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「介護時間」の光景⑦ 「空」と「生々しい」4.30

  個人的なことですが、今から19年前は、母親が入院している病院に通う毎日でした。

 母親に急に介護が必要になり、その後、私自身が心臓の発作を起こしたこともあり、母に病院に入ってもらったのが、この前年の2000年のことでした。それなのに、ただ放っておいたら、症状が悪くなってしまうのではないか、と恐さにひきずられるようにして、片道2時間かけて、毎日のように通っていました。帰ってきてから、義母(妻の母親)の介護の補助をしていました。

 仕事もやめていましたから、ただ、それだけの毎日なのに、特に病院に行くことで、やたらと疲れていました。病院に通うような生活に変わって、8ヶ月くらいたちましたが、なかなか慣れることができず、ずっとうつむき加減で、歩いて、病院に行って、夜の8時の面会時間が終わってから、帰ってきていました。

 そんな生活でも、小さなことに、気持ちが向くことが、意外と多かったように思います。毎日の辛さから、少しでも目を背けたかったかもしれませんが、そういう気がつき方は、介護をしている時の方が、程度が強かったように思います。

19年前、2001年4月30日に見た光景です。

                  (多少の修正はしています)。



 帰りのバスに乗って、駅に向かう。
 窓に体をあずけて、外を見る。
 雨でぜんぜん見えないはずの、半分の月が、空のほぼ真ん中という場所に見えた。
 その周りだけ、雲がぐにゃぐにゃに丸くあいて、だから、月が見えていた。
 今だに、いつも帰りのバスで、やっと、少しだけ周りを見る余裕が出来るみたいだ。

                    (2001年4月30日)


 それから1年たった頃です。

 母の入院している病院に通い、帰って義母の介護をする生活はあいかわらずでしたが、看護師さんに声をかけてもらい、減額制度のことなども教えてもらい、なにより、気にかけてもらったことが心強かったので、ほんの少しですが、余裕が出てきていました。そんな変化が、気がつく出来事に、現れているようでした。

2002年4月30日に見た事です。
(多少の修正はしています)。


生々しい

 母の病室へ持っていくためのバナナを、駅ビルの1階の八百屋で買った。

「生々しい」

 果物の場所から、少し遠いところの、野菜のところにあるポップが、そう見えて、何だろう?と思って、近づいたら、
「生しい茸」
 だった。

                    (2002年4月30日)


それから18年たった。
 

 今日は、木曜日で、資源ゴミの日。
 午前9時頃に回収車が来た。
 トラックの横の仕切りを、手早く2人で、一段高くしていく。
 道端にある、色がバラバラの袋を、そこへ、積み上げる。
 思ったより、ソフトな入れ方で、だけど、テキパキと、マスクもなく、動き続ける。
 燃えるゴミの時は、クルマの後ろに放りこんでいくから、作業の手順が違うようだ。
 天気がいい。

 青い空の下で、当たり前のことなのだろうけど、その作業の動きに、何のためらいも萎縮も感じられない。
 これまでと変わらないであろう、日常的な、普通にエネルギーを発散しているような動きは気持ちがいい。
 あっという間に、トラックは去っていく。
 
 ご近所の人が、ホウキでアスファルトをはいている音が、シャシャシャシャシャと、しばらく途切れずに、聞こえ続けている。

                     (2020年4月30日)


 介護を終えて1年以上がたち午前5時就寝から、少しずつ早く眠れるようになり、今は、やっと午前9時前には、起きられるようになりました。

 ちょっとだけ、自分が社会人として、まともになってきたような気もしますが、ゴミ回収車が来るような時間に起きていて、この作業をみることができたのも、たぶん、10年ぶりくらいでした。

 やっと少し社会に復帰できるかも、と思う頃に、緊急事態宣言が発令されました。妻は、介護をしている時に、ぜんそくになってしまった事もあり、今は、なるべく外出しない生活です。
 テレビを見ていたら、緊急事態宣言が、「1ヶ月程度」延長されるという話を知りました。

 部屋にいたら、またトラックの音がして、「あれ、何度もくるの?」と妻に聞いたら、「さっきのはビン・カンで、あと段ボールとか、別々にくるんだよ」と教えてもらい、本当に知らないことばかりで、恥ずかしさもありました。そして、また音がして、ペットボトルが最後でした。

 外へ出て、少し歩いたら、道路に絵が描いてありました。落書きなのか、遊びのためなのか分かりませんが、いつも見かけるような絵よりも、少し時間をかけて描いたようにも見えました。


(他にもいろいろ介護について書いています。↓よろしかったら、クリックして読んでもらえたら、うれしく思います)。

「介護books」②介護が始まるかもしれない人へ。不安を(少しでも)減らすための4冊

家族介護者の気持ち③「死んでほしいは、殺意ではない」

介護の大変さを、少しでも、やわらげる方法②書くこと

「介護時間」の光景⑤ こいのぼり  4.19

介護離職して、10年以上介護をしながら、50歳を超えて臨床心理士になった理由③


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