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星に飲まれた|散文

何時だったか、犬の鳴き声を人間の言葉に訳すという小さな機器で、山奥に居る狼の遠吠えを訳した番組を観た。
もうかなり前の事だけど、その翻訳機に出てきた言葉は「僕は何をすれば良い?」だった。
番組の出演者達は笑っていたけれど、私はとても切なく悲しくなった。
その気持ちは、未だに残っていてふとした時に思い出す。

どうしてだか、その言葉が自身に重なったから。

「私はどうすれば良い?」
心の中で反芻する。
悲しみが澱のように沈んでゆく。
どんどん底に溜まって、いつかは悲しみに全てを飲まれてしまう気がする。

夜空に点々と眩く光る小さな星。
あんなに小さいのに、とても美しい。
 
吐く息は白くマフラーをぐるぐる巻きにして、早めの散歩は頬が冷たくなり、少し感覚が麻痺する。
愛犬は毛皮で暖かいのだろうか?
スタスタと軽快に歩く。

私は夜空をチラチラ見ながら思い出す。

あの時の狼は、その後どうしているのか。
時々もう戻らない時間の中に自分を置く。

答えはないし、分からない事ばかりだけどそうしないと私の神経は磨り減り摩耗して、最終的に体調まで崩す。

いつまでも柔らかい記憶の中で留まっていたい。
現実はそう行かないけど。

寂しさと悲しみが降り積もる心が、いつか綺麗に澄み渡るまで私は生きなくちゃいけない。




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