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受験と教育のバランス
あなたは「人格の完成」されていますか?
日本の学習指導要領は、教育の目的として「人格の完成」を掲げています。この理念は、教育基本法の第一条にも示されており、「個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間を育成する」ことを目指しています。しかし、現実の教育現場では、受験に重点を置いた学力の向上が優先され、人格の完成という理念が形骸化している面が否めません。本稿では、学習指導要領が目指す人格の完成の意義を再考し、受験や学力との関係を踏まえながらその現状と課題について考察します。
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1. 学習指導要領における「人格の完成」とは
学習指導要領が掲げる「人格の完成」とは、単に知識や技術を習得するだけではなく、精神的・道徳的な成長を重視し、自立した社会の一員として貢献できる人間の育成を目指した理念です。この理念には、以下のような要素が含まれています。
(1) 自己実現の追求
教育は、個人が自分自身の可能性を最大限に発揮し、自己実現を達成するための基盤を提供します。人格の完成とは、単なるスキルの習得ではなく、個人が自分らしさを見出し、社会と調和しながら生きる力を育むことを意味します。
(2) 道徳性と社会性の育成
人格の完成には、他者を尊重し、社会と協調して生きる力を育むことが含まれます。具体的には、道徳教育や社会性の学びを通じて、公共心や倫理観を養うことが求められます。
(3) 全人的な教育
人格の完成は、知識や技能だけでなく、感性や情操、身体的健康など、全人的な発達を目指すものです。このため、教科教育だけでなく、体育や芸術、特別活動などの多様な学びが重要とされています。
2. 受験重視と学力偏重がもたらす課題
日本の教育現場では、人格の完成という理念が受験や学力向上の優先度に押され、実現が難しい状況にあります。この背景には以下の要因が挙げられます。
(1) 受験が目的化している現状
多くの学校や家庭では、受験の成功が教育の最優先課題とされています。偏差値や試験結果が教育の成果として評価されることが多く、学びの本質である「人格の完成」が置き去りにされがちです。受験に焦点を当てた指導では、思考力や創造力を養う教育よりも、短期的な点数向上に有効な暗記や反復練習が重視されます。
(2) 学力と人格の関係が断絶している問題
学力は人格の一部であり、互いに密接な関係を持つべきですが、現状では分断されて扱われることが少なくありません。例えば、学力向上を目的とした教育は、知識を蓄積することに偏重し、人間性の育成や感性の発達が軽視される傾向があります。
(3) 受験が生徒の多様性を抑圧する
受験では一律の基準が設けられるため、生徒の個性や多様性が評価されにくい状況が生まれます。このため、生徒は「平均的な優等生」を目指すよう求められ、個々の特性や興味が十分に伸ばされないことが多いです。
3. 人格の完成を目指す教育の実現に向けて
(1) 学びの多様性を取り入れる
人格の完成には、生徒が主体的に学ぶ環境を整えることが重要です。受験科目以外の領域においても、生徒の興味や関心を引き出す探究学習やプロジェクトベース学習(PBL)の導入が有効です。これにより、生徒は知識を単なる暗記ではなく、実生活で活用できる形で習得することができます。
(2) 教員の意識改革
教員自身が人格の完成を教育の目的として再認識し、生徒の多様な成長を支える指導に努める必要があります。単に学力向上を目指すだけでなく、生徒一人ひとりの特性や可能性を見極め、それを伸ばす教育が求められます。
(3) 評価基準の多様化
受験重視の風潮を変えるためには、学校や社会全体が「評価基準の多様化」を進める必要があります。具体的には、学力以外の能力や態度、協働力などを評価する仕組みを構築し、受験以外にも生徒の成長を示せる機会を増やすことが求められます。
(4) 教育現場と社会の連携
人格の完成を目指すには、学校教育だけではなく、家庭や地域社会との連携も不可欠です。例えば、地域でのボランティア活動や職場体験を通じて、実社会との接点を持つ機会を提供することで、生徒の道徳性や社会性を育むことができます。
4. 受験と人格形成の両立は可能か?
人格の完成と受験は必ずしも対立するものではありません。本来、受験勉強は目標達成のための努力や計画性を学ぶ機会であり、それ自体が人格形成に貢献する側面を持っています。しかし、これを実現するには、以下のような工夫が必要です。
(1) 目標設定を通じた成長の支援
受験を単なる競争ではなく、自己の成長を図る目標として位置づけることが重要です。生徒が自分で目標を設定し、それに向けて努力する過程を大切にする指導が求められます。
(2) 学びを「点数」から「価値」へ転換
学力を点数で評価するだけでなく、得た知識がどのように活用できるのか、その価値を実感できる教育を目指すべきです。これにより、学力と人格形成の相乗効果が期待できます。
5. 結論
学習指導要領が掲げる「人格の完成」という理念は、単に学力向上を目指すだけではなく、生徒一人ひとりが自らの可能性を最大限に発揮し、社会に貢献できる存在となることを目指しています。しかし、受験重視の教育現場では、学力偏重が人格形成を阻害している現状が見られます。この課題を克服するためには、学びの多様性、評価基準の改革、教育現場と社会の連携が求められます。
人格の完成と受験の両立を図るには、生徒が主体的に学び、自らの成長を実感できる教育環境を整えることが不可欠です。教育が本来の目的を取り戻し、生徒一人ひとりが自分の可能性を広げる場となるために、教育関係者だけでなく、社会全体での協力が必要です。このような教育の実現が、「人格の完成」という理念を真に達成する鍵となるでしょう。