今月出会えてよかった本 【2022年1月版】
冷たい冬に出会うことができてよかった。
今回紹介するのは辻村深月さんの『冷たい校舎の時は止まる』です。
なぜ今更?と思われるかもしれませんが、実は書籍自体は既に購入済みでした。それも限定愛蔵版を。
当時の私は限定版やサイン本にも目がない状態でしたので、予算の許す限りそういった本を購入していました。残念ながら私自身は辻村深月の大ファンだというわけではないのですが、当時はちょうど同作者の『ツナグ』を読み終えた時期という事もあり、タイミングよく購入していました。
しかしそれから2年以上愛蔵版は未だ未開封のまま。それでも作品に触れたいという思いが今冬に高まり、文庫版を購入して読破に至ったというわけです。
この本分厚すぎるな!
ここからは作品内容の感想に移ります。
まず最初に私がこの小説に抱いた感想は「この本分厚すぎるな!」でした。いきなり作品内容とは異なった感想ですが、第一印象はまさにそれだったのです。
読み始めた当初は、飽き性の私に読み切れるだろうかと不安になりました。2年以上もの間愛蔵版を読もうとしなかったのは未開封のものを開封済みにしたくなかったのではなくて、内容の分厚さに尻込みしていたのもあるのかもしれません。
しかし、そんな不安は読み進めていくうちに払拭されていました。私は最近読書の為に時間を取ることをせず、仕事の合間の休憩時間や移動時間に本を読むことが多かったのですが、続きが気になりすぎて分厚さなど気にならないほどにどんどんと読んでいきました。
他の趣味よりも続きを読むことを優先して、まさに寝る間を惜しんで文庫本の上下巻を数日で読み切ったのです。久しぶりに物語に熱中することができた気がしました。
物語に熱中させた2つの要素
なぜそこまで『冷たい校舎の時は止まる』の物語に熱中することができたのか?それには2つの要素が大きく作用したのだと私なりに分析しました。
1つ目は「読めない展開・謎」です。
やはり作品の主題ともいうべきミステリー要素は圧巻の一言でした。「ホスト」はいったい誰なのか。なぜ登場人物たちは時の止まった校舎の中に閉じ込められたのか。
不可思議な舞台と「ホスト」の目的が謎のまま物語が進んでゆき、一つ謎が解けるごとに明かされる真実に驚きながら、時には更なる謎に疑問を深めながらどんどん読み進めていきました。
しかしミステリー要素だけではここまで物語に熱中できてはいなかったでしょう。やはりもう一つの要素がこの物語の読まない展開と謎とうまく絡み合って『冷たい校舎の時は止まる』にさらなる分厚さをもたらしたのかもしれません。
それが2つ目の要素、「共感しやすいキャラクター」です。
共感しやすいというと読者に近しい、あるいは分かりやすいキャラクターなのかと思われるかもしれませんが、そういうわけではありません。むしろ本作の登場人物達の中には初めのうちは共感しづらいキャラクターもいるかもしれません。
ですからこの小説は、登場人物の背景や考えをこれでもかと深掘りすることで読者にキャラクター像を強く印象付けていました。
丁寧に心情描写や背景描写を行うことでキャラクターたちの行動に説得力がつき、物語の初めには共感しづらかったキャラクターにいつの間にか深く共感するように作劇されています。
だからこそ読者はキャラクターの独白や心情に共感し、物語に熱中することができるのかと思います。彼らと謎を共有し共に読み解こうとすることで、たとえそのキャラクターが読者にとって近しいものや分かりやすいものでなくても、強く肉付けされた彼らに共感することができるのです。
読み始めは不安要素だった分厚い内容も、彼らの物語を紡ぐためには必要だったのだと思います。むしろ、もっとたくさん彼らのこれからの物語を見てみたいと思うのです。(これで終わるからこそ美しいと思う私もいますが)
余談、おわりに
ここからは余談ですが、皆さんは読書をする時に環境を整えることがありますか?
私はというと、最近ではホットココアを飲みながら読書をしています。暖かい部屋でホットココアを飲みながら、時にはBGMに雨音を流しながら本を読みます。
そのように環境を整えるのですが、今回『冷たい校舎の時は止まる』を読んでいる時は暖房をつけず、飲み物も用意せずに読み進めました。
環境をわざわざ整えるよりも早く続きを読みたいという気持ちがあったかもしれませんが、一番は彼らと同じような環境でこの物語を味わいたいと思ったからでしょう。
年の初めに彼らに出会えたこと。『冷たい校舎の時は止まる』という本を冷たい部屋で読めたという経験は私の読書ライフの中でも格別なものとなりました。
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せっかく読書やそれに関するものを中心にnoteを投稿しているので、私も本を読んだ感想や紹介をしてみたいと思い、今回は『冷たい校舎の時は止まる』を選ばせていただきました。
毎月末に1冊紹介したいと思いますので今後もよろしくお願いします。
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