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新聞小説
夫が現役時代は、日本経済新聞電子版をタブレットで読み、わたしは家で朝日新聞を読んでいた。
夫がリタイアしてからは、朝日を止めて、日経電子版と紙の日経新聞の2本立てになった。
わたしは新聞を読むのは苦手意識があり、それでも気になった記事は後でゆっくり読みたくて切り抜いたりするので、紙が止められない。
夫も紙の方が読みやすいらしく、電子版と紙を併用している。
当代の人気作家が執筆する新聞小説を読まない手はないと、いつも意気込むのだが、根気が続かず力尽きてしまう。
朝日を取っていたときは、桐野夏生の『メタボラ』や吉田修一の『国宝』も例外ではなかった。
結局、単行本になってから、図書館で借りて読むことになる。
新聞小説といえば、日経新聞に連載され、流行語にもなった渡辺淳一の『失楽園』を思い出す。
あまりの人気に、会社に着くと、女子社員に「読ませて!」とお願いされたとか、されなかったとか…
わたしは『失楽園』にはまったく興味がなかったけれど、『化身』など、そっちの路線の本は何冊か読んだ。
渡辺淳一さんといえば、高校生のとき自ら命を絶った天才少女画家をモデルにした『阿寒に果つ』や人工授精をテーマにした『リラ冷えの街』、定年後の男性の孤独を描いた『孤舟』などが強く印象に残っている。
ベストセラーになったエッセイのタイトルでもある「鈍感力」はわたしの座右の銘になった。
松本清張の短編に『地方紙を買う女』というのがある。
ある事件の消息を知るためにわざわざ地方紙を取り寄せて読む東京在住の女。
本当の目的を悟られないように、「貴紙に連載中の小説が読みたいから…」を口 実にする。
小説家は気をよくして、直接女に礼状を送る。
目的を達成すると、女は購読を中止する。
そのことを知った小説家は不審感を抱く。
小説はいよいよ佳境に入ったところなのに、なぜ?
松本清張の短編の中でも好きな作品のひとつである。
※新潮文庫の短編集『張込み』に収録されています。