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少なく教えて深く学ぶためには

「カリキュラム・オーバーロード」とは、教育課程において指導内容や授業時間が過剰に詰め込まれ、教育現場や生徒に過度な負担がかかる状態を指します。この問題は、日本のみならず、世界各国で共通して議論されています。

カリキュラム・オーバーロードの背景

日本の小・中学校では、学習指導要領に基づき教育活動が行われています。学習指導要領は約10年ごとに改訂され、社会の変化や新たな教育課題に対応するため、指導内容が増加する傾向にあります。例えば、GIGAスクール構想により、児童生徒一人一台の端末環境が整備され、情報リテラシー教育の充実が求められるようになりました。また、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する教育や、多様性・包摂性の理解を深める指導も必要とされています。

現場の課題

指導内容の増加に伴い、教員は限られた時間内で多くの内容を指導しなければならず、教材研究や指導法の検討にかける時間も増加しています。その結果、教員の勤務時間が長時間化し、働き方改革の推進が難航する状況にあります。また、授業時間数の増加により、児童生徒の学習負担も増し、主体的・対話的で深い学びの実現が困難になる可能性があります。

国際的な視点

カリキュラム・オーバーロードの問題は、日本だけでなく、OECD加盟国を中心に多くの国や地域で共通の課題とされています。OECDの「Education 2030プロジェクト」では、カリキュラムの柔軟性と学校の自律的な権限で教科横断的な学びを創り出すことが求められています。例えば、シンガポールでは「Teach Less, Learn More.(少なく教えて深く学ぶ)」という理念のもと、カリキュラムを編成し、教師の質を高める教育政策を進めています。

解決に向けた取り組み

カリキュラム・オーバーロードの解消には、教育課程の編成権を持つ校長のリーダーシップが重要です。教科や領域で扱う内容が重なる場合、教科横断的な指導計画を立てることで、指導内容の効率化が図れます。しかし、効果的なカリキュラム・マネジメントを行うためには、各教科の内容や指導方法に精通した教員の存在と、十分な時間が必要です。現状では、これらの条件を満たす学校は限られています。

今後の展望

2027年前後に予定されている次期学習指導要領の改訂に向け、全国小学校長連合会は「指導内容及び指導時数の削減」を要望しています。また、中央教育審議会の委員に全国の校長会の会長が任命されるなど、学校現場の実情を国の政策に反映させる動きも見られます。教育の質を高めるためには、カリキュラム・オーバーロードの解消が不可欠であり、子どもや教員の心身の健康を守るためにも、現場の声を反映した柔軟な教育課程の編成が求められます。

まとめ

カリキュラム・オーバーロードは、教育現場や児童生徒に多大な負担をもたらす深刻な問題です。社会の変化や新たな教育課題に対応するため、指導内容の増加は避けられない側面もありますが、教育の質を維持・向上させるためには、指導内容や授業時間の適切な見直しが必要です。今後、教育現場の実情を踏まえた柔軟なカリキュラム編成と、教員の働き方改革を推進する取り組みが重要となるでしょう。

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