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【2000字のドラマ】あの日見た花火を、僕はまだ忘れられない

花火めっちゃ綺麗やね!


花火を見るたびに思い出す、くしゃっとしたとびきりの笑顔。

あと何回花火を見れば、君を忘れられるのだろうか。



今年もまた、夏が来た。


ーーー


『お昼何食べよっか。』

「さっぱりしたものがいいな。」

『そうめんとかどう?』

「そうめんってさ、麺類で1番最弱だよね。」

『確かに。でも、時々食べたくなるよね。』

「それな。」


蒸し暑い夏の昼下がり。

風になびく風鈴の音を聴きながら縁側で話す2人。


「俺、マジで夏嫌いなんだよね。」

『なんで?プール行ったり海行ったり、バーベキューしたり、一番楽しくない?』

「いや、暑いじゃん。それだけでいろいろやる気なくなるんだよね。」

『えー。そうかな、私は楽しいと思うけどね。』


そんな、中身のない何気ない会話に幸せを感じる。

いつまでもこの時間が続けばいいな。


---


彼女との出会いは大学2年生の春。

親友に誘われたサークルの飲み会。

全く乗り気じゃなかった。人がわいわいしてるのあまり好きじゃないし、大学生特有の低俗なコールが嫌いだ。

頭が悪すぎる、そんな低俗な人間たちと俺は何時間も共に過ごさなければいけない。死んだ方がマシだ。

しかし、親友の誘いを断れない弱い心を持った俺は重い腰を上げ、しぶしぶサークルが開催する飲み会へと足を運んだ。


到着早々、なみなみに注がれたビールジョッキを片手に乾杯の音頭が響く。

最初は和気藹々と普通に話していたが、次第に会場は熱を帯びていく。


飲んでなくないウォウウォウ!


はじまった。地獄の時間がとうとう来やがった。


誘ってきた親友に目を送ると、彼も低俗なグループの一員へとなり下がっていた。お前もそっち側の人間なのか。心の中で親友を軽蔑した。

そこらかしこで低俗なコールが響き渡る。


ラララライ ラララライ ラララ ライ縦 ライ横 ライ斜め的な!


いや、藤崎マーケットかよ。ラララライ体操じゃねーか。


今日のお前もいい波乗ってんねぇ!


波ってなんだよ。お前ら酔いすぎて幻覚見えてんの?


コール一つ一つに心の中で悪態をつきまくった。

嫌気がさし、低俗な人間たちから目を背ける。すると会場の端っこで精いっぱいの愛想笑いを振りまく君が目に映った。

あぁ、君は俺と同じなんだな。


ーーー


彼女と初めて迎える夏休み。

「ねえ、夏休みどっか行く?花火大会行かない?お盆とか空いてる?」

『うーん、ごめん。お盆は家族で実家に帰省しなきゃいけないんだよね。』

「そっか。そうだよね。大丈夫だよ。また今度にしよっか。」

『ごめんね。』

その日は観測史上最高気温を記録したらしいが、俺にはちょっとだけ肌寒く感じられた。


ーーー


俺は夏が嫌いだ。暑いのも騒がしいのも、キラキラしてるのも嫌いだ。

虫も、海も、プールも、冷やし中華も、スイカも嫌いだ。

夏はいい思い出がない。誕生日がお盆にあるせいで友達から直接誕生日を祝われたことは片手で数えても指が余る。そのうえ終戦記念日。テレビも終戦記念日関連の番組しかなく、気が滅入る。

なんで誕生日に戦争の話しかしないんだよ。何度思ったことか。

誕生日に延々と垂れ流される戦争の映像。

リモコンに手をかけ適当にチャンネルを変える。すると昨年の多摩川の花火大会が映し出される。

今年の花火はどうやら俺の誕生日と同じ日にやるらしい。むしろそれが狙いだった。

本来なら彼女を誘って最高の1日を過ごす予定だったのにな。

しかし、今年もその夢は叶わない。

セミの鳴き声に苛立ちを覚える。

「夏はやっぱり嫌いだ。」

1人ぼそっとつぶやく。


ーーー


日をまたぎ、誕生日を迎えた。

スマホには親友と彼女からの”誕生日おめでとう”のLINE。

それぞれに”ありがとう”と返事を返し床に就いた。


昼過ぎ、ピロンとスマホが鳴った。彼女からだ。

『今日どうするの?』

「んー。やることないし、1人で花火でも見に行こうかな。」

『そっか。ごめんね。』

「謝ることないよ。家族を大事にするの当たり前だから。」



ピロン。スマホが鳴った。

『今家?家行くから暇だったら一緒に花火見に行かない?』

親友からのLINEだった。お前かよ。スマホを投げそうになるが、寸前でこらえ返事を返す。

「なんで男2人で花火見に行かなきゃいけねぇんだよ。てか彼女と行くんじゃなかったの?」

『体調崩しちゃったみたいでさ。お前も彼女と行けないんだろ?一緒に行こうぜ。誕生日のお祝いにおごるからさ。』

「さすがにむなしいわ。絶対行かないからな。」

『誰のおかげで彼女と付き合えたと思ってんだよ。行くって言ったら行くんだよ。あとで家行くから準備しとけ。』

「わかったよ。」

しぶしぶ了承した。





ピンポーン。家のベルがなる。

今年の花火は男2人で過ごすぞ。覚悟を決めドアを開ける。


すると、急いで走ってきたのか肩で息をする白に水玉模様の浴衣に身を包んだ彼女がいた。

まさかの訪問者に驚いた俺に彼女は言った。



『サプライズしようと思って、親友君に引き留めてもらってたの。誕生日おめでとう。一緒に花火見に行かない?』







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