見出し画像

映画「悪魔の世代」:リトアニアの片隅から旧ソ連崩壊後の遺産を問う

最悪じゃない、悪魔の世代がそこに。

映画「悪魔の世代」は、ソ連崩壊後の混乱期を生きるリトアニアを背景に、犯罪や暴力、社会の不正義に翻弄される若者たちを描いたヒューマンサスペンスです。この作品では、リトアニアの歴史的背景が大きく関係しており、旧ソ連の支配体制が崩壊した後の不安定な時代が登場人物たちの生き様に深く影響を与えています。



あらすじとストーリー

主人公は、貧困や社会的抑圧から抜け出すために犯罪に手を染めざるを得なかった若者で、彼の葛藤や罪悪感を中心に物語が展開します。ソ連崩壊後のリトアニアでは、急速な社会変化によって法の支配や秩序が弱まり、犯罪が横行しやすい状況が生まれました。この映画では、そうした環境が主人公の選択にどのような影響を与えるかが描かれています。

魅力

「悪魔の世代」の最大の魅力は、単なる犯罪ドラマにとどまらず、時代の空気感をリアルに再現しつつ、登場人物の心理描写に重点を置いている点です。また、映画が暗示する「時代や環境が人を悪魔にする」というテーマは普遍的であり、観客に強い印象を与えます。リトアニアの歴史背景がキャラクターの行動や運命にどのように影響しているかを丁寧に描いており、視覚的にも物語的にも深みのある作品となっています

ストーリーに繋がる、リトアニアと旧ソ連の歴史背景

この映画が描く主題と1990年代のリトアニアの歴史的背景は以下のようにリンクしています。

リトアニアの1990年代における歴史は、ソビエト連邦からの独立とその後の混乱した移行期が大きな特徴です。この時代は、KGB(ソ連国家保安委員会)の残党や旧ソ連の権力構造が依然として影響を及ぼしていたことも含めて、リトアニアが国家として新たな方向性を模索する時期でした。以下に、その主要な背景を説明します。


1. 独立の達成と初期の混乱

  • 1990年3月11日: リトアニアはソビエト連邦からの独立を宣言しました。これにより、リトアニアはバルト三国の中で最初に独立を目指した国となりました。

  • ソ連の反発: ソ連政府はこれを認めず、経済封鎖を実施しました。この封鎖は燃料や食品の不足を引き起こし、国民生活に深刻な影響を与えました。

  • 1991年1月の血の日曜日事件: ソ連軍がヴィリニュスのテレビ塔を占拠し、民間人を弾圧した事件で14人が死亡しました。この事件は国際的な非難を浴び、独立支持の声を高めました。


2. KGBの影響と移行期の混乱

  • KGBの残党: ソ連崩壊後、KGBの元職員たちはリトアニアに残り、一部は新たなリトアニア国家の機関に吸収されましたが、多くは闇社会や経済犯罪に関与しました。

    • 旧KGBのネットワークは、情報操作や産業スパイ、さらには不正資金の流通に携わるなど、混乱を引き起こしました。

    • 政治家や企業家に対する脅迫や汚職も広まり、民主化の進行を妨げる要因となりました。

  • 治安の悪化: 経済的困難に直面した市民の一部は犯罪に走り、リトアニア国内での組織犯罪が拡大しました。特に、ロシアや他の旧ソ連諸国から流入した犯罪組織が影響力を持ちました。

レビュー

最初はノワール系の映画と思ったが意外と手の込んだサスペンスでよかった。

リトアニアの映画になるがバルト三国から繋がる複雑な歴史背景も関連している。

過去の回想と最後に繋がる話も全てを理解するには難しかったがサスペンスとして見てもそれなりに楽しめる。個人的には鑑賞後、地政学的な事情も学びに行く機会にはなってよかった。

最後のオチも少し読める部分もあったが犯人と動機までは流石に最後まで予想できない。この辺もリトアニア映画にしかない複雑な事情も絡む。

あの少年は「弱いものは助け、強いものは殺してもいい」と主人公の父から教わり育っていった。皮肉にも犯人はその教えに沿うような復讐をしている。

少年があの事件の意味を全て知った時再び悪魔の世代による連鎖を生むのか、変えるのか彼自身の新しい世代による感覚が問われることだろう。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集