「全体性のたまご」でワークショップをデザインしてみた
学校の授業や研修など、他者との対話やつくることで学ぶデザインを含む場が増えています。
ただ、学んで欲しい内容や考えて欲しい問いを検討すれば、授業や研修が上手くいくわけではありません。一人ひとりの気持ちの変化を汲み取ったり、学習環境の細部まで作り込む必要があります。
そこで、参考になるのがワークショップデザインモデルです。たとえば「TKFモデル(つくって・かたって・ふりかえる)」や、イタリア料理をメタファにした「イタリアンミールモデル」などがあります。また全体の流れを意識してプログラムをつくるためのフォーマット「プログラムデザイン・マンダラ」があります。
もっと詳しく知りたいという方は、こちらの本がおすすめです。さまざまな分野で実施されている参加体験型・協同学習についての理論や実践が載っています。
この手のフレームワークや考え方は実際に活用したり、ワークショップに参加して、気づきを言語化したり、自分ならどうするかをフレームワークに合わせて考えてみたりして、体験と言語化を繰り返さなければ身につかないものです。
そこで私も初めての試みとなる「全体性のたまご」というアプローチを参考にワークショップをデザインしてみました。実施したのは2019年最初のワークショップになった、「今年の書き初めかのごとく、今年どんな年にしたいか想いをめぐらせ、2019年の自分を木に見立てるTalk Tree WORKSHOP」です。
「全体性のたまご」とは、以下のよう特徴なアプローチで進めていきます。
①たまごの絵を描きながら、ワークショップデザインを検討していく
②全体としてより良いデザインにするために、 15 種類のパターン(15 の幾何学的基本特性)を重要な役割として考えている
アプローチについては以下の論文でまとまっていますので、興味ある方は是非読んでみてください。
井庭 崇, 宗像 このみ, 「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018
http://web.sfc.keio.ac.jp/~iba/papers/AsianPLoP18_WholenessEgg_WWS.pdf
時間の無い方はこちらの概要だけでもどうぞ。
Abstract:
本論文では、ワークショップやプレゼンテーションなど、参加者(聴き手)の創造的な学びを促す活動のデザイン(設計)において、「全体性」を重視したデザインを可能にするための方法論を提案する。このデザイン技法は、建築家であり、パターン・ランゲージの提唱者であるクリストファー・アレグザンダー(Christopher Alexander)の『時を超えた建設の道(1979)』や『The Nature or Order』の考え方にもとづき、全体から部分へと分化させ、「15の幾何学的特性」が生じるようにつくり込むことで、いきいきとした活動をデザインすることを支援するものである。本論文では、アレグザンダーの理論とこの手法との関係を明らかにした上で、対話ワークショップのデザインを具体的に例示し、さらに、教育現場における活用例について紹介する。
私にとって学びになったキーワードは「パターン・ランゲージ」と「全体性」です。
まず「パターン・ランゲージ」とは、市民参加型の街づくりなどで、よい街に共通する要素を言語化したものです。ただ要素を全て集めれば良いという訳でなく、数値では表せないものも含め、それぞれのパターンが相互作用しながら、よい街ができあがる。そのためには「全体」のなかで要素がどのように関わって行くかを丁寧にデザインする必要があります。
パターン・ランゲージが気になった方は、井庭さんの資料を是非読んでみてください。
「全体性」という考え方、これもワークショップデザインで重要です。ワークショップでは、序盤で参加者が打ち解けるアイスブレイクをやって、つくる作業や表現をして、その後は参加者同士でつくったものを共有し、気づきをふりかえるという流れで行われることがあります。しかし、ワークを1つずつ繋げるだけで良いワークショップになるわけで出はなく、「全体性」を意識したデザインが必要になってきます。
今回実施した「Talk Tree WORKSHOP」を「全体性のたまご」アプローチで書いた設計スケッチがこちらになります。
『Talk Tree WORKSHOP』は、
誰のために、 何を目的に、どんな活動を通し、手段としての目標を何に設定するのか...。自分たちの軸をしっかりたてながら、社会や未来という枠を広げ、あらゆる角度、多様な関係性から、べストの有様をワクワクしながら仮説を立て、模索するワークショップです。
http://talktree-workshop.com/
大まかな流れはこちらになります。
1 あなたが今の仕事に就くことになったきっかけ
2 今の社会について
3 未来の社会について
それぞれ答えを付箋にそれぞれが書きシェアします。
