「ユニバーサル・ソルジャー」に投影された帰還兵が抱える傷跡とは
「インデペンデンスデイ」などパニック映画のイメージの強いエメリッヒ監督がもっとB級に寄っていたころの作品になる。SFとして当時のチープさも残る作品ではあるが、ヴァンダムの肉体とアクションを見るうえではターミネーターにも劣っていない。
個人的には80年代から90年代の作品に多いと感じる、軍人主人公の必要性と当時のアメリカ社会の背景による物語の関連性についても重なる点も多かった。
あらすじとストーリー
「ユニバーサル・ソルジャー」は、ベトナム戦争で戦死した兵士たちが、最先端の科学技術によって蘇生され、感情を持たない最強の兵士「ユニバーサル・ソルジャー」として生まれ変わるというSFアクション映画です。
主なストーリー
蘇生と記憶: ベトナム戦争で戦死したリュックとスコットは、軍の極秘実験によって蘇生させられます。しかし、彼らは過去の記憶を失い、無感情な戦闘マシーンとして扱われます。
記憶の覚醒: リュックは徐々に過去の記憶を取り戻し始め、自分がかつて人間だったことを自覚していきます。一方、スコットは命令に忠実なまま、リュックを追い詰めます。
逃亡と葛藤: リュックは人間としての感情を取り戻し、自由を求めて逃亡。スコットはリュックを追跡し、2人の間に激しい戦いが繰り広げられます。
人間らしさ: リュックは逃亡中に様々な人々と出会い、人間としての感情や絆を深めていきます。そして、自分自身と、人間と機械の境界線について深く考えさせられます。
死人の兵士がサイボーグ化する話が作られた背景
この物語が生まれた背景には、いくつかの要素が考えられます。
科学技術への憧憬と不安: 1990年代は、科学技術が急速に進歩した時代でした。特に遺伝子工学や人工知能の発展は、人々に大きな期待と同時に、倫理的な問題に対する不安をもたらしました。この映画は、そんな時代の空気を反映し、科学技術の光と影を描いています。
戦争と人間の尊厳: ベトナム戦争は、アメリカ社会に大きな傷跡を残しました。この映画は、戦争の悲惨さや、人間の尊厳について深く考えさせます。蘇生された兵士たちが、人間としての記憶や感情を取り戻そうとする姿は、戦争によって失われたものを象徴していると言えるでしょう。
アクション映画としての魅力: 圧倒的なアクションシーンや、ジャン=クロード・ヴァン・ダムとドルフ・ラングレンという人気アクションスターの共演は、観客を興奮させます。
ヴァンダムが演じたキャラクターに投影される背景
「ユニバーサル・ソルジャー」の主人公、リュック・デュブローが投影する背景は、時代背景や作品の持つテーマ、そして個々のファンの価値観など、多岐にわたると考えられます。
時代背景と社会状況
冷戦終結後の不安と希望: 冷戦終結という大きな転換期において、人々は未来への不安と同時に、新しい時代への希望を抱いていました。リュックは、そんな時代における「新たな人間」を象徴し、読者や視聴者に希望を与えたのかもしれません。
テクノロジーへの憧れと恐怖: 映画の中で描かれる高度な科学技術は、人々に大きな魅力と同時に、倫理的な問題に対する不安をもたらしました。リュックは、その両面を象徴する存在として、人々の興味を引きつけたのではないでしょうか。
英雄への渇望: 社会が複雑化し、個人の力が小さくなったように感じられる中で、人々は強大な力を持つ英雄を渇望しました。リュックは、そんな人々の願望を具現化した存在と言えるでしょう。
80年代から90年代の軍人主人公映画の隆盛の理由
冷戦終結と社会の変化
英雄からアンチヒーローへ: 冷戦時代、アメリカでは軍人は国を守る英雄として崇められていました。しかし、ベトナム戦争の影や、冷戦終結による社会の変化の中で、そのイメージは変化していきます。映画の中では、トラウマを抱え、社会に適応できない帰還兵や、戦争の残酷さを目の当たりにした兵士など、より複雑な人物像が描かれるようになりました。
テクノロジーの進歩と戦争: 80年代後半から90年代にかけて、コンピュータや通信技術が急速に進歩し、戦争の様相も大きく変わりました。映画では、ハイテク兵器が登場し、戦争がより遠隔化され、非人間的なものとして描かれることが多くなりました。
社会不安と逃避願望: 冷戦終結後、人々は経済のグローバル化や社会の変化に戸惑い、不安を感じていました。そのような状況の中で、映画は人々に逃避の場を提供し、強大な力を持つ軍人という存在に共感や憧れを抱かせる役割を果たしました。
代表的な映画とテーマ
『フルメタル・ジャケット』: ベトナム戦争における新兵訓練の厳しさと、戦争の残酷さを描き、トラウマやPTSDといった問題に光を当てました。
『ランボー』: ベトナム戦争からの帰還兵が、社会に適応できずに孤立し、最後は自らの手で命を絶つという悲劇的な物語です。
・「プラトーン」: メル・ギブソン主演。ベトナム戦争のジャングルでの戦闘をリアルに描き、アカデミー賞を受賞。戦争の残酷さと人間の業を深く掘り下げています。
まとめ
80年代から90年代の軍人映画の隆盛は、時代背景と深く結びついています。冷戦終結、社会の変化、そして人々の心の変化が、映画に反映され、軍人という存在が持つ多様な意味合いや、人々の関心を集めるようになったのです。これらの映画は、単なる娯楽作品にとどまらず、現代社会を映し出す鏡としての役割も果たしています。
無かったことにされた続編もあるらしい。