ホームはメイキングする必要がある
人生の分岐点に来るまで、私は「home(ホーム)」を良くわからなかった人だと思う。スウェーデンの分譲アパートに住み始めて10年くらい経った頃、遊びに来た友人が言った「もう10年住んでるんだよね?でも、このアパートって、えっ、昨日引っ越ししてきたんじゃないの?って感じだよね」と。
まぁ、雑然としていたが、ダンボールが山積みになっているわけでもなく、一通り家具もあるし、掃除はきちんとされていたので「どこがそう思わせるの?」と訳がわからず聞いた。すると友人は「なんか居心地良い空間を作ろうとする努力が足りないよね」と言った。
私は困惑した。もちろん、その友人は私を見捨てることなく、初めの一歩を手助けしてくれた。彼女の最初の指示は、リビングのいくつかの家具の配置を変えて、生活スペースのメリハリをつけること。仕事の空間、お茶する空間、安らぐ空間を作った。
その後、ベッドルームにカーテンを取り付けることを指示された。また、各部屋に優しい感じの観葉植物を置くことを言い渡された。なぜなら、それまで部屋にあったのがサボテンや肉厚系の植物であまり優しい感じでなかったからだ。
彼女の訪問以来、私の中で人生初「homemaking」がブームになった。私の中で、ホームに対してなんのこだわりもなく生きてきた。雨を凌げる屋根と温かい部屋、仕事・趣味のための本や機器類、バスルーム、キッチンさえあればホームだと思っていた。
一度やり始めたら、ホームメイキングは私の日々の仕事になった。なぜなら、10年前に住み始めて以来、全く手をかけていなかったから。色々な箇所を修繕し、調整する必要がどんどん見えてきた。
一番の大きな気づきは「ホーム」は生き物だということ。毎朝、一度は1LDKの小さなアパートを見回る。すると、何かしら手をかけるべき事態が見つかる。大抵は植物への水やり、窓の汚れや棚の埃、少し壊れて使いにくくなっている箇所など、日々ただ生活しているだけで、家の中では色んな変化が起こっていることに気づく。そして、家全体を見回り、手間をかければかけるほど、家もそれに反応して住み易く、気持ちの良い空間になっていく。
現在、私には2ヶ所の「ホーム」らしき場所がある。このスウェーデンのアパートと東京の実家だ。でも、今、二つのホームは、どちらもホームじゃなくて、私は宙に浮遊している気がする。