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『笑うマトリョーシカ』 早見和真
この作品はドラマ化されたようですが、観ていないので、予備知識ゼロ、先入観なしで読むことができました。
四国・松山の名門高に通う二人の男がいた。
後に代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。
秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。
「この政治家が、もしも誰かの操り人形だとしたら?」
最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。
冒頭から波乱の予感。
何かが起こりそう。
東京から四国の進学校にやって来た一匹狼的な寮生、鈴木俊哉は、幼くひ弱な印象のクラスメイト、清家一郎と親しくなる。
鈴木は自分の書いたシナリオ通りに、一種不思議な魅力を持つ清家を動かし、生徒会長選に立候補させることを思いつく。
選挙に勝つために必要なこと、それは民衆を惹きつける演説だということに気づく。
清家には将来、政治家になるという夢があった。
東京の大学に進学した二人は紆余曲折がありながらも、夢を叶えるため、鈴木は参謀となり、清家を支え、二人三脚で政界を目指す。
清家は中身がからんどうの、ただの傀儡なのか。
清家と母の異常な関係。
祖母と母の苦難の半生。
清家の出生の秘密。
謎の恋人。
周囲で起こる不審な事件。
清家を本当に操っているのは誰なのか。
物語は次第にミステリー色を帯びていきます。
あちこちに伏線めいたものが張り巡らされ、登場人物も善人なのか悪人なのかわからない。
政治家となった清家の周辺を洗うひとりの女性記者。
物語がどのように収束するのか、期待を込めて読み進めましたが、後半に行くにつれて、「実はこうでした…」と次々に登場人物が告白するという、矢継ぎ早の展開があまりに説明的過ぎて…。
「やっぱり」と予想された展開と、突飛過ぎて説得力に欠ける部分が入り交じり、正直だんだん興味が削がれていきました。
ミステリーとしてどうなのかなと、疑問に思う部分もありました。
政治家になる夢を叶え、官房長官にまで上り詰めた清家は今まで支えてくれた人を切り捨てます。
その過程にリアリティが感じられず、登場人物の心理がいまひとつ描き切れていないような気がして、不完全燃焼なまま本を閉じました。
文字で読むより、映像化が適している作品なのかなと思いました。
ヒットラーを影で操ったとされる預言者ハヌッセンのことは、この本を読んで初めて知りました。
多くのブレーンに支えられ表舞台に立つ政治家は、どこまでが真の姿なのか。
仮面を被り、腹の中は見せないのか。
誰かに操られているのか。
などと、いろいろ考えさせられる内容ではありました。
折しも明日は衆議院議員総選挙。
結果が楽しみです。