JAZZを殺したのは何か?
教育でジャズを身につけるという傾向が、世界的に強まっていると感じています。
人と人とのつながり、コミュニティ、ストリートから生まれてきたようなジャズ本来のルーツは薄れ、先生について勉強するものになりつつあるんですね。
NYのジャズピアニスト海野雅威さんがCOURRiER JAPONで語った言葉です。
確かにジャズというとバークリー出身かジュリアード出身か。
確かにそこに視点が行きがちです。
私も音楽のステージに携わる仕事もしますので演奏者の方と初めてお会いするケースなどそのプロフィールに話題が行きがちです。
しかしまず演奏、そしてその演奏者のスタイルに神経を研ぎ澄ますしてお会いしたいと、そう感じました。
さて、今回海野雅威さんの演奏するピアノの作品を聴きながらこのnoteに向かっています。
海野さんのことはお恥ずかしながら存じ上げず、その存在を知ったのは日本人ジャズピアニストの海野雅威さんが昨年、アジア系に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)によりニューヨーク市内の地下鉄の駅で暴行されて重傷を負い、病院に入院したというニュースでした。
そんなニュースを目にして当時とても胸が痛みました。
ピアニストが大怪我。
もしやもうピアノが弾けないほどの重症となっていないことを願うばかりであると。
そんなニュースから1年が経ち、日本でツアーがあることを知ります。
私の住む博多にも海野さんが来る。回復されたんだ...。
なんとも嬉しかったことを覚えています。
そんな気持ちも相まって最近はずっとそんな海野さんの参加する作品を聴きながら仕事を進めています。
私は以前、著名な音響生態学者のゴードン・ヘンプトン氏の考え方に触れ、感銘を受けました。
地球の静寂を保存するという活動を続けている方です。
彼の「静寂とは何か」という問いを彼の定義でいくと”人工音のない世界”であるということ。
自然に存在する音だけであるということですが風や波、草木がそよぐ音、虫の音などそういう生命に包まれた音は静寂であるということなのです。
このコロナ禍の中でその問いはまるで身体の中に染み込んでいくようでした。
翻って自分自身に照らし合わせた際に、静寂とは何かという問いに行き着きます。ここでスタンダードのジャズピアノのソロなどは私にとって無音以上に静寂に包まれている感覚があります。
海野さんのピアノを聴きながら仕事を進めているとゾーンに入ったような感覚となるので不思議です。
そこで論争となるのはjazzはBGMなのかという話。
以前、私はミニシアターで映画「ジャズ喫茶ベイシー」を観ました。
あのカウントベイシーから取られた名前なのですが、日本海外問わず一流のジャズマンが集う名店です。
岩手県一関市、ジャズ喫茶「ベイシー」のマスター・菅原正二氏はこんなコメントを映画の中でします。
「JAZZを殺したのはBGMなのだ」と。
この言葉は私にとってとても印象的な言葉でした。
私は空間のBGMを設計する仕事をしています。
BGMで心地よい体験を提供するためには’BGMとは何か’という問いと対峙しています。
カフェやホテルそして商業施設におけるBGMを考えた時、有線のジャズチャンネルを流している空間は確かに多い。
そしてその音は空間に溶け込んで存在を無くしています。
これはある種のその空間の静寂を作っているのかもしれません。
しかしこれはその空間にジャズが心地よいと感じる人にとっての静寂なのだと想うのです。
つまりそうでない人が聞いた際、ジャズは違和感や異物感になる場合があるのです。
そのケースにおいては静寂は生み出すことは出来ません。
さて、話を元に戻します。
私はこの海野雅威さんというジャズピアニストの音が聴きたいと感じその空間の中で静寂を感じています。
これは自らこの空間のために選ばれた音でそして自分の求める音量で流され空間との調和で存在します。
この意味で私にとっては体験を高めるためになくてはならないものとなっています。
こんな風に日々音楽やBGMというものと付き合っている。そんな気がします。
海野雅威さん、マイルス・デイヴィスの名盤『サムシン・エルス』のピアニスト、ハンク・ジョーンズの最後の愛弟子で2008年からニューヨークに移住し、現在は自己のバンドだけでなく、マイルス・バンドのドラマーだったジミー・コブ・トリオのピアニストとしても活躍しています。
マイルスの遺伝子を受け継ぐ男と言われているそうです。
そんな才能あふれるピアニストの彼ですが、私にとっての小さな縁は私の所属する会社がずっとホテルにおけるビッグバンドジャズセッションをプロデュースしてきました過去がありますが、その音楽監督が故・世良譲さんでした。
この世良さんがその才能に惚れ込んでいたピアニストと冒頭の悲しいニュースで紹介され流れたことで知ることとなりました。
亡き世良譲さんに対する想いとともにこの海野さんのご活躍をお祈りするばかりです。
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