残像に口紅を/オタクについて
実家に戻ったら、妹が「最近これ読んだんだ」と文庫本を見せてきた。筒井康隆の『残像に口紅を』だった。
わたしもこの作品は、高校三年生か短大一年生のときに読んだ。その時は、テレビで芸能人が紹介しました! 的な売り出し方をしていて、普段はあまりそういう本は手に取らないのだけど、何気なくめくったら面白そうだったので購入したのだった。
なんと今は、この本はTikTokでバズっているらしい。そう本の帯に書いてあった。めちゃくちゃ売れているそうだ。知らなかった。
妹はわたしと対照的で、読書とは縁遠い生活をしていた。『残像に口紅を』も、友だちから借りて読んだものの「ちゃんとは理解できなかった。なんとなく気持ち悪かった」と苦笑いしていた。
それでいいと思う。読書大好き、SF結構好き! なわたしでも、難解だったところが多かった。3,4周読んで、やっと自分の中での考察と感想が出てきた本だった。一回読んだくらいで、感動した!これはすごいわ……みたいな感想が出るようじゃまだまだ本質に辿り着けていないんだと思う。
ここ最近の世の中は、文化的な趣味に熱中することが流行りみたいなところがあると感じる。音楽、読書、映画、漫画、絵画etc………平たく言えば、オタクに憧れている人が多い。でも、本物のオタクになるほどの熱量が足りていない輩は、書評を見て読んだ気になったり、アニメを早送りで一気見したり、ファスト映画に頼ることで"エセ"オタクを名乗る。
にわかファンはいいと思う。古参ぶるのはダサいし、やっぱり新しいファンが生まれ続けないと何事も発展しないから。でも、真のオタクが積み重ねてきた膨大な知識量の、良いとこだけ吸い取ってオタクを名乗るのはいかがなものかと思ってしまう。
とは言え、わたしももしかしたら「本」に対してそういった面を持って向き合ってることがあるかもしれない、と妹の真っ新な感想を聞いて思った。
児童書の紹介文や書評の原稿に追われている日々だが、ここは一つ謙虚に、時間をかけて取り組もう。