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『秋刀魚の味』 デジタル修復版

先週、NHKのBSで放送された『秋刀魚の味 』を録画して鑑賞しました。

1962(昭和37)年
小津安二郎監督作品です。

年代的には、わたしの祖父母や両親の世代の物語で、昭和の香りが色濃く漂い、戦後の雰囲気も残る作品でした。

あらすじを簡単に説明すると…、
大手企業の重役をしている平山(笠智衆)は妻を亡くし、長女の路子(岩下志麻)と次男の和夫(三上真一郎)の3人で暮らしている。
長男夫婦(佐田啓二・岡田茉莉子)は共働きをしながらアパートで暮らす。

平山の同級生で路子の会社の上司でもある河合(中村伸郎)は、路子を早く嫁に行かせるよう勧める。
「まだ、その気がない」という平山だが、クラス会に招いた恩師(東野英二郎)が娘(杉村春子)を家政婦代わりに便利に使い、嫁に行かせなかったことを後悔しているとこぼすのを聞き、娘に縁談を持ちかけることを決心する。


とくに大きな事件が起こるわけでもなく、娘を嫁に行かせる父親の心境が淡々と描かれています。
主人公平山は、元海軍将校ですが、いたって穏やかな人柄。
毒舌とユーモアを併せ持つ親友の河合や、若い後妻を迎えた級友(北竜二)、バーのマダム(岸田今日子)、偶然再会した海軍時代の部下(加東大介)などが脇を固めます。
 
時代が時代なので、今ならセクハラでアウト!という台詞もあります。
男性の上司は女性の部下に対して、
そんなことじゃ(のんびり構えていては)、いつまでたってもお嫁に行けないよ、
みたいなことは平気でいいます。
いわれた方も、その方がしあわせだよという善意を汲み取っているので、微笑んでいます。

長男幸一の妻、秋子は、戦後の強い女をイメージしているのか、夫にズケズケものをいいます。
例えば、中古のゴルフクラブを欲しがる夫に対して、
「だいたいね、あんた程度のサラリーマンがゴルフするなんて贅沢よ、生意気よ」とか、「早く自分で好きなもの買えるような身分になりゃいいじゃないの」とか、文字に起こせば刺々しいですが、若き日の岡田茉莉子の口から飛び出す台詞は可愛らしく感じられます。


佐田啓二(中井貴一の父)
岡田茉莉子

秋子がアパートの隣人に「トマトあったら、2つばかり貸してよ」というシーンからは、昭和30年代のご近所付き合いの親密さが伝わってきます。
冷蔵庫が一般に普及し始めた時期なのか、長男は父に冷蔵庫を買うことを口実に、余計に借金を無心し、ゴルフクラブを買うことにしたのでした。
 
平山は、娘路子が、長男幸一の会社の同僚に密かに想いを寄せていることを知りますが、既に婚約者がいることが発覚します。
「もっと早くいってほしかった」と、同僚は路子のことを憎からず思っていたのに惜しいことをしたという口振りでしたが、だからといって、婚約を破棄するわけでもなく、路子が略奪するわけでもなく、今どきのドラマと比べれば大人しいものです。
路子はそのことを知り、隠れて泣きますが、潔く諦め、父の勧める人と呆気なく結婚を決めます。
どんな人と結婚するのか、そこは一切深掘りせず、花嫁衣裳で家を出る結婚式当日の様子が映し出されます。


花嫁の支度が整う


「わかってる、わかってる、
しあわせにな」とだけいって送り出す父親


式の夜、平山は、亡き妻に似ているというマダムのいるトリスバーに礼服のまま現れます。

岸田今日子

「今日はどちらのお帰り?お葬式ですか」
のマダムの問いかけに、
「まぁ、そんなもんだよ」と平山は答えます。


タイトルの「秋刀魚」は最後まで登場せず。
小津安二郎監督の遺作です。


※松本清張の『砂の器』で始めて知ったトリスバー。
本当にあったのですね。








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