⑬空間の有効活用と小規模集約システム ~アパートの庭エディブルガーデン化プロジェクト~
「人口も経済規模も急ピッチで小さくなっていくことが市区町村限らずほぼ確定している日本の政策上も、様々なレイヤーで小規模な集約的システムに遷移していくことが求められるタイミングがやってくるよねー」
というのは、先日神戸市の役所の方々と話したときの話題。
「小規模集約システム (Small Scale Intensive Systems)」というのは、パーマカルチャーを作ったオーストラリアのビル・モリソンが提唱する原則のひとつにもある言葉です。
小規模な空間に多くの機能を集約して、びっくりするぐらいの生産量をあげる。
同時に、「収穫量に理論上の限界はない。限界はデザイナーの情報と想像の中にある (The Yield is Theoretically Unlimited. It's limited only by information and imagination)」という原則にも共感するので、何をどう考えて実践すれば限られた範囲の空間の集約的生産性を最大化できるかっていうチャレンジは、果てしなく追及できる分野で好き。
大きな農場だからダイナミックに自由度高くできることもありますが、こういう小さな庭でも空間を上手く使って
「これだけの生産性を発揮する場所になった!」
と自信をもって言える場所にすることにも、同じくらいやり甲斐とロマンを感じます。
僕のノウハウとスキルは界隈ではまだまだ5歳児レベルですが、学んだことを活かしてこの庭でできることをやってみます!
<Space Stacking>
植える植物の成長後の姿を想像して庭を眺めると、
地面を這って伸びていくカボチャ、
自分の身長を越えるぐらいに上へ上へと伸びるトウモロコシ、
その脇から生えてそこに巻き付いて広がるインゲン豆、
それらを追い抜いて葉を茂らせていくイチジクの木、
更に高く成長していくアカシアの木...
こうやって、平面の配置だけでなく立体的にも空間をどうデザインするかという発想を、"Space Stacking"(空間の重ね合わせ、空間の多重性)と呼びます。
自然の森を見ても、地面にコケが広がり、その上に生える草花、その上に低木、そして高木…
というように空いている空間を上手く使って住み分けが行われていて、
パーマカルチャーの考え方ではその分類を7層(地衣類、草類、根菜類、低潅木類、ツタ類、亜高木類、高木類)に分けて空間が効率よく使われる配置が試行錯誤されます。
自然の森の姿を再現した畑や庭の形、または実際の森の中に溶け込むように作られた畑はフォレスト・ガーデンとも呼ばれます。
で、この庭で何ができるか。
現状はここに木を植えることができないのと、隣近所との関係性もまだまだ浅い段階なので、いきなりダイナミックすぎる変化は起こさずに。
新しい浅めのコミュニティでは、変化はゆっくり、じわじわがいい。
コンポストを作り損ねた穴のひとつから、勝手にたくさんのカボチャが芽を出しているのを発見!
これをSpace Stackingに利用して、ネイティブアメリカンのコンパニオンプランツ、3 sisters(『⑨種蒔きとコンパニオンプランツ』参照)を完成させることに。
大量すぎるカボチャの芽は周りに広げて移植して、トウモロコシの苗(ホームセンターで2本30円だった)と、同じく高く上に伸びるヒマワリとオクラの種(元々持ってた)を複数植えた。
3種類とも寝室の窓の前なので、順調に伸びれば多少は夏の太陽光をやわらげてくれるかも。
それぞれの足元にインゲンを植えて、3 sistersの完成!
うまくいけば、カボチャたちが地面を覆い、トウモロコシとヒマワリとオクラが高く伸びて花と実をつけ、インゲンたちが彼らを支柱にして巻き付いて茂ってく予定。
そんな上手くいくやろか...。
また、もっと簡単に「植えるのは直線一列じゃないといけない」という先入観を捨てて、千鳥状に植えるだけでも隙間が少なくなってスペースの有効活用ができます。
Bio-intensiveとも呼ぶみたいですが、これも立派なSpace Stacking。
<Time Stacking>
また、多重性は空間だけじゃなく、時間や機能にも含ませて考えることが可能です。
植物によって成長のスピードは違うし、植え付けのタイミングをずらせば成長と収穫のタイミングもずらせるので、数週間~数か月先の姿をイメージして空間を有効に使うことができます。
と、言うのは簡単だけどやるのは結構難しい。想像力の豊かさと鍛錬が必要そうですね~。
また、毎朝8時ごろには野良猫がこの庭を通り、10時頃には犬の散歩をするお姉さんが隣の空き地にやってきて、お昼には小鳥がたくさん飛んできて、16時頃には近所の子どもたちが空き地を走り回る...
なんていう、人やその他動物たちが周りにやってくるタイミングや時間差なんかも庭づくりに利用できれば、その有効活用もTime Stackingと呼ばれる範疇なんだと思います。
石の蓄熱性と接縁効果
ちなみに、高温下で元気になるヒマワリを壁際に植えて足元を石で囲ったのにも意味があって。
石には熱を吸収して溜めておく「蓄熱性」という特性があります。
日光が陰って気温が下がる時間帯になっても多少は温かさが持続するので、パーマカルチャーの文脈でよく作られるロック・スパイラルガーデンを作る際には大きな石がたくさん使われるんですね。
また、コンクリの壁や大きな石があるとミクロな環境を分断したり堰き止めたりして、養分や水が溜まり易かったり生物的多様性が生まれやすかったりするので、豊かな環境になることがあります。
違う環境の境目はエッジ(接縁)と呼ばれ、エッジには多様性と新たなポテンシャルが生まれることが多いので、「接縁効果を上手く使う(Edge Effects)」というのもパーマカルチャーの原則(ビル・モリソン提唱)に入っているのでした。
こういう風に、こんなに小さな庭でも細かく見ると場所によって温度、湿度、陽当たり、空気や水の流れなど微妙に気候が違って、こういう局所的な気候を「微気候」「微気象」(英語でmicroclimate)と呼んだりもします。
この微気候を読むことも、どこに何を植えるかを決めていく上で指標になる要素のひとつだと思います。
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新たにナスとピーマン(ホームセンターで苗が30円ずつだった)も植わって、更に賑やかになってきました。
人工芝を剥がした最初と比べると、だいぶ「楽しいエディブル・ガーデン」に近づいてきたでしょうか。