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中森明菜「今夜、流れ星」

「今夜、流れ星」
作詞:夏野芹子 作曲:宇都美慶子 編曲: 白川雅

1998年5月21日のシングル曲。

同時期のヒット曲は、
GLAY「誘惑」「SOUL LOVE」、福山雅治「HEART」、
hide with Spread Beaver「ピンクスパイダー」、
KinKiKids「ジェットコースターロマンス」、
ブラックビスケッツ「タイミング」、SMAP「たいせつ」、
LUNA SEA「STORM」等々。
まさに、バンドブーム全盛期。男性アーティストが幅を利かせており、
逆に女性ボーカル勢が苦戦の時期だ。

中森明菜もまた、その苦戦の真っ只中。
このシングルは、彼女にとってオリコン上最低の最高順位(76位)となってしまった曲。
そのせいか、ライブリストに一度も登場したことのない、
日の目を見なかった不遇なシングル。

しかしじっくりと聴き込めば、
その素晴らしさがスルメのように認識できる、
ナチュラルで美しく、素晴らしい曲。

夏野氏が描き出すのは、
突然訪れた、いや前触れもあったであろう別離を、
ありのままに受け入れようとする主人公。
それでも、私はあなたを愛していた。
それだけは真実。
そんな想いを、一筋光る流れ星に例え、忘れようとする健気さが、
彼女の優しく儚い歌声で、キラキラと光り輝いている。

もしかすると、シンガーソングライターである宇都美氏は、
彼女の大変なファンだったのではなかろうか、
そんな大好きな彼女に、
このような曲を歌って欲しいという夢が叶った曲なのではなかろうか。
そしてその思いを、暗闇にキラッと光り輝くようなイメージに仕上げた、
白川氏の編曲もまた、やはり明菜ファンだったのではと思えるくらいに、素晴らしい仕上がり。

代表的な曲に印象付けられる、
「激情」「情念」「悲劇」といった、
中森明菜という存在に与えられた劇場的イメージではなく、
その奥底に、彼女の中に静かに佇む穏やかで柔和で繊細な感情を、
ファンだからこそ引き出そうと苦心されたのではないかと想像される。

それくらいにこの曲は、あらゆる人たちの様々な想いを乗せたもの。
その想いをシンガー中森明菜は、しっかりと受け止めて、咀嚼した。

後にリリースする「オフェリア」に似た重々しいサウンドアレンジであるため、前作「帰省~Never Forget~」の地を這うような暗い低音の歌になりそうなところを、明菜は違うアプローチで挑んだ。
彼女の代名詞とも言える囁くような歌唱や「歌姫」シリーズで見せるファルセットとは異なる、ナチュラルかつ聴きやすい優しい発声で、繊細な感情をしっかりと込めて丁寧に歌唱している。
「Everlasting Love」にも近いが、それよりも更にパブリックイメージの「中森明菜」を極力排した、逆にこれまでの彼女の作品にはなかった「素顔の女性」を本作では表現しており、表現者としての本領を如何なく発揮した。
この表現方法は後の「It's brand new day」「Days」にも生かされていると思われる。

よくある日常の一日を、さらっと歌ったように一見聞こえて、
過去の中森明菜ファンにとっては正直物足りないところもあるだろう。
だがアクの強い主人公しか演じられない訳じゃないのよ、私もあなたたちと同じ普通の女性なのよと、表現者中森明菜はこの作品をぶつけてきた。
そういう点では「SOLITUDE」のリリースにも似た「挑戦」だったのかも。

確かにピークを過ぎた実情、かつタイアップなしの状況でのこの挑戦は、前述の通り彼女にとってのオリコン最高位最低ランクという結果に終わった。だが誰でも歌えそうな曲をここまでのレベルで歌えるシンガーは、やはりそうそういない。
「スローモーション」「セカンド・ラブ」「トワイライト~夕暮れ便り~」から時を経て、様々な経験をしてきた彼女に、この楽曲はとても合っている。
あまりの切なさに、辛いとき、疲れたとき、何度もリピートして聴きたくなる曲だ。

なお上記の通り、誰が歌っても歌いやすい曲調。
親しみやすいメロディーかつ日本人が好きなマイナー調である分、とても気持ちよく歌える曲。
もちろん、明菜のように歌うのは、相当難しいのだけれど。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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