マガジンのカバー画像

短編小説/小説/ショートストーリー

-9
運営しているクリエイター

記事一覧

温もりが示す先|短編小説

温もりが示す先|短編小説

    おばあちゃん、勝手に出掛けちゃ駄目って言ったじゃない。危ないから、心配なんだよ?

    瑠花は口を尖らせながら、おばあちゃんの顔を覗き込んだ。

     澄恵は小さく微笑み、ごめんねと謝った。
その横顔を見て、瑠花は少し切なくなった。

    瑠花はおばあちゃん子だ。
両親からは、中途半端な愛情しかもらえず、いつも澄恵の部屋に逃げ込んでいた。

    だが、ここ数ヶ月、澄恵の様子

もっとみる
星の砂|短編小説

星の砂|短編小説

    今日も太陽が眩しいね。ほら、星の砂がこんなに輝いてる。

   「おい、お前、帰国子女だかなんだか知らねーけど、良い気になってんじゃねーぞ」
    僕の後ろの席から声が聞こえた。
言われてるのは、一週間前に転校してきたハノンだ。
名前から珍しく、周りの奴らは男のクセにと笑っていた。
見た目は、女子と変わらない身長、華奢で色白、サラサラな髪の毛、そしてちょっと気が弱そうな笑顔で、女子からは

もっとみる
遺書|短編小説

遺書|短編小説

    ええ、こちらで合ってます。
大丈夫ですよ、貴方様は何も間違っていません。
遺書をご所望ですよね? なら私の所です。

    そこのソファーにどうぞ寛いで下さい。
時間はあります。
ゆっくり話をお聞かせ下さい。
それから作業に入りますので。

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    左様でございますか。事情は分かりました。
では早速作業に取り掛からせていただきます。

もっとみる
ルビー|短編小説

ルビー|短編小説

    私の最近の楽しみは、窓から覗き込むツバメだ。
    このお店をオープンして三年になる。
常連のお客さんも増え、立地も静かで店内から見える街並みや、大樹の下のベンチに腰掛ける人々を観察するのも面白い。

     一週間程前から、そのツバメは姿を現す様になった。
窓辺に止まり、少しの間店内を見渡している。
その物珍しげに見つめる瞳が可愛くて、私の癒しになった。

    今日もお昼過ぎに姿

もっとみる
ピンクの象|短編小説

ピンクの象|短編小説

  「ねえ!私昨日の夜明け、ピンクの象を見たの!」
    寝起き早々部屋に入って来るなり、彼女は息を切らして開口一番にそう早口に言った。
僕はまだ半分夢の中。
「夢?」
「違う!本当に見たの!信じてくれないの?バカ」彼女の口癖だから、僕は気にしない。
 
  「あ、オールドファッションチョコ掛けある!食べて良い?」
聞いてる側から既に食べてる彼女を見て、少し目が覚めた。

    熱いブラックを

もっとみる
鯨と猫|短編小説

鯨と猫|短編小説

    真夜中
人間と言う野蛮な生き物が寝静まった時間
そこから僕の時間が始まる。

    高いトタンの屋根に座り、一番星を見つける。
あれはいつもの彼だ。

澄んだ空気が辺りを潤し
やがて夜空は漆黒に光る海になる。
潤んだ波が辺りを震わせ、大儀そうに彼は尾鰭を一つ打ち鳴らす。

    それが僕と彼の合図。

『やあ、今夜も来たかい?』雄大な体は濡れていて、所々に星屑が煌めいている。
『うん。

もっとみる