電通「日本の広告費 2023」を見て気づくこと感じたこと
※TOP画像は、電通サイトより
今年も電通から「日本の広告費 2023」が発表されました。広告業界に携わるものとして、その数字を見ながら、気づくことや感じることを書いていこうと思います。※Xでの連続投稿の補足を含みます
日本の広告費とは、日本の広告代理店である電通(電通メディアイノベーションラボ)が毎年出している昨年の日本の総広告費や、4マスやインターネットなどの内訳などを発表するものです。内容に関して、様々な立場の人の、様々な意見はありますが、広告に関わる者としては、一読はしておきたい内容ではあります。
【電通のまとめ】
総広告費の傾向
まずは電通が記載しているまとめ内容を一部抜粋します。
全体として、総広告費は成長していて、インターネット広告が全体を牽引し、イベントなどのオフライン広告費も増えている状況のようです。
2023年の総広告費は、通年で7兆3,167億円(前年比103.0%)となり、1947年の推定開始以降、前年に続き過去最高を更新
インターネット広告費は、3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を更新し、前年より2,418億円増加
プロモーションメディア広告費における「イベント・展示・映像ほか」は、3,845億円(前年比128.7%)と大きく増加
媒体別広告費の傾向
続いて、媒体別の内訳です。内訳は例年通り、マスコミ4媒体(新聞・雑誌・ラジオ・テレビメディア)、インターネット広告(動画広告、検索広告、ディスプレイ広告、SNS広告、EC、制作費など含む)、プロモーションメディア広告(屋外広告や交通広告、折込やDMなどオフラインで繋がっている広告群)の3つに分かれていました。
マスコミ四媒体広告費 2兆3,161億円(前年比96.6%)
インターネット広告費 3兆3,330億円(前年比107.8%)
プロモーションメディア広告費 1兆6,676億円(前年比103.4%)
日本の広告費 2023を見て気づいたこと、感じたこと
全体傾向はポジティブ!
まず、日本の総広告費が全体として上がっていることは、不況への懸念もある中で、とても喜ばしいことだと思っています。広告業界で働いている身としては、ちゃんと成長市場にいるという安心する気持ちもありますし、広告に関わる人たちがまだまだできることもたくさんありそうだなと思える数字かなと思います。
インターネット広告費(全体)は見方に課題ある?
インターネット広告費の成長が、全体への貢献している点も喜ばしいです。個人的には、デジタル広告関わって8年になり、近年は成長軸のコネクテッドTV(CTV)に関わっている身として、動画広告の成長はまだ見込めそうだという点もポジティブに見ています。合わせて、ECやリテール(小売)の貢献も大きかった年でもあると思い、ネット広告の成長路線が今はその2つになっている印象です。
一方で、CTVが成長軸ではありつつも、インターネット広告の4マス・EC・制作費を除いた、おそらくYouTubeやSNSなどの広告費が大半のため、もっと正確な数値が欲しいところです。それにテレビメディアデジタルには、TVerやABEMAなどが含まれるかと思いますが、動画広告という観点で考えると、数字の括り方がミスリードになるなと思っています。
これを解決するには、もっとGoogleやMetaなどのプラットフォーマーからの数値共有も必要でしょうし、YouTube広告/TVer広告/ABEMA広告などをどうカテゴライズして表現するかも必要になってくるかと思っています。
4マス広告費(個別)で進むユーザー離れと意識したいこと
4マスの広告費は全体は下がり、地上波テレビが継続的に減少傾向です。アメリカなどでいう"コードカット"の動きは日本でも来年も再来年も続くと思われます。同じような傾向は新聞にも言えそうで、高い購読費用を払ってまで新聞を読むという層はどんどん減少傾向にある中で、メディアもデジタルシフトに動いてしまっていることもあります。また、新聞メディアは広告費ではなく、会員登録を促しそこでサブスク費用を収益にする動きも日経新聞などを筆頭に見られるため、そういった広告にヒットしない数値もあるかと思います。
一方で、4マスの雑誌とラジオはステイが続いており、理由を考えてみたいと思います。これは、プロモーションメディア広告費の折込やDM、POPなどにも言えそうですが、おそらく一定層の広告主はそれらメディアを外さない選択をしているのではないかと予想しています。
きっとこれまでのビジネスの関係性もあるとは思います。しかし、それ以上に、テレビやデジタル広告では確実に届かない、または心が動かない層がどの年代にもいますし、雑誌・ラジオ・オフラインの表現だからこそ獲得できる数値があるんだと思っています。だから、広告主は外せないし外さない。
逆を言えば、デジタルが成長しているから「デジタル1番!デジタルやっておけば大丈夫!」なんて、広告主も広告代理店もプラットフォーマーもメディアも思ってはいけないということでもあると思います。(人は殿様になったら衰退する)。そのため、ユーザー心理やカスタマージャーニー、顧客や消費者特性を改めて考える大事な時期に来ているのだとも思っています。
インターネット広告費(個別)は動画やリテールが牽引
インターネット広告は、動画広告(CTVやショート動画)の成長や、EC含めたリテールメディアの成長、SNSのペイドとオウンド活用の継続的な発展、指名検索の重要性は下がらないリスティング広告、などが牽引していそうです。
ただ、個人的にまだかな?と思っているのは、「ラジオデジタルがなかなか伸びてこないなー」ということです。広くいうと、音楽アプリSpotifyやラジオアプリradiko含めて音声がなかなか来るにこない感じは、耳という良いタッチポイントなだけに予算的に活用事例が増えないのかなという印象です。音声は一番記憶に残るメディアなのに!
