女性リーダーの「一皮むけたはずの経験」をなかったことにしていないか?
「もし役員になったとすると、有事の時とか動けないよなって思うんですよね」とある女性幹部候補と話していたら、そんな言葉が出てきました。
まだまだ女性役員は少ない日本
女性役員比率が低いとされる日本。OECDの調査では下記の通りとなっています。
各社様々な施策に取組んでいます。冒頭の会社様でも検討を重ねているところです。現時点で女性役員はゼロ。10年後には、女性役員を3割にしたいと考えているとのことでした。
そして、検討していることの一つとして、「女性役員候補者研修」があります。冒頭の言葉は、その検討メンバーでもあり、同時に対象者でもあるという方のお話です。いろんな縁があって貴重な対話の機会をいただきました。
男性・女性に限らずリーダーには「一皮むける」経験がある
この手の施策を考えるときには、「本来であれば女性も男性も関係ない」という話がでてきます。また、女性だけを対象とした施策によって「女性だから登用されたのだ」と周囲も本人も感じてしまうということが起きます。
ただ、それをネガティブに捉えていても前に進めないのではないかと思います。もちろん、当の対象者からすると葛藤があります。悔しい思いもたくさんしてきています。それでも、誤解を恐れずに言うと、その葛藤を糧にできないだろうか、と思うのです。
マイノリティだからこそ、マジョリティの課題が見えてくる。少数派だからこそ苦労して「一皮むけた経験」をすることもあった。だからこそ多様な働き方、ライフスタイルの社員に対する配慮が必要だということが肌でわかるのだ。女性役員は概して、こうしたダイバーシティ・マネジメントの感度が高い。これからの時代、経営陣にも管理職にも求められる視点である。
出典:女性リーダーが生まれるとき~「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成~:野村浩子(著)
上記は、『女性リーダーが生まれるとき~「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成~』からの引用です。
ここでいう「一皮むけた経験」とは、神戸大の金井教授が編み出した翻訳語です。
簡単に言うと、役員になるほどの人物は、もう二度と経験したくないほどの「修羅場体験」によって「一皮むけた経験」があり、役員としてそれが強みになっています。
女性ならではの「一皮むけるはずの経験」を見過ごしていないか
同書によると、「女性役員への道のりは、男性のそれと大差ない」とされています。ただ、こんな興味深い記述もあります。
ところで、女性役員の一皮むけた経験を分類するにあたり、分類項目「異動・配属など」に、どうしても収まりきらないものがあった。「ライフイベントの仕事への影響」である。そこで女性役員ならではの「一皮むけた経験」の項目として、これを追加することにした。
同書の中では、
・子供が長期入院をしたことがキャリアの大きな転機となった
・子育てとの両立で味わった理不尽さが大きなバネになった
・子育てのみならず、親の介護経験を通してキャリア観の転換があった
などの事例が紹介されています。
冒頭に「もし役員になったとすると、有事の時とか動けないよなって思うんですよね」という言葉を紹介しました。それに対して、「それ、男性だったら「有事の時に」なんて発想すら出てこないかもしれないですよ。」と返しました。つまり、「それってあなたの強みになるはずです」ということです。
葛藤を受け入れることが多様性の第一歩
10年後役員となるであろう女性というと概ね40~50代です。彼女たちが入社した当時とくらべて、価値観はあきらかに多様化しています。一方で、男性中心の固定的な価値観も根強く残っています。結果、女性であることを意識させられ、職場でもプライベートでも自分自身の存在意義に向き合う場面が多いのではないでしょうか。
大切なのは、こうした葛藤をマイナスにしないことです。問われるのは、仕事での大きな葛藤や挫折をいかに前向きな力に変えていけるかです。
取締役が男性で占められていては、社会の多様性に答えることができません。多くの企業で、戦略上の大きな課題であることは間違いありません。結果として、「会社」は、「女性」役員を求めます。そこに多くの人が違和感を覚えるのもまた当然です。数字ありきになっている側面も否めません。
でも、それがいまの社会なのだと捉えなおすことも必要です。そんな社会で当社の10年後の取締役会は、どんな成果を求められるのか。そして、その構成員はいかにあるべきなのか、変化によってもたらされた葛藤を強みに変えるには何が必要か、そんな議論をもっとしたいと思いました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?