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Kazu
2024年10月20日 20:56
頬切る風が、俺の頭を冷静にしていった。新宿の歓楽街を抜け、スラムの様な一角にそこはある。寂れたビルの3階。俺は手馴れた様子でドアノブを回した。「ねえ…あなた…」少し呂律の回らない言葉が聞こえて、慌てて身を起こした。妻の隣で眠るのはいつぶりだろうか。ソファーベッドで、いつの間にか眠りに落ちていた様だ。「どうした?」俺は妻の顔を覗き込んだ。妻は、顔をくしゃっとさせてこう言った。
2024年10月19日 01:26
「もしもし」慌てて出た携帯から聞こえて来た親父の声は、重苦しかった。「病室に来い」それだけ言って切れた。ざわつく胸を、どうにか冷静に保とうと努力しながら、最上階の個室に向かった。「あーあー、翼…翼ね…来てくれたのね。私の可愛いたった一人の息子。今まで何処に行っていたの?ママ探したのよ、いっぱいいっぱい探したわ。おもちゃ売り場にまたいたの?欲しいものがあったら言いなさい。何でも買ってあ
2024年10月17日 17:54
霞む視界に、かつて愛を誓った人が微笑んでいた。「…………」私が発した言葉も、彼が発した言葉も何も聴こえなかったけれど、私達は愛の言葉を交わしたんだと安心して、私は彼の胸に飛び込んだ。逆さまに落ちて行く、落ちて行く景色を私は幻覚の中で何度も見ている気がした。私の手を振り解き……あの人は遠くへ逝った。母親が病院で処置を受けている間、俺と親父は一言も交わさずに、じっと待合室のソファーに座っ
2024年10月16日 20:08
波の音がすぐそばで聴こえる。ボンネットの上に座り、煙草の煙を夜空に吹き掛けた。あの夜も…こんなに星が瞬いていた。15歳の時には、俺は夜遊びの常習犯だった。察にも何度も補導され、酒に酔ったままの母親が迎えに来るのはお決まりだった。帰れば母親からビンタされ、俺は殴り返した。父親は帰って来ても、直ぐに別宅に向かい翌日の夜に帰ってくる、それが我が家だった。父親は徹底して、俺を居ないもの