魔々勇々の楽しみ方【大晦日に作品の魅力を全力語り】
※第16話(2024年ジャンプ4、5号合併号)までのネタバレを多少含みます。
◆はじめに
2023年週刊少年ジャンプ41号から始まった魔々勇々。
とにかく面白い漫画です。
魅力的なキャラ達が織り成すドラマの中で見られる主人公コルレオの着実な成長や、他者の尊厳を「守る」ことを第一とし、それ故に対話を重んじるコルレオの姿勢とそれを自己犠牲を厭わず実現できる善性はこの漫画唯一無二のものだと思っています。
魔々勇々のおかげで月曜日は憂鬱なものではなくなりました。
しかし、ジャンプ内での掲載順は奮っていません。
人によってはスロースタートに見えたのかもしれません。
第一話の大きな反響の反動で、「期待していた内容と違う」と離れてしまった読者もいるのかもしれません。
次週から掲載順が上がる可能性も大いにあると思っていますが、現在の連載陣は上から下まで粒揃いで、予断を許さない状況にあることは間違いありません。
ジャンプはアンケート至上主義です。読者のアンケートが入らなければ連載は続きません。
私は、この漫画が打ち切られてしまうことに耐えられないのです。
どうすればアンケートが入るのか本気で考えた結果、この漫画の楽しみ方を記事にすることで、初読の人も離れてしまった人も、もちろん今読んでいる人も、今より魔々勇々を楽しめるようになるのではと考えました。
これを読んで少しでも面白そうと思ったら来週以降、魔々勇々をじっくり読んでほしいと思います。
そして、楽しんだ上で、応援したい気持ちになったのであれば是非アンケートを投じてください。
お願いします。
・本記事の構成
「魔王と勇者が存在する世界」という設定から想像される物語とは、おそらく一般的には「強さも精神性も凡人とは別次元の強者(魔王、勇者)が次々現れる」というもの。
本作がこの期待からズレているのは事実。
しかし、そもそも本作品における魔王と勇者とはそういう存在ではないことを理解し、内容と向き合えば、別の魅力が次々浮かび上がってきますし、コルレオは紛れもなく勇者そのものです。
したがって、本記事は、「最初に期待していたものとは違うかもしれないが、先入観なしに読んだとき、本作ならではの魅力がしっかりある」ということを語ることで、魔々勇々の楽しみ方を伝えるという内容になっています。
思い付く魅力全てを書くと記事が冗長になってしまうので、
①勇者としての主人公コルレオ
②バックボーンの異なる魅力的なキャラクター
③緻密な心理描写と演出力【紋章術】
この3章構成で魅力を紹介します。
◆魅力①勇者としての主人公コルレオ
魔々勇々の世界にはタイトルのとおり「勇者」と「魔王」が存在します。
勇者といえば特別な力を持ち、他者とは一線を画す強い精神性で人を導く者、そんな漠然としたイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。
しかし、少なくとも第一話のコルレオは、そんな主人公ではありません。
そうでありながらコルレオが主人公として強い魅力があると感じる理由を説明していきます。
・第一話
本作の第一話は、一般的な勇者と魔王のイメージを覆すところから始まります。
この世界では、勇者も魔王も、後天的に手の甲に浮かぶ「紋章」を授かった者に過ぎません。
勇者の紋章を授かるのは人。
魔王の紋章を授かるのは魔人。
違いは人か魔人かという点と紋章の形だけ。
そんなシステムを前提とした、人と魔人が争いの歴史を経て共生するようになり18年が経った平和な世界が舞台です。
主人公である勇者コルレオを育てたのは魔王マママ。
二人には紋章こそあれ特別な力は何もありません。
そんな中、流れは割愛しますが、コルレオは突如次元を跨いで現れた異世界の勇者エヴァンを命を賭して助けようとします。
圧倒的な力を持つものの勇者としての志を失っていたエヴァンは、このコルレオの心に感銘を受け、自らの命と引き換えにコルレオを蘇生させ、コルレオこそ真の勇者と認める。
これが第一話の流れです。
特別な力を持たない代わりに勇者としての志を持つコルレオ
特別な、それも圧倒的な力を持つ代わりに勇者としての志を失ったエヴァン
この二人の間のいわばバトンタッチが描かれる第一話の完成度は非常に高く、チェンソーマンの作者の藤本先生もオススメしていたのは記憶に新しいところです。
ちなみに第3話まで無料で読めます。
他方で、この時点のコルレオは勇者としての心はあっても力という意味ではただの凡人に過ぎません。
・勇者とは守る者
さて、第一話でコルレオは勇者とは「いつも何かを守ってる」者、エヴァンも「守るために」「勇む心を持つ者」が勇者と呼ばれると表現しています。
では、何を守るのか?
