岩渕和信

日本教育新聞に8回連載した『「ひよわな校長」のための処方箋』の続きをここで書くことにしました。

岩渕和信

日本教育新聞に8回連載した『「ひよわな校長」のための処方箋』の続きをここで書くことにしました。

最近の記事

【ひよわな校長の処方箋73】ひよわな教師の処方箋

 指導力のない教師、仕事の遅い教師、整理できない教師、優柔不断な教師、自己中な教師、いろんなひよわ教師がいる。  教師の関係がうまくいっていないと、「あいつは使えない教師だ」とか「ダメな教師だ」とか言って、接する態度にもその気持ちが出てきてしまったりする。ひどい時はそれが教師間いじめのようになってしまうこともある。  子どもはそれを見ている。子どもの前だけ取り繕おうとしても、感じる子どもはすぐに感じる。教師は最大の環境である。学校以外の社会をあまり知らない子どもにとって、教師

    • 【ひよわな校長の処方箋72】インクルーシブな働き方システム

       その人にはその人の働き方というものがある。毎日、決まった時間から決まった時間までルーティンをしっかり守ってやる方が生きやすい人もいるだろうが、私なぞは、やりかけた仕事を途中でやめて帰宅すると、気になって熟睡できない。寝不足で次の日の授業に差し支えるし、これを繰り返すと健康に良くない。こういったことはその人の特性なのだと思う。  また、日本の今の教師という仕事は保護者との受けとり合いが大切である。保護者の勤務が終わってから連絡を取ることも多い。この受けとり合いを雑にやると子ど

      • 【ひよわな校長の処方箋71】トラウマは消えない

         最近は精神的な疾患で休職したり、中には辞めてしまう教師も増えている。そこまで病んでいなくても、クレーム対応や仕事上の失敗などで思い悩み、それがトラウマのようになって苦しんでいる教師は多い。  ある職員から、「何年も前に人から受けた一言が、いまだに思い出されて苦しくなることがある」と相談を受けた。帰宅途中の車の中で突然そのときのことを思い出し、涙が出てきて車を止めてしまうこともあると言う。心療内科のクリニックにも継続的に通っていて薬を服用していた時期もあった。だいぶ良くなって

        • 【ひよわな校長の処方箋70】障害はこちらにある

           学校では誰もが安心して生活し、授業を受ける権利がある。  例えば教室で、つい立ち上がって歩き回ってしまう子がいたとする。みんなが注意する。教師も注意する。それが授業の邪魔になっている。そうなると、授業を安心して受ける権利が侵害されてしまう。では、その子を外に出せばいいかというと、そうすると今度はその子の授業を受ける権利が侵害されてしまう。  その子には別室で学習してもらうという方法もあるが、その前に考えなくてはいけないことがある。なぜその子は授業の邪魔をしてしまうのかという

          【ひよわな校長の処方箋69】教科横断的サステナブルラーニング

           カリキュラムマネジメントにおいて、教科横断的な視点が求められている。  中学校では、各教科の年間計画に他教科との関連を入れて指導に生かす試みや、2教科の担当が合同で授業を計画するなどの試みがされているが、前者は無理やり他教科に絡めたようなものも多く、後者は研究授業などを見据えて行うイベント的な授業になりがちだ。  普段の授業で、自然に教科横断的な視点をもてるようにするには、教科担任である教師が、普段から他教科の授業に関心をもち、お互いの授業を見合うような習慣が必要だろう。し

          【ひよわな校長の処方箋69】教科横断的サステナブルラーニング

          【ひよわな校長の処方箋68】名前をつけると受けとれる

          「校長先生、教室で暴れている子がいます」小学校では、そう呼ばれて教室に駆けつけることがあった。教員の数はぎりぎりである。職員室には誰もいない。  教室に行ってみると、担任の先生が必死で男の子を押さえている。周りの子の情報によると、友達に何か言われて切れたらしい。とりあえず抱きかかえて教室から連れ出す。空いている静かな部屋に行って、抱きかかえたまま、「悔しかったんだよね」と話しかける。すると、こわばっていた彼の体から力が抜けた。隣に座らせてもう一度言う。 「そうか。悔しかったか

          【ひよわな校長の処方箋68】名前をつけると受けとれる

          【ひよわな校長の処方箋67】次へつなげる学校

           校長は退職か転勤でいつか変わってしまう。何か新しいことを始めても、次の校長が受け継がなければ元に戻ってしまう。何かを改革しようと思ったら時間をかけて学校の文化になるように浸透させなくてはならない。  しかし校長の任期は短い。だからこそ、着任したらすぐに自分が信じる教育に取り掛からなくてはならない。「1年目は様子を見て」などとは言っていられない。  まず、経営の柱となる学校教育目標が古くて時代に合わなかったり、マンネリ化していて心に響かなかったりしたら最初に変えるべきだ。  

          【ひよわな校長の処方箋67】次へつなげる学校

          【ひよわな校長の処方箋66】いろんな教師がいるからいい

           この教師はダメだという決めつけは悪循環しか生まない。それはその教師をいっそう荒んだ気持ちにさせ、周囲との関係をいっそう困難にしてゆく。  ある教師Aさんに対して、同僚の教師Bさんがそんな思いを持っていたとしよう。「Aさんは、生徒との関係が普通に作れないし、授業もいつも騒がしくて、ほとんど崩壊している。もうAさんは教師として不適格ではないのか」そんなことを他の同僚と話していたりする。話された同僚も否定はしない。そのうち校長のところにくる。「Aさんをなんとかしてください」  校

