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映画『マミー』

話題作『マミー』を観た。
1998年に起きた和歌山毒物カレー事件を題材にしたドキュメンタリー映画だ。

ポスター


シアター・イメージフォーラム
国内外のインディーズ映画を上演する


たまたま、新聞のコラムでこの映画のことを知り、どうしても観たくなった。
前日ネット予約をしていたが、狭い劇場はほぼ満席といってもよいほどの盛況ぶりだった。
(平日の午前10時台にも拘らず)

あれから26年がたったとはいえ、世間を震撼させた事件である。

興味本位で観に行ったのだが、凄い映画を観てしまった…というのが率直な感想だ。
この映画は興味本位で観に行って構わないと思う。
予想外の展開はサスペンス映画さながらだ。
夫や息子の驚くべき証言。
科学捜査と学者同士のぶつかり合い。
無実を訴える支援者。
前面に出て、関係者を取材する監督。
事件の起こった和歌山市園部地区の住民はあの事件のことを口にすることはタブーだと口を噤む。


事実は小説より奇なり。
あまり詳しくは語れないけれど、騙されたと思って観てみてほしい。
こういうの苦手、という方には無理にはお薦めしませんが。


予告編など


林眞須美死刑囚は現在大阪拘置所に収監されている。

林眞須美といえば、不敵な笑みを浮かべながらホースで報道陣に水をかける姿が今でも印象に残る。
 
当時はテレビをつければ、朝から晩までこのニュースを報じていたように思う。

夏祭りのカレーの鍋にヒ素を投入し、無差別殺人を企てた女として、平成の毒婦と呼ばれた。

夫婦で共謀して保険金詐欺を働いていたことが発覚し、夫がシロアリ駆除の仕事にヒ素を使っていたことから、誰もが林眞須美を犯人として疑わなかった。

過熱していた報道も犯人が逮捕されて暫くたてば、下火になっていく。
次々に世間の耳目を引く新しい事件が起き、事件は記憶の彼方へと追いやられる。

だから、その後の裁判、新しい証拠、林眞須美の現在などにはまったく無関心だった。

兵庫県佐用郡に大型放射光施設 SPring-8というところがある。
この映画を見るまで知らなかった。
林眞須美宅にあった亜ヒ酸とカレー鍋に入れられた亜ヒ酸が同一の組成を持つということを証明するためにここで分析が行われ、その道の第一人者が鑑定した。
この結果が林の有罪を裏付ける重要な証拠になった。

ところが、後に別の学者がこの鑑定結果に異論を唱える。

このあたりの展開が、科捜研のドラマのようで面白い。

そして、何より驚愕するのは、林眞須美の夫、健治さんが保険金詐欺に手を染めていく経緯を滔々と語る場面だ。
いとも簡単に?億単位の保険金が下りたことをきっかけに他人をも巻き込む泥沼状態に。
人間としてタガが外れているというか、頭のネジが外れているというか、モンスターというか…
人間の底知れぬ恐ろしさを思い知らされた。

そんな異常な家族の一員だからこそ、カレーにヒ素を入れかねない、ということにはならないわけで、裁判は証拠に基づいて行われなければならない。

誰もカレーに毒を入れたところを見たものはいないというが大きな争点になっているが、毒を入れるなら、誰も見ていないところで入れるに決まっている。

疑わしきは罰せずというけれど。

映画の中で獄中から家族に宛てた直筆の手紙が何度も紹介される。
ユーモアさえ感じられる独特の筆致だ。
林眞須美がシロがクロかを知るのは林眞須美だけ。
現在も無実を訴え続けているという。

カレー鍋にヒ素を入れたのが、林眞須美だとしても、他の人だとしても、じゃあなんのためにそんなことをしたのか、動機がわからない。

この映画を観て、予断をもって捜査することの恐ろしさを感じた。
一旦目をつけられれば、それを裏付ける証拠だけが集められる。
それでも、映画を見終わって、この人が犯人じゃないとまでは言い切れない。
グレーな気持ちだ。



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