その答えは、作中では明言されていません。
誰かのピンチの際に身を呈するコルレオの姿は描かれても、コルレオが何を守りたいのか具体的な言葉にはされていない。
なのでこれは個人的な感想になってしまいますが、コルレオが守るのは個人の尊厳だと思っています。
魔々勇々は、複数の世界が交錯する物語です。
文化も価値観も異なる、更に魔王と勇者という立場の異なる者同士が接触するとき、そこには対立が生まれます。
この対立は、容易に強者による弱者への、多数から少数への迫害につながる。
そんなとき、物理的に攻撃されそうな側を武力で保護すること、これも「守る」といえるでしょう。
しかし、それは根本的な解決にはつながりません。
相互理解がなかったからこそ、コルレオの世界は平和に至るまで、人と魔人の血の歴史が800年続いたのですから。
対立を前提条件とするのではなく、相手の立場を理解することに力を尽くし、その過程で必要とあらば武力も行使する。
これがコルレオの一貫したスタンスです。
倒して終わりではなく、個人の尊厳を守るために選ばれし者の力を使う勇者の姿がそこにはあります。
序盤では明確には見えませんが、回を追うごとに明らかになるコルレオのこのスタンスは、実力が伴うようになるにつれて「コルレオならなんとかしてくれる」という主人公の魅力として強く現れるようになってきます。
私は戦闘前でも戦闘中でも相手を理解するため対話しようとするコルレオのスタンスが大好きです。
・レベルアップ!
勇者といえばRPG、RPGといえばレベルアップ。
ドラクエ世代の私の感覚ですが、一般的な感覚と離れてはいないでしょう。
エヴァンの紋章の力を継いだコルレオは、第一話でエヴァンが好き放題使っていた多様な能力を次々に開花させていきます。
レベル1のときには何もできず、序盤ではホイミを唱えて攻撃キャラを援護し、中盤以降固有の呪文、特技、強さでパーティを引っ張るドラクエの勇者に重なるコルレオの成長は、前述の精神性と相まって読んでいて気持ちがいいです。
昨今の創作物に多い「初めから強さも精神性も完成された勇者」も魅力的ですが、地道に、しかし確実に成長していく勇者にも、また別の魅力があるように思うのです。
第一話の時点では凡人だったコルレオにしか出せない魅力が絶対にあります。
◆魅力②バックボーンの異なる魅力的なキャラクター
複数の世界が交錯するということは、それぞれのキャラに全く異なるバックボーンが存在するということ。
文化はおろか種族としての立場すら異なるキャラがそれぞれの世界で乗り越えてきた物語は、魅力③の演出力のブーストがかかることで、キャラクターの魅力を最大限に引き立てます。
明るいキャラにも影がある、暗い過去でも前を向く強さがある、そんな多面的なキャラクター達は、表情の見せ方からデフォルメ表現まで幅広く演出できる漫画という媒体を存分に使いこなしているからこそ伝わってきます。
回想の使い方も効果的で、短い登場シーンの中での練られた台詞と演出は、回想にしか登場しないキャラにすら、再登場してほしいと思わせる魅力を与えています。
登場するキャラ全員が魅力的ですが、ここでは3キャラをピックアップ。
・エヴァン
第一話で自らの命と引き換えにコルレオを蘇生させた勇者。
造形からして別次元の強さに見える魔王エ
ンドを一捻りで倒してしまうその強さは正に別格。
比較対象となるキャラのいない第一話で次元の違う強さを表現できる林先生の手腕にも驚かされます。
しかし、エヴァンの魅力はその強さだけにとどまりません。
本作のキャラクターの特徴は、どんなキャラも弱さを持っているというところ。
強さの最終地点に辿り着いたように見えるエヴァンが漏らす懺悔とも取れる言葉は、意外性と共にこのキャラクターにも弱さという体温を与えます。
過酷な世界を生き抜き、魔王を圧倒して倒せる強さを得ながら、他者を犠牲にすることを選んでしまった弱さ。
しかし、正当化の言葉を並べた上での「私を勇者などとは思うな」という言葉からは、その行動を「仕方なかった」とは割りきれていない、エヴァンの中に残った善性からの後悔を感じます。
コルレオの世界とは全く異なる環境にいたからこそ生まれる次元の違う葛藤。
一話で退場させるには惜しいキャラです。
回想に散りばめられた伏線からしても、再登場の機会があることは明らか。
どんな形で登場するのか楽しみです。
・エリシア
正ヒロイン。
「人の時代が終わった」とも表現される世界の勇者。
もうこの画像だけで説明十分に思えてきますが、エリシアのキャラもまた単なる重くてかわいいというテンプレ的なものではありません。
「生きがい」というのはエリシアが生前の母からもらった大切な言葉。
母という拠り所を失い、ひたすら逃げるだけだった元の世界で心に火を灯してくれた言葉。
魔王に怯える生活でも、エリシアはその火を見失いませんでした。
復讐に囚われませんでした。
絶望の中でも自分の芯を見失わず、うつむきそうになりながらも足を引きずりながら前に歩ける強さが魅力のキャラクターです。
