「羅生門」を見た(ネタバレあり)
比較的新作を中心に見てきたので、いわゆる名作ものを見たくなってど定番のものを見てみた。
教科書的な物語の進め方
この映画は、盗賊の多襄丸が関わったであろう事件について、たまたま雨宿りで出会った3人組の男が、事件について語り合うという形で話が進む。
3人のうちの2人は、実際に現場にそれぞれ遭遇しており、検非違使による取り調べの場において、証言を行なっている。その取り調べを受ける際に、他の事件関係者である容疑者の多襄丸、被害者の妻などからの証言も聞いていたので、それを回想していく形で物語は進んでいく。
映画の物語の進め方について詳しいわけではないが、それぞれの事件関係者が、目撃者の証言、容疑者である多襄丸の証言、被害者の妻の証言と振り返っていく手法は、今日の映画特にサスペンスものでは定型のパターンであり、黒澤明監督が初めて導入した方法ではないかもしれないが、この映画でもしっかりと完成された形で違和感なく表現されていて驚いた。
さながら推理映画的な印象
冒頭に「不思議だ」と繰り返すところから始まり、何が起こったのかの説明、多襄丸の証言と進んでいくため、見ていて推理サスペンスっぽい流れに感じた。そのため、余計にその後の、被害者の妻の証言などにも集中して入り込むことができたように思う。
非常に面白かったのは、死亡してしまった夫を降霊術で証言させていたところだ。ここは、その時代当たり前に行われていたことなのか、誰かの演出なのかわからないが、ニヤリとしてしまった。推理サスペンスものにイメージが引っ張られすぎだろうか。
世紀の盗賊・多襄丸?なのか?
多襄丸は、かなり有名な盗賊という前振りで登場し、狂気に満ちわ笑いをあげ威嚇するような行動をとるので騙されてしまいそうになるのだが、彼自身が証言の中で「夫を殺害しないで妻をものにできないかを考えた」と言っているところから、それほど残虐な性格ではないということがわかる。
また、夫を殺害する際にも、縛っている綱を切り1対1の戦いに臨んでいるところからも、彼がいわゆる盗賊のイメージとは違っていることがわかる。
さらに、被害者の妻から激しく叱責されるシーンでは、とても情けない表情を見せるところから、最後には「本当に有名な盗賊なの?」と思い、なんとなく親近感すら感じてしまう。
狂気、弱さ、そしてうちに秘めた、彼なりの公正さの演技を一瞬のうちに切り替えるところが、三船敏郎の巧みさではないかと感じた。
あわせて、彼の繊細な表情を白黒のフィルムという条件でうまく収めることに成功している撮影技術にも賞賛したい。