1 は「根っこ」、2 は「土」、3 は「太陽」に見立てます。
1 の答えをもとに、誰のための? 何のために? どんな活動をしてるのかするのか、を考えます。
誰は「鳥」、何かは「幹」に見立てます。
その何のためを果たすべく、どんな手段を取るべきか考えます。
その実を届けたい誰かにどんな想いをもたらしたいのか。
※太陽と根幹がチームで合意形成したところで、枝、実、鳥は関係性の仮説を立てながら順番にではなく行ったり来たりしながら見出します。
http://talktree-workshop.com/about-talk-tree-workshop/
Alexander(2002)をもとに井庭が表現(井庭(2013))した 15 種類のパターン(15 の幾何学的基本特性)はこちらなります。
この「Talk Tree WORKSHOP」を「全体性のたまご」アプローチで考え、 感じた気づきを記載しておきます。
対比(CONTRAST)
「全体性のたまご」のアプローチでは、15種類のパターンのなかで「対比(CONTRAST)」という要素があります。対比とは、参加者が「他者と自分との違い」を感じることです。
全体デザインをしていくと、自分の木をつくる活動がワークの大半になることに改めて気づきました。参加者の過去と未来について書き出し、紙とハサミで木をデザインするなど、黙々と一人で作業する時間が多くなります。
年始めにゆっくり自分と向き合う時間を多くデザインすることは織り込み済みではあったんですが、改めて一人ひとりのワークが終わったあとは、参加者同士が対話できる時間を当初よりも回数を増やして設計しなおしました。
一人で内省する時間と、2−3人で共有する時間を何度も往復することで、他者と自分との違いを感じる「対比」を意識する設計の見直しを行いました。
共鳴(ECHOES)
もう1つ意識したのは共鳴(ECHOES)です。
たまごの絵を描きながら、まだ空白があることに気づき、何が15 種類のパターンのなかで活かせそうなものがないかと考え「共鳴(ECHOES)」が気になり、卵の横に言葉を書き込みました。共鳴とは参加者が「他者の考えや行動に心から反応する」ことです。
最終的にこの「共鳴」をヒントとした、ワーク設計がとてもしっくり来ました。追加したプログラムは、一人ひとりの木が出来たタイミングで、ギャラリーウォーク+対話のデザインを増やしました。具体的には以下のような流れで実施しました。
1:つくった(木をモチーフにした)作品をテーブルにおく
2:全員が立って自由に見て回る
3:木を見て気になったものに、一言言葉を添える
4:一度自分の席に戻る
5:改めて話したい木を決め、作成した人と対話をはじめる
ただ木を見るだけではなく、気になった木に対して、一言コメントを付けて、ありたい姿に向けて後押しをするコメントを贈るという行為を追加しました。そして対話するにあたって、この人と話したいと選ぶのではなく、木を見て気になった、共鳴した木と制作者に対し、自分の意志で対話をスタートすることにしました。
主催者側がペアを決めるのではなく、一人ひとりが長い時間内省したなかで生まれた作品・木について、共鳴した木同士が語ることで、より深い対話の場になりました。
この「全体性のたまご」のアプローチを使ってみて、15 種類のパターンの理解が浅い中でデザインしているので、他のパターンはどうやって全体の中に含むとよいのだろうかと、モヤモヤした部分もありましたが。実際にこのアプローチに沿って、全体から部分へと分化させて活動のデザインを描くことは、とても心地よかったです。
是非、ワークショップデザインするときは一度「全体性のたまご」アプローチを使って、たまごの絵を何十にも書きながらデザイン設計してみてはいかがですか?
追伸:参加者向けに、ワークショップの体験をふりかえりを促す「REFLECTION VIDEO」を制作しました。参加していないと分からない部分もあるかと思いますが、もし良かったらご覧ください。
参考文献
Alexander, C. (2002) The Nature of Order: An Essay of the Art of Building and the Nature of the Universe, Book 1: The Phenomenon of Life, Center for Environmental Structure.
井庭 崇, 宗像 このみ, 「『全体性のたまご』によるデザイン技法:全体から分化させるワークショップとプレゼンテーションのつくりかた」, 7th Asian Conference on Pattern Languages of Programs(AsianPLoP2018) , 2018
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ありがとうございます。ちょっと疲れた日にちょっといいビールを買おうと思います。