普段の話し方と外見からは想像できない凛とした強さを見たとき、少年漫画のヒロインのお手本のようだと感じました。
・ミネルヴァ
コルレオの希望となるキーキャラクター。
人がいなくなり、魔人だけになった世界の魔王。そしてアイドル。
コルレオ達にとっての師匠キャラかのように登場したかと思えば、コルレオとエリシアのラブコメを読者と同じ笑顔で見守りながら下世話に応援し、アイドルとしての覚悟の強さでかっこよさを見せたと思ったら、その来歴の悲しさに涙せざるを得ない。
個性に溢れ、誰にでもどこかの部分は刺さる、そんなキャラクターです。
自分には全部が刺さりました。
魔王と勇者の共存を目指すコルレオの折れかけた心を立て直したのは、魔王勇者の区別なく手負いのエリシアを守りきったミネルヴァの姿でした。
この後描かれる、平和な世界に生まれながらも愛を得られなかったミネルヴァの境遇や、それがコルレオの救援により報われるカタルシスは短い連載期間の間でキャラを立てきった林先生ならではの面白さでした。
◆魅力③緻密な心理描写と演出力と紋章術
三点目に持ってきましたが、個人的にはここが一番の強みだと思っています。
・余白のある緻密な心情描写
台詞と表情により表現されるキャラの心情は、メインとなる意図を読み取るには十分でありながら、それ以外の意図を探りたくなる絶妙な余白が残されています。
例えばこのシーン
旅立ちの決意を述べるコルレオ、しかしそれを母マママに伝える瞬間のコルレオの表情や台詞は描写されません。
代わりに描かれるのが上記のマママの表情と蛇口。
別れのシーンであることは容易に読み取れますが、蛇口から溢れるのがコルレオの涙とリンクしているのか?マママの表情から、コルレオは何かしらの台詞を言ったように思えるが、それはどんな台詞か?
こういったことは読者の想像に委ねられています。
この余白を読み取ったり感想を発信したりするのがまた楽しい。
・演出力
キャラの魅力は、それを引き立てる「ここぞ!」という場面の表情と演出があってこそ。
魔々勇々は、端的な台詞に熱いメッセージを乗せ、そこに大ゴマの表情を加えることで見せ場のシーンを演出します。
このシーン、コルレオの、心は強くても痛みは通常人同様にしっかり感じるという描写と、信用を裏切られたという心の痛みの描写が重なっています。表情を大ゴマにするからこそ伝わるシーン。
次は2枚連続
母を失う悲しみと絶望が、迫真の表情に加え、擬音で雨を表現して吹き出しを隠すという漫画以外ではできない表現で演出されています。
こうやって絶望が演出されるからこそ後の希望が美しい。
・紋章術
そして最後に、魔々勇々のバトルには「紋章術」という設定があります。
勇者と魔王だけが持つ紋章により、治癒、炎、意識ずらし、影の物質化等の固有能力を使うことができるというものです。
ここまで聞くと能力バトルにありがちな設定ですが、紋章術には「紋章術の出力の大きさは目的意識に呼応する」という面白い設定があります。
要するに、心の強ェ奴が本当に勝つバトルです。
もちろんそこだけで決まるわけではありませんが、目的意識のブレによる弱体化幅はかなり大きいようです。
画像のバトルは、コルレオにとって遥か格上のラルフレッドが相手。
全力を出されたら勝ち目はなかったでしょう。
レスバは言いすぎにしても、コルレオの勇者としてのブレない決意はそのまま紋章術の強さにつながります。
見せ場を強い台詞と演出で決める林先生のスタイルは、紋章術バトルに非常に相性が良く、回想を織り混ぜたバトルシーンには勝敗の説得力があります。
◆まとめ
いかがだったでしょうか。
・勇者としての志を持ったコルレオが、実力を伴うようになり、心も含めた強さで壁を乗り越えていく面白さ
・魅力的なキャラクターが紋章術バトルも媒介にし、独特の演出力によりその魅力を引き出される面白さ
・余白の多い心情描写からキャラの心情を読み取る面白さ
が伝わっていれば嬉しいです。
「そういう楽しみ方があったのか!」「そうそう!そこだよね!」など、少しでも魔々勇々について皆さんにポジティブな影響を与えられていればそれが何よりです。
アンケートを魔々勇々に入れていただくのが一番の目標ですが、それに加えて、この語りがいのある漫画の感想がもっとたくさんの人から発信されるようになることも隠れた目標にしております。
ファンとしては、月曜日は漫画本体を読むことに加え、他の方の感想を読むことも同じくらい楽しんでいるので。
既に存分に楽しんでいますが、楽しみは多ければ多いほど良いというのが自分の考えです。
長くなってしまいましたが、自分の好きな漫画の魅力を言語化する作業は楽しいものでした。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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