読書感想文「天皇は宗教とどう向き合ってきたか」原武史 (著)
明治以降4代の宮中祭祀とそれぞれの「祈り」の話である。また,その立場が高度な政治性を帯びてしまうが故に,政治的正統性を主張するため,儀式典礼に拠り所を求めざるを得なくなった明治〜戦前の昭和の話でもある。
実は,この本に出てくる話題は,明治前半までの生まれの人たちにとっては,当たり前のことばかりであり,世間の気分としてもイキりたつ連中にバッカバカしいと思ってきたことばかりだ。天皇家の菩提寺は京都の泉涌寺だし,天皇号だって,傍系の光格天皇になって復活させたであって,それまでは院号でよばれた禁裏様や禁中様だった。世間に共通していたやんごとなき方々との付き合いを改めようとする動きに「やれやれ」と思ってきたわけだ。
そうした世間知が失われ,真面目な顔した連中の主張が通用し始めると,天皇そのものを知識として学ぶ必要が出てきた。デタラメやテキトーが流布し過ぎているし,そのことの弊害も多い。
何より,明治以降のそれぞれの皇后が結果的に持ってしまう権力に宗教からの影響が及んでしまうのであれば,そのことを統治機構の面からよくよく考えるべき,とも思わせてくれる一冊だ。
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