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宝石は磨かなくても、歯を磨いていたら、自信がついた
「昭和」の歯科
私が40年近くお付き合いしている歯科衛生士のサン先生(仮名)が言い続けている言葉:「宝石は磨かなくても、歯を磨こう!」
私は、昭和40年代生まれの、どっぷり昭和世代。私が子供だった頃の日本には、歯科衛生士なんていなかったんじゃないかな?だから歯科医院を訪ねる時の常識は、虫歯で歯痛になったとき。
小学校のとき、たしか定期的に歯科医が学校に来て検診をしてたように思う。その目的は、虫歯を発見し、それらを歯医者へ行って治療するよう促すこと。ちゃんとしたブラッシング等の予防指導は、皆無だった。
23歳、歯科衛生に出会う
だから初めてサン先生の務める欧米的な歯科医院を訪れた時、23歳という若さながら、私の奥の永久歯はほとんどが一度は削られ、銀歯や詰め物が詰め込まれていた。当時はそれが普通だと思っていたので、何も感じなかったが、サン先生だけは悲しそうに見えた。
「あなたの歯は、元々とてもしっかりした良い歯。エナメル質でキラキラしている。ただ、元来強い分、いい加減に磨いてきたかもね」とサン先生は言った。続けて、「虫歯には強いけど、歯茎がやられちゃってる。ほら、歯茎を押すと血が出てくる箇所が多いでしょ」と言った。
口臭と羞恥心
23歳までの私は、歯や歯茎に対する知識がゼロだった。私と歯や髪質が似ている父は、歯茎から出血するのが常で、それは普通なのかとさえ思っていた。また、父は口臭のある人で、父ほど強くはないものの私にもたまに口臭があることを母に指摘された。
口臭を指摘してくれる他人はなかなかいない。指摘してくれた母には感謝しつつも、これを友人や同僚も感じていたのかと思うと、極度の羞恥心を感じた。また、指摘されても体質的な問題なのか、どうやって改善できるのか、全くわからず困惑していた。
サン先生曰く、「歯が強い人は、歯茎が歯槽膿漏になっちゃて、歯茎が膿んで口は臭くなるし、将来的にはグラグラして、良い歯も抜け落ちちゃう」。実際、80歳になる前後から父の歯は次々と抜け落ち始めた。抜けた歯を見ると、とてもしっかりして良い歯なのに、それを歯茎が持ち堪えられなくなってしまったのだ。
歯科へ行く目的1:治すのではなく、健康維持のため
歯をしっかり磨くことは、歯茎とその間も含めて磨くことになり、口臭の主な原因である歯槽膿漏を無くせるかもしれない。大袈裟に聞こえるかもしれないが、私には希望の光が見えたような衝撃だった。
40年近く歯科衛生士のサン先生とその旦那さんであり歯科医ムーン先生(仮名)を定期的に訪れるようになってから実体験でわかったこと、考えたこと。歯科医院の本来の目的は、歯科医と歯科衛生士が対になって人々の歯科健康を指導・維持・促進する手助けなのかと思う。だって、一度削ってしまった歯は、他の骨のように再生せず、二度と元の歯には戻らない。
私たちが真に必要なのは、永久歯を可能な限り保持する手助け。人生の続く限り食べ物を美味しく噛めるよう、歯の健康をチックし、バランスを整え、維持することだと思う。それを考えると、昭和以前の時代、歯科医の仕事が虫歯を治療したり、抜いたりすることだと思っていたのは、恐ろしい。
歯科へ行く目的2:自信を持ち続けるため
もう一つ、私にとっては、第一と同じくらい大事な目的がある。それは、「自分に自信を持ち続ける」サポートだ。私の場合は、「口臭」という問題があった。ある人にとっては、「弱い歯」や「歯並び」かもしれない。
私は、誰とでも楽しく話すのが好き。もし私が父のように歯槽膿漏に大した手立ても打たず、この40年近くを過ごしていたらと考えると、ゾッとする。私の人生は大きく違っていたと思う。
人と対面で話すとき、無意識に「口が臭いかもしれない」、「もしかして友人は私の口臭に気づいているかもしれないけど、言わないのかも」などとノイローゼ気味になっていたかも。不安がつきまとうので、口に手をやって話したりして、臆病な性質になっていたかも。
美容サロンのように歯科へ行こう!
今回は歯科衛生についてばかり書いたが、歯科医のムーン先生は、根本の部分で本当にお世話になった。通い始めた早期に、他の歯を邪魔している「親知らず」について指摘を受け、20代前半に4ヶ月かけて一本づつ抜いた。私の歯は元々がっちりしているので、親知らずも恐ろしく大きかった。4本抜いたら、顎のあたりのラインが気のせいか細っそりした気がした。20代だったので、骨もまだ強く回復も早かった。
また、何十年も定期的に通っているおかげで、無意識の「くいしばり」に気づくことができた。気づかない間に食いしばり、歯に亀裂が入り、いくら健康な歯と歯茎でも、ある日突然パカーンと歯が割れてしまうことがあるらしい。恐ろしい!寝る際のマウスピースは、もう20年も手放せない。
今、私は50代中頃。子供時代からの残存物である治療済み永久歯の奥歯はある。食いしばりで亀裂が入っている歯もある。それでも全部自分の歯で、虫歯や歯槽膿漏はない。健康な歯で人と会話し、大きな口を開けて笑う。それは、歯が私に自信をくれるから。
Image by Zoomin: 私の歯クリーニング用具。何十年も愛用しているTePe歯ブラシ(スウェーデン製。日本でも購入可能)。