「物販系ECプラットフォーム広告費」はこれから益々成長すると思われます。これはグローバル含めての動きですが、Cookielessになる中で、リテールの需要は伸びるしかない状況がまずあります。また、Amazon含めて、会員情報がしっかりあり購買体験に一番近いメディアに、広告主は広告費用を優先して投資することは妥当な判断だと思います。
プロモーションメディア広告費(個別)はメディア設計難しい
屋外広告や交通広告の成長も喜ばしいです。アフターコロナ以降、人流が増え、屋外でのメディア導線を考える必要性が増しています。屋外ビジョンも増えたし、LIVE BOARDのようなDOOH(デジタルOOH)も成長しています。課題といえば、広告掲載をする際の効果測定(メジャメント)の部分が、プレイヤーや企業を跨いで統一されていない点でしょうか?OOHほど、この辺りをみんなで協力してよくしていく動きが必要だなと思っています。
ただ、個人的な感覚としては、屋外広告や交通広告は、なんだかまだティッピングポイントを超えていない印象もあります。もっと爆発的に使われてもいいのになーと思いつつ、制作や設置、分業化や複数社連携など、デジタルに比べたら、手軽くできるものでもない点が、伸びたいのに伸びれないところもあるのでしょうか?
また、渋谷や新宿などの超大型ビジョンは見ますが、別の駅のふとしたところにあるビジョンは見ても記憶には残らないかなーとも思っており、メディアプランで生活導線を考えることは相当な想像力が求められるなと思っています。
「イベント・展示・映像ほか」の成長も目覚ましいです。僕もジャパンモビリティショー2023に参加しましたが、各自動車会社の空間作りは、昔に比べて桁違いだったように思いました。自社の世界観、方針、製品紹介、ビジョン、コンテンツなど、ブランドが伝えるべきリアルだけど非現実的な表現の重要性が増しているのだと思います。
その他の「ポスティング市場 1,472億円(前年比106.1%)」は気になるところです。新聞折込の代替へのニーズや全戸配布などの需要が継続、官公庁・自治体関連の配布物や公告などの引き合いも堅調に推移、主要都市圏を中心に、ともリリース文にコメントがありましたが、やはり紙だから刺さる人がいるし、デジタルとの連動もできる点もあり、ニーズがなくならないのかと思いました。
日本の広告費レポートへの個人的な願い
最後に、近年毎年思っていることで、個人的な願いをいくつか記載します。
まず、"新聞/雑誌/ラジオ/テレビメディアデジタル"という表現はすごくわかりづらいなと思っています。また、OOHにもデジタルのDOOHが出てきている中で、デジタルとNotデジタルの境目がわかりづらくなっているなとも思っています。
広告費用の数値をそれぞれのカテゴリーで区分けして成長率を見ていくことの必要性は深く理解している中で、4マス・インターネット・プロモーションメディアの3括りで分けることが、少しミスリードが起きるなとも思っています。どの施策にもデジタルは絡めるし、新聞などにもハイブリッドな施策もあるはずです。
また、PDFの「図表6 業種別広告費(マスコミ四媒体広告費) 」のように、4マスの詳細情報はありつつ、インターネットやプロモーションメディアの詳細情報がない点も気になります。
これを解決するためには、前段でも記載しましたが、インターネットでは、Google/Meta/LINE/TikTok/Xなどのプラットフォーマーからの情報開示協力も必要なのだと思います。そして、プロモーションメディアでも、複数の関係会社がいる中での情報伝達のDXがもっと進むべきなのかもしれません。データ分析から傾向と対策、施策を考えるために、オープンな環境で数値が見れる状態を目指したいところです。
広告に関わる皆さんと一緒に成長していけることを楽しみに思いながら、僕自身も引き続き精進していこうと思います。
ではでは、今日もこの辺で。
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Kazuma Hattori | デジタル広告・マーケの人 @KazumaHattori
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