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火野葦平 『糞尿譚』

高貴な生まれでもなく、典雅なリアルマダムでもない。
もちろん夢を売るアイドルでもないけれど、一貫して回避しているNGワードがある。

ヤケ〇〇
下手〇〇
〇〇マジメ
ボロ〇〇
胸〇〇が悪い 
〇〇ミソにいう

妙齢の女性の口から「〇〇寒い!」などという言葉が飛び出すと、心まで凍りつきそうになる。

老婆の日常茶飯事のつまらない拘り、やせ我慢と冷笑してください。

「ヤケ〇〇」といいたいときには「やけっぱち」あるいは「自暴自棄」と言い換えます。
(蔦重なら「やけのやんぱち」といいそうですね)

雑談はこのくらいにしておきましょう。
昔からずっと気になっていた小説を、例によって青空文庫で読んでみました。

火野葦平 『糞尿譚』

子どもの頃は『糞尿痰』だとばかり思っていました…

インパクトのあるタイトルです。

2時間余り(目安)で読める短編小説です。
昭和12年発表。
第6回芥川賞受賞。
映画化もされています。

糞尿汲取くみとり業の小森彦太郎は同業者の組合をつくろうと目論む。
糞尿回収は買い叩かれ、社会的地位も低い。
しかし、排泄は人間の生理現象だ。
公衆衛生の面からも必要不可欠な仕事だ。
当時は肥料として、農家にとっても不可欠なものだった。

彦太郎は市の施設の指定業者に選ばれるが、予算増を求めて嘆願書を提出する。
しかし、協力してくれた人物に裏切られ……

わたしの子どもの頃は、まだ水洗トイレが普及しておらず、街中をバキュームカーが走っていた。 
家の外に汲み取り口という穴があった。

今の人は、何の話ですか?と怪訝に思われるだろう。

この穴から住人の秘密が垣間見えることもある。
彦太郎は集金のときに、穴から見えたのが昔馴染みの女とわかる。
現在いまの境遇を知り、しんみりする場面もある。

これは昭和10年代のまだ貧しかった日本が舞台。
貴重な昭和の記録だ。

昨年は『PERFECT DAYS』という映画がヒットした。
超近代的なハイテクトイレも出現し、トイレ事情も大きく様変わりした。

綺麗事だけでは済まされないトイレのお話。

生きるって大変だ。

(日曜日朝から、ビロウな話で恐縮です)





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