な顔に、大きな帽子とこうもり傘がトレードマーク。
見た目の特徴だけをあげれば神父服を着たプーさんみたいな人だな、と最初思った。
G・K・チェスタトンに出会ったのは、大学生最後の夏休みのこと。本当は卒論を書かないといけなかった時期だったけれど、書く前に現実逃避をしたいなと思い、本屋で何かないかと物色していた時に出会った。
以前書評を書いた『詩人と狂人たち』にまず出会い、そこからブラウン神父シリーズを一気買いし、少なくとも創元推理文庫から出されているチェスタトン作品は全て手に入れたと思う(創元推理文庫は名前からして格好良いから大好き)。
チェスタトン作品全てに通じる、理論的な発想よりも直感や美学に重きを置く推理方法には強烈な作家性を感じる。
その作家性ゆえか文章が取っつきづらく慣れるのに少し時間がかかる気がする(執拗な情景描写、抽象的すぎる隠喩、皮肉交じりな言葉回し等々……)。
ただ、あの江戸川乱歩も絶賛したレベルでトリック創案能力が抜群なので、世界観に入り込めれば唯一無二の読書体験を得られるだろうと思う。
そして、チェスタトンの小説の話をしたいのなら、やはりまずはブラウン神父からだ。53もの短編の主人公であるブラウン神父はチェスタトンの作品群の中でも特に目立つ存在だし、作家の描く逆説的美学をうまく表現し続けたキャラクターだと感じる。
まず、神父という立ち位置が良い。
多くの人々の話を聞く立場であり、社会的な常識や囚われに左右されない精神性のある職業。警察ではないのであえて犯人を逃す時もある。しかし彼の言葉には一貫した筋が通っており、その言葉を受けて改心する犯人もいるほど。実は刑務所礼拝堂付神父だった経験があり、犯罪の手口に関する知識が結構あるらしいのも面白い。
個人的にお気に入りの話はやっぱり『飛ぶ星』。フランボウが好きだな! 情熱的で芯があって、だからブラウン神父の声もまっすぐ届く。後々に出てくる話でしれっとブラウン神父と一緒に旅しているのも楽しくて好き。ブラウン神父の人を拒まない姿勢もよく感じられて、ナイスコンビだなと感じる(ホームズとワトソン並みに行動を共にしているわけではないけれど、そのつかず離れずな距離感が二人らしくて良い)。
チェスタトン作品はカロリーが高いけれど、ハマれると楽しい古典的な探偵小説なので、ぜひ未読な方は読んでみて欲しい! 青空文庫にも何作か訳されていた気がするので、まずはそこから読んでみてもいいかも。
今日はここまで。
また明日も会えたら🐏