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オッペンハイマー話題の裏で戦後70年代の置いてけぼりたちが見つける未来:映画『ホールドオーバーズ』

オッペンハイマーの話題の裏でもう一つのアカデミー作品賞だったと言われた本作の魅力とは何だったのでしょうか。

あらすじ

1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制寄宿学校が舞台。学業に厳格で皮肉屋な教師ポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は、クリスマス休暇中に家庭に帰れない生徒たちの世話役を命じられます。学校に残るのは、問題児のアンガスと寮の食堂職員メアリー(ダヴィーン・ジョイ・ランドルフ)だけ。ポールは生徒や同僚から疎まれていますが、不本意ながらもこの小さな共同生活を始めることに。

孤独と喪失を抱えた3人は、過去の葛藤や未来の希望についてお互いに向き合いながら、心を通わせていきます。冬の厳しい景色の中で生まれる友情と癒しの物語は、心に暖かさを届けるものです。


ストーリーと70年代が設定だった背景

映画の舞台となる1970年代は、アメリカ社会が激動の時代を迎えていた時期です。ベトナム戦争は終結に向かっていましたが、兵士の帰還後の社会問題や反戦運動の影響は続いていました。また、学校教育では保守的な価値観が根強く残り、若者たちは規範と個性の間で葛藤を抱えていました。

ポール・ハナムのキャラクターは、当時の教育界や社会の象徴ともいえる人物です。彼の厳格さや皮肉な態度は、社会や教育制度が個人を型にはめようとする圧力を反映しています。同時に、アンガスやメアリーの存在は、自由や自己表現の重要性を象徴しています。


映画が伝えたいメッセージ

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ』は、異なる背景や価値観を持つ人々がつながることの意義を描いています。孤独を抱えた3人の主人公は、お互いに理解し合うことでそれぞれの心の壁を乗り越えていきます。

この映画のメッセージは、以下のようにまとめられるでしょう:

  • 孤独と向き合う勇気:人は孤独な存在でありながらも、誰かとのつながりによって癒されることがある。

  • 他者を受け入れる大切さ:異なる価値観を持つ人々が心を開き合うことで、新たな視点や希望を得ることができる。

  • 癒しと再生の可能性:過去に傷ついた人間が、他者との関係性を通じて新たな一歩を踏み出せる。

映画は、社会の変化や個人の葛藤を背景に、普遍的なテーマである「人間関係の温かさ」と「個人の成長」を感動的に描いています。1970年代という時代設定は、登場人物たちの状況や変化を象徴的に補強しており、鑑賞後には心に余韻を残す作品です。

レビュー

年末年始になにも考えずまったり見るにもちょうどいい作風であるのもよかった。生徒のカーティスが一人冬休みの寮に残ることになってからポールとメアリー含む3人の複雑な事情がコミカルに描かれ動いていく。

3人とも世代や性別など何かと異なるが、紡いでいくと60年代以前の戦争に伴い社会階級や家族などに影響を受け複雑な事情や悲哀を抱えている。

メアリーには息子をベトナム戦争でなくす直接的な悲しみも持っていれば、教師のハナムは身体や精神的な病から兵役を受けなかった過去からのコンプレックスも持っていたし、生徒のカーティスの実の父は急に精神病を抱えてしまってから家族関係がおかしくなっていった。

カーティスの実の父に関しても説明はされなかったが、この年代でも問題になっていた戦争による影響で精神病を患ったのだろうとも思える。その後の継父も保守的な思想が強くカーティスの人生を壊しかねない軍事的な教育も採用していた議員でもあった。

一見はほっこりノスタルジードラマだが、ハナムも含め何となく戦争後の社会背景に影響を受けており、心では合わない歯車を回さざる得ない過渡期を過ごしていた代表的な3人の世代も繊細に内在していた話なのだろうと思える。

後半からはそれまで心に蓋をせざる得なかった事にメアリーとカーティスが直接向き合っていく話になるが、ハナムだけは中々二人に本当のことは吐露することもできず向き合いきれない。これもリアルだろう。

だが最後にハナムが脱却したのは冬休みの行動にクレームを入れに来たカーティス両親との面談の席だった。彼は結局解雇処分されてしまうがようやく過去の社会背景から縛られていたあの学校と教育から卒業することが彼自身できた。

彼はあそこから自分の人生を新しく進むことができるのだろう。その道の幸福を祈れるような形で作品が終わっていくのもきれいだった。

表向きは普通のノスタルジードラマに見えるようぼんやり見せながら、内容はとてもセンシティブかつ誰も不幸にはならない優れた映画だった。







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