ふたりでひとつ奥田英朗 『ナオミとカナコ』
『ナオミとカナコ』
奥田英朗 著
この本は今からちょうど10年前に幻冬舎から刊行されました。
2016年には、広末涼子、内田有紀主演で、テレビドラマ化もされているので、ご存知の方も多いことでしょう。
わたしはドラマを観たことがなく、本も未読でしたが、たまたま図書館で見つけて読む気になりました。
奥田英朗作品にハズレなし。
ページをめくる手が止まりませんでした。
あらすじ
エリート銀行員と結婚して専業主婦になった加奈子は、夫からDVを受けていた。
それを知った大学時代の親友直美は、同情と正義感から、加奈子の夫を二人で殺害する計画を立てるのだった。
ネタバレになるので、このくらいにとどめます。
世の中に、夫から(妻から)DVやパワハラを受けている(受けたことかある)人は少なくないようですが、このような性癖は一生直らないと聞いたことがあります。
一生耐え続けるのか、離婚するのか、それとも…?
この物語の主人公は夫を排除することを選択します。
きっかけは、直美が加奈子の夫に瓜二つの男を見つけたこと。
加奈子の夫の殺害計画が
一気に現実的なものになります。
直美がシナリオを書き、完全犯罪を目論んだはずなのですが…。
追い詰められて、直美と加奈子が結束する心理は理解できなくもないですが、計画があまりに杜撰。
そして、殺意から殺害までの距離があまりに短い。
たとえば、今どきは街中、建物内どこも防犯カメラだらけ。
画像は粗くても、解析すれば忽ち人物が特定でき、
幹線道路や高速などを走ればNシステムとかオービスというものがあり、ナンバープレートや運転者が撮影される。
ケータイを持っていればGPS機能で追跡される。
穴を掘る道具を不用意に近所のホームセンターで買ったりはしない。
現代の日本は監視社会。
これらはテレビドラマレベルの知識で誰でも知っていることです。
実際、穴だらけの犯罪は忽ち破綻しそうになります。
次々に想定外の事態が起こりますが、偶然が味方したり、場当たり的に対応したり、二人はその都度協同して、何とか切り抜けます。
それでもギリギリのところまで追い詰められ、最後の最後までハラハラ・ドキドキ。
果たして二人は逃げおおせるのか。
この物語はスリルとサスペンスだけでなく、読ませる興味深いポイントがいくつかあります。
百貨店外商部のお仕事の内幕。
華僑の結束や中国人のものの考え方。
また、強烈な個性の脇役が登場し、物語に彩りを添えます。
池袋のチャイナタウンで食材店を経営する上海から来た女社長。
直美と加奈子の生き方に影響を与えるパワフルな女性です。
犯罪に利用される認知症の名流未亡人。
加奈子を執拗に追い詰める殺された夫の妹。
直美と加奈子は、ピンチを乗り越える度に、図太く逞しく変貌していきます。
奥田英朗らしいジェットコースター的なスピード感と、殺るか殺られるかのサバイバル的な展開。
胸がすくような痛快なエンターテイメントでした。
タイトルの「ふたりでひとつ」は修二と彰の『青春アミーゴ』の歌詞からお借りしました。