たった一人の熱狂。
「引き続き、よろしくお願いします!」
ファミレスを出て、お見送りを済ませてから
僕は一人で店の裏に回る。
「うっしゃーーーーーーー!!」
他人に見られたら、ゼッタイ恥ずかしい。
だが、僕は過去最高に全力でガッツポーズをした。
それから少し間を空けて、高揚した自分を落ち着けるために、タバコを咥えて火をつけた。
煙を思い切り吸い込む。
ふぅーーと煙を吐いて、空を見た。
まっくらな夜空に浮かんだ煙が、風に流されて消えてゆき、それをぼーっと眺める。
ふと我に帰り、空いた手でスマホを開くと
交換した連絡先へお礼文を送った。
それから、会社に報告の電話。
「そうか、気をつけて帰っておいで。」
上手くいかなかった日にはダメ出しをくらう。
それも1時間は軽く超えるが、今日は上手く行ったのもあり、この一言だけ。
あっけないもんだ。
それから近くのバス停からのバスに乗り、駅に着いた僕は、新幹線乗り場のセブンイレブンでビールのロング缶を買った。
うん、今夜は飲もう。
新幹線に乗り込むとシーンとした車内にアナウンスの声が鳴り響いている。
昼は賑やかな新幹線も、夜の22時過ぎにもなれば、思わず身構えてしまうほどの静けさが広がっている。
僕はシートを全開まで倒して、ズボンのベルトを緩めると、椅子に深く腰掛け、背中をシートに預けた。
ビニールブクロから、先程買ったばかりの冷たいビールを取り出し、プルタブに指をかけ、クイっと引き上げた。
ぷしゅっ…
ビールの泡が飲み口から勢いよく溢れ出た。
まるで、今夜のあの瞬間のドーパミンのように。
キンキンに冷えたビールが僕の口内を、僕の喉を炭酸で刺激しながら流れ込んでゆく。
汗を流して歩いた昼のことも、
前日に不安で眠れなかったことも、
全てがビールの泡と共に弾けては消えてゆく。
きっとこの熱狂も明日の朝になれば、泡のように弾けては消えてしまうのだろう。
だが、今ここには確かに在るのだ。
僕以外は誰も知らない、たった一人の熱狂が。
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