
【プライムセール中100円】三つ巴にしても傑作になる韓国ノワール【映画「ただ悪より救いたまえ」】
映画『ただ悪より救いたまえ』(原題:다만 악에서 구하소서)は、2020年に公開された韓国の犯罪アクション映画です。監督・脚本はホン・ウォンチャンが務め、主演にはファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが起用されています。この作品は、韓国、日本、タイを舞台に、緊迫感あふれるストーリーと迫力のアクションシーンが特徴です。
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あらすじ・ストーリー
主人公のインナム(ファン・ジョンミン)は、東京での暗殺任務を最後に引退を決意した元暗殺者です。しかし、元恋人がバンコクで殺害され、別れた後に生まれた自身の娘ユミンが誘拐されたことを知ります。
インナムは娘を救うためバンコクへ向かいますが、彼が東京で暗殺したヤクザ、コレエダの弟である冷酷な殺し屋レイ(イ・ジョンジェ)も兄の復讐のためバンコクに現れます。インナムは娘の救出とレイからの報復という二重の危機に直面することになります。
最高傑作『新しき世界』との比較と本作の魅力
ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェは、2013年の傑作映画『新しき世界』でも共演しており、約7年ぶりの再共演となります。
『新しき世界』では、組織の内部抗争と潜入捜査官の葛藤を描いた重厚なストーリーが展開されました。一方、本作『ただ悪より救いたまえ』では、個人的な復讐と救出劇が中心となり、よりダイナミックでスピーディーなアクションが強調されています。特に、バンコクの街を舞台にしたカーチェイスや銃撃戦など、迫力満点のシーンが観客を引き込みます。
ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェ——韓国映画界を代表する名優たち
『ただ悪より救いたまえ』で再び共演を果たしたファン・ジョンミンとイ・ジョンジェは、韓国映画界を代表する俳優であり、それぞれ異なる個性と演技力で数々の名作を生み出してきました。
ファン・ジョンミン(황정민)
圧倒的な演技力と親しみやすい人間味を持ち合わせた俳優
代表作
『新しき世界』(2013)
→ 冷静沈着な裏社会のボス、チョン・チョン役。凄みのある演技で話題に。『国際市場で逢いましょう』(2014)
→ 戦後の激動の時代を生き抜く庶民の姿を描き、国民的大ヒット。『ベテラン』(2015)
→ 強面だが熱血な刑事役で痛快なアクションを披露。
魅力
ファン・ジョンミンは、どんな役柄にも完全に溶け込む「カメレオン俳優」として知られています。悪役から善人、庶民派のキャラクターまで幅広く演じ分け、観客の感情を揺さぶる力を持っています。リアルな演技と人間臭さが魅力で、作品に深みを与える存在感は唯一無二です。
イ・ジョンジェ(이정재)
スタイリッシュでカリスマ性あふれる俳優
代表作
『イルマーレ』(2000)
→ 韓国版『イルマーレ』の主演。繊細なラブストーリーで人気を博す。『新しき世界』(2013)
→ 組織に潜入する刑事イ・ジャソン役。緊迫感あふれる演技が話題に。『イカゲーム』(2021, Netflix)
→ 世界的大ヒット作で、人生のどん底から這い上がる男を熱演。
魅力
イ・ジョンジェは、端正なルックスとカリスマ性を兼ね備えた俳優であり、シリアスな役柄からアクション、時にはコメディまで幅広く演じることができます。特に『新しき世界』や『ただ悪より救いたまえ』では、冷酷で危険な男を演じ、その圧倒的なオーラで観客を魅了しました。
今作の三つ巴の相関図
本作の人間関係は、以下のような三つ巴の構図となっています:
インナム(ファン・ジョンミン):元暗殺者で、娘ユミンを救うために奔走する。
レイ(イ・ジョンジェ):インナムに兄を殺されたことで復讐を誓う冷酷な殺し屋。
ユミン(パク・ソイ):インナムの娘で、誘拐され危機に陥る。
インナムは娘を救うために行動し、レイは兄の仇であるインナムを追い詰めるという構図が描かれています。また、バンコクでインナムを助けるレディボーイのユイ(パク・ジョンミン)など、個性的なキャラクターも物語に深みを与えています。
『ただ悪より救いたまえ』は、緊迫感あふれるストーリー展開と、主演二人の迫真の演技、そして国境を越えた壮大なスケールのアクションが融合した作品です。『新しき世界』とは異なる魅力を持ちながらも、再びファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの共演を楽しめる点で、多くの映画ファンにとって見逃せない作品となっています。
レビュー
久しぶりに品質が高くて面白いノワール映画だった。韓国に関わらずノワール系作品は結構見ているが、個人的傑作「新しき世界」に次ぐ作品だったと思う。
最近は殺し屋映画もジョンウィックの影響で世界かしこもかなり増えたが、ジョンウィックの劣化コピーのような物語が増えたり、アメリカに至ってはもうコメディ化するものまで出てきてがっかりしてくる。
しかし韓国だけはそれ以前の長所から全くブレずに硬質なノワールを作り続けていて映画フリークとしても頭が下がる。今作は日本やタイにも場面が移るが、予算も役者も妥協しない一つの集大成が見れた。
作中は時代設定は見えないものの、主人公は日本の裏社会で暗躍する韓国人の殺し屋。日本のヤクザの役者の揃え方にも抜かりがない。
ある依頼によって恨みを買い、主人公インナムと敵対関係にあたっていくレイのちょっとした組員に白竜さんも出ていてレイの怖さもより一層引き立つ。
日本現地の話でも演技は隅々まで妥協がないので、ありがちな違和感から来るストレスもなく作品に没頭できた。
またノワール映画として珍しく、韓国の殺し屋と日本の殺し屋と東南アジアの臓器売買組織という三つ巴構造になる。
三つ巴になると大概、話が複雑化するか、誰かが雑に扱われて終わるのだが誰が見ても分かりやすく、どの勢力も見劣りしない良いバランスで終わる。
話だけ見れば殺し屋の娘が攫われそれを救ってつましい生活を望んでいくというノワールではありふれた切り口ではあるが、単なる復讐という二つの対立構造ではなく、東南アジアに話を移すことで現代のアジア社会にも話が膨らんでいくのは新鮮だった。
インナムは足を洗う前から自分がどういう状況になって終わっていくかおそらくずっと分かっていた。依頼が成功しても酒浸りになり楽園の絵しか見ていなかったのはその現実逃避の手段だったともいえる。
しかし娘の存在や状況を知ってからそれは現実的な使命に変わる。それから彼はどんどん殺し屋の顔ではなく人間らしい表情に微妙に変わっていくのは印象的であり上手さを感じた。
最後のインナムの場面もなぜか泣けてくる。レイに「どうなるか分かっていただろ」と聞かれる前に彼はもっと前から既に分かっていた。だからわずかに彼の先手を打ち、娘の手筈も最悪の予測も全て殺し屋として整えられていたのだ。
冷酷すぎる最高の悪役イジョンジェに、徐々に人間兼殺し屋として輝かせていくファンジョンミンという絶妙に引き立てあっていくコンビに今作も感嘆せざる得ない作品だった。