          【ひよわな校長の処方箋66】いろんな教師がいるからいい

          【ひよわな校長の処方箋65】ごっこ遊びの真剣さ

           教育委員会の指導主事だったときの経験で気づいたことだが、こども園から学ぶことは多い。教育に携わる者は皆、幼児教育の現場を知る必要があるとさえ思う。そこでは日々、真剣なごっこ遊びが展開されている。  例えば、園舎に入ると、廊下にはベッドも備えた小さな「病院」がある。大きな白いビニール袋を使った手作り白衣を着た小さな「院長先生」が仲間の小さな「医師」たちに指示を出している。 「大変だ、すぐにギブス持ってきて!」これはどうやら重症のようだ。もう一人の「医師」が電話をかける。 「も

          【ひよわな校長の処方箋65】ごっこ遊びの真剣さ

          【ひよわな校長の処方箋64】楽しい仕事

           学校は職場として楽しいところである。子供の成長を通して、生きるということの本質を学べる。日々、命の躍動を感じることができる。  ところが近年、教員は職として人気がない。採用試験の競争倍率が2倍を切ってしまった自治体もある。  その原因の一つは、マスコミなどによって強調されたブラックなイメージではないかと思う。実際、時間外労働は残業手当もなく時間も無制限だし、生徒や保護者などとの話し合いがうまくいかず人間関係で滅入ってしまうこともある。  確かにそうした問題は軽減されなくては

          【ひよわな校長の処方箋64】楽しい仕事

          【ひよわな校長の処方箋63】もったいない教育

           そもそも学ぶということは贅沢なことなのかもしれない。世の中には生きるのだけで精いっぱいという人もいる。実際、ヤングケアラーのような境遇にいる若者の中には進学をあきらめざるを得ない者もいる。  日本は教育よりも防衛に多くお金を使っているようだ。学ぶことよりも、生きるのが精いっぱいということなのだろうか。しかし教育は未来を創るが兵器は未来を破壊しているだけのような気がするが。  そんなわけで、日本ではギリギリの教員数で、一度に大人数の子を教育しなくてはならない。その制限の中で、

          【ひよわな校長の処方箋63】もったいない教育

          【ひよわな校長の処方箋62】大切なことが目に見える授業

           大切なことは目に見えない。それを見せるのが授業だ。  子どもたちの目に、この世界はどう映っているのだろう。  コンピュータゲームの中で撃ち殺されたら、さっきの保存先からまたやり直せばいい。ネットゲームの中では、死んでもパーティーの仲間が再生してくれる。さもなければ、自分もゾンビになって人を殺せばいい。  これらのゲームは教育上よくないと大人は言う。しかし大人はもっとリアルな殺し合いを戦争という名の下で行っている。人殺しは一人殺しても殺人という犯罪だが、戦争なら何人殺してもい

          【ひよわな校長の処方箋62】大切なことが目に見える授業

          【ひよわな校長の処方箋61】コンパスが無い

           子どもの家庭の問題は、教師が相談に乗るようなことではない。教師は子どもを教育することが任務である。  とはいうものの、家庭あっての子どもである。子どもはときに、家庭での問題を引き摺って学校へ来る。  授業に集中できない子、朝からいら立って落ち着きのない子、忘れ物が多い子、眠そうな子、…。本人の特性もあるかもしれないが、その特性も含めてその子の「事情」である。  家庭にどんな事情があるのか、こちらから追及するのが難しい場合もあるが、「事情があるのだ」ということは想像する必要が

          【ひよわな校長の処方箋61】コンパスが無い

          【ひよわな校長の処方箋60】僕は給食でできている

           前任校の小学校では、給食を学校で作っていた。校長には検食という重要な役割が与えられていた。  給食時間の30分前に校長室に給食が届けられる。味はどうか、異物など混入していないか、また量は適当か、などを見る。以前、かた焼きそばの麺が固すぎて児童の歯が欠けたという事案もあったらしい。校長の責任は重大である。  「食べること」というのは生きる上での最重要課題だろう。子どもの関心も極めて高い。朝から「校長先生、今日はカレーだよ」と教えてくれる児童もいる。  たまに校外学習などでお弁

          【ひよわな校長の処方箋60】僕は給食でできている

          【ひよわな校長の処方箋59】教師の事情と学校の事情

           休日の部活動の地域移行が進んでいるが、平日の部活動については当分教師がやらざるを得ない。  働き方改革の視点から、勤務時間の適正化も課題になっているが、部活動があると退勤は遅くなる。  昔からの慣例で、時期ごとの日没の時間に合わせて完全下校の時間を決めている学校が多いのではないだろうか。そうなると、夏季は18時過ぎまで部活動をやり、翌日の授業の準備はそれから始めることになる。  ならば、年間を通して完全下校の時間を統一して早めるようにすればいいのだが、そうすると冬季に合わせ

          【ひよわな校長の処方箋59】教師の事情と学校の事情

          【ひよわな校長の処方箋58】一枚岩は玉砕する

          「職員一同、一枚岩となって全力で取り組んでもらいたい」というような言葉をよく聞く。しかし「一枚岩」は割れやすい。一か所亀裂が入ると全体が割れてしまう。  木目の方向がバラバラな板を張り合わせたべニア板のように、多様な人間が集まってそれぞれの考えを出し合いながら取り組んだほうが割れにくいし、いいアイデアも出る。  同じように、「一致団結」もよくない。かつての日本軍のように、誰かが間違えたらみんなで玉砕してしまう。  それぞれが言いたい放題になってしまったらまとまらなくて困るじゃ

          【ひよわな校長の処方箋58】一枚岩は玉砕する