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仕様書なき世界で見えた真実、Salesforce管理者のお話
着任初日に感じたのは、あまりにも資料が少ないという衝撃だった。具体的な仕様書は皆無で、あるのは限界ギリギリまで拡張されたSalesforceの画面のみ。前職では運用マニュアルと仕様書をもとに仕事を組み立ててきたので、まさに手探り状態だった。
そんな中で私が最初に手をつけたのは、大量に増殖していたSalesforceの項目、入力規則、フローを整理するリファクタリング作業。何か手を動かしていないと不安になる気持ちはわかるものの、やみくもな機能追加や細かいルール設定がシステムを複雑化させているのは明らかだった。
仕様書のない現場に向き合う
仕様書がなければ、最初からスッキリした台帳を用意すればいい──そんなふうに考えた瞬間もあったが、実際はそう簡単にはいかなかった。運用中の画面には各チームのこだわりや長年の運用履歴が詰まっていて、下手に整理すると業務が止まる恐れもある。
だからこそ、まずは一つひとつの設定を丁寧に見ていくしかない。形骸化した項目やフロー、実際には使われていない入力規則を片っ端から洗い出す。現状を把握すると同時に、不要なものを廃止してみてユーザの反応を確認する。その繰り返しが地味だが効果的だった。
過剰な管理を外していく
私が決断したのは、「やってみないとわからないけど、やらなくていいことだと証明できるなら先にやってしまおう」という方針。言い換えれば、要らない業務だとわかれば思いきり止めてみる。そうすることで初めて、使われないルールやフローがいかに多かったかが浮き彫りになった。
一度不要な要素を外しても大きな問題が起きないとわかれば、チームはもちろん、経営陣も安心できる。みんな実は、不必要に積み重なった仕組みを薄々感じていながら、何もしないのが一番不安だったのだと思う。そこにメスを入れるのが、自分に与えられた役割だった。
洗練された要望が生まれる
無駄な設定を削り取っていくと、障害の発生頻度が明らかに減った。ユーザからの要望は、より明確で洗練されたものに変化し、私自身の可処分時間が増えていくのを実感した。必要なところに力を注げるようになると、次のアクションを早い段階で起こせるようになる。
何より大きかったのは、自分たちがやっている業務をゼロベースで見直すきっかけになったこと。みんな安心したいから何かしていた、それは実は不安を紛らわすための行動だったのかもしれない。私は、不要なルールを取り払っていくことでこそユーザをサポートできると感じた。
まとめ
最初は仕様書がなくて右も左もわからなかったが、むしろそれが強引なリファクタリングを後押ししてくれた気がする。形骸化していた要素をバッサリ除去し、結果的にシステムをシンプルに保つことができた。
やらなくていい業務を証明して外していく。そこに私の存在意義があるとわかったとき、チームが心から安心して前に進める環境が作れるのだと実感できたのだ。